第三話
「ずいぶん遅い初登校だな。倉本」
クラスに入って最初に声をかけてくれたのは二十代前半くらいのすらっと伸びた脚が綺麗な女教師。黒髪が似合う超美人さんだが、正直次に思ったのが恐怖だった。
「うす。すいません。登校中に色々ありまし――」
「言い訳はいい。とっとと席に着け」
「うす」
ちょっとくらい聞いてくれよ。と俺は思いながらも自身の席へと移動した。目的地が一番後ろなため、座っている奴らの視線がいたい。
席は一番窓側。最初は名前順で席にを決められるから当然の俺の前の生徒は「く」より前ってことになる。
そして、俺の隣のこいつは「く」より後ろってことだ。なんかちょっとした優越感。
「おっす。これからよろしくな」
「!? ああ。よろしく!」
挨拶がてらに声を掛けただけなのだが、何故か物凄く喜ばれた。笑顔がとてもまぶしいなぁお前。
「えー。とりあえず君たち。入学おめでとう。私は君たちの担任の遠藤真理恵だ。これから一年間よろしく頼む。次に君たちの事項紹介をお願いしたい。とりあえず順番に窓側からお願いしようか」
淡々と自身の自己紹介を終わらせた遠藤先生の指示に従い、窓側出席番号順にクラスメイト達の自己紹介が始まった。
一番初めは女子のようだ。ポニーテールに結った茶色の髪しか見えないが、おそらくかわいい子なんだろうなぁと俺は勝手に考えていた。
「安瀬岬です。趣味は絵を描く事で、得意科目は英語です。これから皆さん。よろしくお願いします!」
ふわりと柔らかいその髪の毛を靡かせながら、クラスメイト達に向き直した彼女。安瀬さんは、思った通り可愛い系美少女だった。腰が細いからか胸が人並より大きく見えるな。遠くからでもわかるピンと伸びたまつ毛にスッと形の良い鼻立ち。
間違いない。彼女は美少女だ。だってクラスの男全員が彼女を見て鼻の下を伸ばしているもの。俺もだけどな。
自己紹介を終えた安瀬さんは着席。続いて後ろの者が自身の紹介をしていく。
そしてそれはいずれ俺に回る。なんて言えばいいのかな。無難に趣味と特技を言えばいいのかな? でも趣味って今でも続けているプロテインを飲むことくらいしかねえ。特技ってなんだよ。野球部でもないのにフォークボールを投げられる事か。ストレートなら百五十五キロ出せることかな。ジャイロ回転できるし。どこの吾朗君だよ。
「はい。じゃあ次」
「うす」
俺の番だ。早すぎだろうみんな。
「え~。倉本良介です。趣味は身体鍛える事で中学では水泳やってました。嵌まってるのはこれからの自分が如何に社会として役立てる人間かを考える事で、今やっと中の下に行き着いたところです。一年間、よろしくお願いしまひゅ」
やだ。最後噛んじゃった。ちょっと恥ずかしいけど、さりげなく凄い事言ったし、みんな俺に注目してるよな。
「……ん?」
目を閉じてしまっていた。いかんいかん。集中するといつもこうなるから忘れてた。
閉じていた瞼を開けてクラスメイト達の顔を見ると、何故かみんなドアの方に視線を向けていた。
何なの? 俺のこと無視? もしかしてくるのが遅かったのを怒ってるのかな? と自分で言って寂しさと焦りで一杯の俺だったが、視線をみんなと同じ方向へ向けると、誤算であることがすぐわかった。
「す、すいませ~ん! お、遅れました~!」
ゆるゆると大きく声を発して、身体全体を息をする女子生徒。彼女が動く度にその豊満なお胸が、おう……。
「お前は……え~と、水島だっけか?」
「はい! 水島紗代と申します。趣味は園芸で特技はコマ回しです!」
「いや。別に誰も自己紹介しろとは言ってない。確認を取っただけだ」
遠藤先生はハアと息を吐いた。て言うかその前にコマ回しって意味が俺の思っているコマ回しと違ったんだけど。俺の話を全文略すの方のコマ回しじゃないよね?
「ともかく席に着け。自己紹介の途中だ」
先生に言われ、水島は「は~い」と元気よく声を上げて自身の席へと向かった。
「あ~。倉島は終わったので、次!」
え、マジで終わり? 俺の最初の一歩が誰にも知られずに終わっちゃったよ。
て言うか倉島? 先生、俺は倉本ですけど。島じゃなくて本ですけど!
「いや、あのせんせ」
「河本大輔です! 趣味も特技もありません! 強いて言うなら可愛い女の子たちが出てくるカードゲームを集めることです!」
「河本貴様ーーーー!!」
俺の願い空しく、今初めて知った河本君に全てを持って行かれてしまった。許すまじ、河本大輔。