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第五話 はなし を きこう !


 それはさておき、残っているクランの話だ。

「全部言ってたらキリが無いんでな。俺やソーヤが気になったクラン、あと有名どころを()げるぞ。

 アイザックぁクランとか気にしないからな。ライオはすぐ忘れる。アニーはどういうのが強いのか分からん」

 それでいい。三人はまあ……仕方ない。

 そして、視界の隅で自分のクランの名前が上がらないものかと期待する三人の視線が熱い。

 シドも気付いていたらしく、苦笑している。

「まず有名どころだと、‘ヒューマニズム’。去年加入したノッチが力をつけて……ってお前だよな」

 指された男がハイ! と嬉しそうに叫ぶ。シドは顔が広いようだ。

「見たとは思うが、」

「見ていない」

「…………そうか。ノッチは剣の使い手だ。時々左手から右手に持ち替える。あれは癖か?」

「はい!」

「そうかー。

 で、次に、ソーヤが気にしてたのは‘プリンシプル’。そこのが所属してたな?」

「はいっ」

 青年が直立不動になる。

「ここぁ魔法を得意としてる。試合中こいつは一度も魔法を使わなかったが、それを頼りに無防備でいくのは間違っている。

 リィンお前、魔法ぁ使えないんだったな」

「……使えるが、使えない」

「は?」

「前に試しに思い切って使ったら、半壊した」

 魔王の城がだ。シドには言えないが。……あれは修理が大変だった。四天王の一人に多大な迷惑をかけたのを覚えている。

 シドが微妙な顔をしていた。

「つまり、危険だから使えないと」

「それもある」

「………………そうか。

 リィンお前、魔法に対抗する(すべ)ぁあるか?」

「目視しない?」

「…………クラン全員で教える。それで、もう一人ソーヤが気にしてたんだが、‘デビルパワー’とかいうクランにおかしいのがいた。新参のクランだ。

 ガキぐらいの体格なのに、怪力だった。多分おっさんだな」

「多分?」

「フード被ってて顔が分からなかったんだよ。

 技術はゼロだ。ただ、異常な馬鹿力だった」

 そんなのもいるらしい。

「馬鹿力ぐらいなら、一気に間合いを詰めればいい話だろう」

「だな」

 ニッと笑ったシドが次に、と言おうとしたところで国の者がやってきた。やってきて、シドに動揺して剣を向けた。

「何者だ貴様!」

「こいつのクランのリーダーですぜ何か?」

 高飛車な男だなとリィンが眺めていると、トーナメント表を配られる。開始時刻まで記入済みだ。

「毎年のことであるが、所属クランの個人戦、団体戦は重ならないように組んでおる。是非応援に行くように」

 推奨するのか。言われずとも行くつもりだったが。

 リィンの次は二日目、

「俺らが終わって、昼過ぎか」

 では、明日は試合まで団体戦の会場に居座ろうと考えたリィンだった。



 退室の許可をもらい、シドと共に会場をあとにする。

 会場のそとで、団員たちが待ってくれていた。

「リィン!」

 ぺかーと輝かんばかりの笑顔でアイザックが寄ってくる。腹にボディーブローを食らうが、彼としてはじゃれているだけなのだろう。

「リング戦通過おめでとー!」

 この声を区切りにわっと他の三人も寄ってきて話を始めた。

 ライオの袖を引く。

「団体戦の対戦相手は決まっているのか?」

「おー。リーダーいわく『一人一人がいつもの調子で戦ったら普通に勝てる相手』なんだとよ。俺は良く知らねぇけど」

 知り合いでもいるらしい。改めてシドは顔が広いと思う。

 リィンはじっと、ライオを見た。

 ライオの強さは、魔法が無いとはいえ、かなりのものだろう。彼だけではない。このクランの団員全員がだ。

 シドはもちろん、それぞれが、自分の得意な分野を開発し、強さを会得している。そうリィンには感じられた。

 戦わずとも、強いか弱いかぐらいは分かる。細かい強さまではシドのように戦わなければ分からないが。

