第二話
あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ!
俺が道角を曲がろうとした五秒前に、突如足元が持って行かれて道の溝にはまってしまった。そしたら、俺の後ろを歩いていた奴と道角を曲がろうとした美少女がゴッツンコしやがった!
な……何言ってるか……わかるよな。つまり、こう言うことだ……リア充爆発しろ! いや、自爆しろ!
「ご、ごめん。大丈夫か?」
「う、うん平気。ちょっと急いでて、ちゃんと前見てなかったよ。エヘヘ」
美少女は太陽をしのぐほどの微笑みで野郎を見つめた。
案の定、野郎の方はその笑顔を見て顔を真っ赤にしてやがる。なにあれ、ちょー羨ましいんだけど。
「あ、いや、え、えっと……。あ! 膝から血が出てるよ!」
「え……あ、ホントだ。転んだ時にやっちゃたのかな」
「ごめん! えーと、これ!」
「え?」
と言って、野郎が出したのは青地の布で出来たハンカチだ。美少女はそれを受け取っても、どうしていいのかわからないでポカンと口を開けたままである。
「それ使っていいから! とりあえず、学校に行って保健室に」
野郎は早口にそう言うと、美少女の手を取って歩き始めた。お前ハンカチ渡したのに、それを膝にあてる時間もあげないの? 何やってんの?
溝にはまった靴に泥が溜まっていく。やだ重くて動かないわ。しかも前方の塀の上にいる猫がこっち見てる。あ! 笑った! 白い目でこっち見てやがる!
「ちくしょ~。俺の反応が、あと十秒早ければ、あそこにいたのは俺だったのに……!」
今起きた己の不幸に地団駄を踏みたい気持ちを込めて、猫に向けて威圧的な視線を向けた。
「そもそもなんだよ。あの野郎。童貞丸出しの雰囲気だしやがって……」
顔真っ赤にしちゃってなんだよあれ。あれか? 女の子に話しかけられるだけで緊張しちゃあれか。女ことちょっとふれ合って「あ……ごめんね」て言われたら、「あいつは俺に惚れてる」って思っちゃ程にあれか。
THE・童貞オーラか。童貞大賞でもとっちゃう感じか。
そう考えていると、白眼猫(命名俺。白い目で俺を見てたから)が、俺に裂空斬をして来やがった。倒れた俺を一瞥して、猫はそのまま立ち去った。
去り際に「端役め……」と言われた気がした。やべ、泣きそう……