「リィン、聞いてるかー?」

「すまん聞いていなかった。何だ?」

「そこで聞いてないって素直に言えるリィンが好きだぜ……」

 話をしていたらしいシドがへこむ。ソーヤがあとを引き取り話してくれた。

「個人戦団体戦どちらにも関係のある話です。ちゃんと聞いてくださいね?」

「う、うむ」

「これから、試合前になるとタグをはめ込んだ指輪もしくは腕輪を装着させられます。

 これは所持者の体力を測るというもので、戦闘で傷ついたり体力が切れたりと命の危機に陥った時、医務室にテレポートするようになっています」

「アイザックぁ転送しなきゃ血まみれなっても戦うからなー」

「悪かったですよ!」

「……まあこんな訳で、やり過ぎて参加者が死なないように、という配慮です。どこのトーナメントでもこのタグは使われていますよ。

 また、タグでテレポートすれば戦闘不能と見なされます。

 分かりましたか?」

 シドとアイザックの会話を無視したソーヤはリィンに笑みを向ける。何となく胡散臭い笑顔だなとは思ったが、まあいいかとリィンは頷いた。

 それはともかく、そのような面白い魔法が開発されていたらしい。タグが配られたら少し(いじ)りたいなとリィンは期待した。

 辺りは既に夕暮れ時だ。昼食を食べたかと首を傾げたが、試合が始まる前にパンをかじったなと思い立った。

「晩飯ぁどこで食うよ?」

「パブか、どこかおいしそうな場所がいいですね。アニーさん、いい店覚えてますか?」

 話をふられたアニーが、じ、とリィンを見つめる。

「……リィン君はどういうお料理が、好きなの?」

「別に好みは無い。ただ、生臭いのはダメだ」

「お肉は?」

「好物だ」

「じゃあお肉屋さんに行きましょう」

「肉ー!」

 アイザックが嬉しそうに跳びはねる。食べ盛りらしい。

 アニーの先導で肉屋に向かう。道中、リィンは団員の戦い方を聞いてみた。

 アイザックとライオは見たままの剣士。アイザックはやや大きい剣で、ライオは細長い剣を扱う。接近戦担当。

 アニーは回復担当。ただし魔法書を読んでいるので、火・氷・雷など攻撃魔法の小さいものなら使えるらしい。ロッドを扱う。また、借りた魔法書も常備しているらしい。

 ソーヤは弓使い。つまりは後方援護担当にあたる。早打ちが得意らしい。また、魔物に効く矢を討てるのだという。リィンは少し警戒しようと決めた。

 シドは格闘技専門。接近戦担当だ。普段はナックルを使っているが、必要に応じて剣や鞭、カードなど身近なものを扱っても戦えるらしい。

 それから、今派遣でこの場にいないステラ。彼女もアニーと同じく魔法専門の後方援護担当だが、回復魔法は使えず、しかし攻撃魔法の力は段違いに強いらしい。また、彼女のみが使える独特の技があるという。

「独特の技?」

「名前は『マジックバースト!』」

「原理もステラにしか分からない門外不出(もんがいふしゅつ)の技だ。ま、アレがあるから剣を持ってるんだけどな」

「どのような技だ?」

 焼肉屋に着き、席に案内されながらリィンが尋ねると、そばを歩いていたライオがあっさり答えた。

「連続技っての? まず魔法を敵にあてて、それからそいつに肉薄して攻撃する」

 それぐらいなら普通にできるではないか、とリィンが思ったそのとき、まるで心を読んだかのようにソーヤがただですね、と口を開いた。

「ステラの技はその魔法から攻撃までの時間がとても短いんです。まさに魔法を当てた相手に吸い寄せられるかのようにね」

「見たら分かるって!」

 アイザックが自信満々に言い、肉の注文を始めた。



 そして数十分後。

 ソーヤが頭を抱えていた。

 リィンは連中を白い目で眺めていた。アニーもだ。

 三人の目の前では、出来上がったシド、アイザック、ライオがどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。肉や野菜は既に完食したあとだ。

「嫌な予感はしてたんです…………」

 ソーヤの口から低い、地獄からはい上がるような声が発せられる。

 肉を注文したのち、飲み物も注文した。シドとソーヤはビール、アニーは水、未成年連中はそれぞれアルコールのない飲み物を頼んだ。

 が。

 どういうわけかアニー以外全員同じ液体が運ばれてきて、さすがにおかしいと思ったリィン、ソーヤ、アニー以外の三人がそれを飲み、現在に至る。

「ビールだな」

「そうですね」

「すみませーん」

 アニーが店員を呼ぶ。

 用件を伝えると、店員の顔が真っ青になった。

「申し訳ありません!」

「ああ……本当に申し訳ないと思うのでしたら、間違った飲み物の代金すべて無料にしてくださいますよね? もちろん本来注文した飲み物も用意して。あ、瓶に入れて」

 にっこりと笑ったソーヤが怖い。店長は冷や汗をかきながら何度も頷く。

「それから、迷惑料をかねて五パーセントオフ。明日、クラントーナメントの試合があるのです。

 負けたら…………ね?」

 店長はもはや首振り人形だ。

 さすがに哀れになったのでリィンが止めると、ソーヤは仕方ないなあと爽やかな笑顔を見せ、酔っ払い三人のビールを回収した。

「ソーヤぁ! 帰せよー!」

 アイザックが赤い顔でそう騒げば、シドがそうだそうだと便乗する。ライオは飲めなくなったからか、椅子にもたれかかって寝てしまった。

「アイザック君、君は未成年です。シド、明日の試合で負けるつもりですか」

「「えぇー」」

 二人とも不満の表情だ。

「これはもう意識を落とした方が楽ではないのか?」

 リィンが呟くと、アニーが突っ込む。

「私達じゃ、リーダー運べないよ」

「運べるぞ?」

「………………うそ」

「事実だ」

 シドの腰を掴んで肩に担ぐ。酔っ払ったシドはひゃははと訳の分からない笑い声をあげているが、その光景を眺めている人々は、有り得ない物を見るような顔をしていた。

 アニーの目が丸い。

 人間が筋力の無い生き物だとは聞いていたが、驚かれるとは思ってもみなかった。

 何かしら弁解の言葉を吐き出そうと口を開いたリィンだが、顔を輝かせ立ち上がったソーヤに阻まれた。

「それなら話は早い! アニーさん、アイザック君を歩かせてください。あと瓶を持って。僕はライオ君を運びます。リィン君、シドをお願いしますね」

 言うが早く、シドに瓶の一つを飲ませる。シドは白目を剥いて倒れた。

「シド!?」

「泥酔させました」

 説明はよく分からなかったが、素直にシドを肩に(たわら)のように担ぎ上げ、空いた腕で自分の瓶を持つ。アニーはアイザックを立たせている。ソーヤはシドが倒れてすぐに会計に向かった。

「遅くなりました」

「んー……」

 ライオが目を覚ます。彼は何故かリィンを見て、子供のように口を尖らせ文句を言った。

「ずるい」

「は?」

「リーダーずるい」

「シド殿がか?」

「俺もリィンに担がれたい」

 何だそれは。

 リィンが何も言えずに絶句していると、ライオはシドを担いでいない方の腕に寄りかかり、ほお擦りしてきた。

「!?」

「なー…………ダメ?」

 男の上目遣いなど吐き気がするだけだと思っていたが、どうやら例外もいるらしい。

 顔が良いせいだろうか。ギャップにやられるというやつだろうか。

 リィンは不覚にもときめいてしまった。

「………………仕方ない。すまないがソーヤ殿、瓶を持っていただけるか」

「いいですけど……大丈夫ですか?」

「構わん」

 ライオを肩に担ぎ上げると、彼はへへ、と笑いをあげた。

「あったけぇや」

「そうか。暴れるなよ」

「おー」

 夜、大の男二人を肩に担ぐ妙齢の人物リィンはかなりの注目を集めながらホテルに着いた。

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