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第四話 みんなで はなそう !


「集合な」

 シドを中心に集まっている。

「全員、さっきの話ぁ聞いていたか?」

「聞いてませんでした寝てました!」

 元気に手を挙げるアイザックに、シドは怒ることもなく実に自然にソーヤを呼ぶ。

「ソーヤ、アイザックに手早く説明」

「はいはい」

「それでだ」

 シドは眉を潜めた。ソーヤとアイザックは放置である。

「確かに討伐依頼ぁ出ていた。それに、闇を防御できる指輪も魅力的だ。

 でもな、よく話を聞けば割に合わないんだよ」

「どの辺りがスか?」

「だってあの国王(デブ)、一言も人員を裂くたぁ言ってないだろ。

 つまり、実際に魔の島に向かうのは、ドラム・カップと、ラスカノン・カップの優勝者のみだ。

 勝てるわけない」

 シドは実に冷静に話を聞いていたらしい。

「それに、もし例の魔物が魔王になって世界征服するのが怖いんなら、今のうちに倒せば()む話だ。

 つまり、この話は根本的におかしいんだよ」

「それには同感だ。

 現在全くお……魔王からの進撃(しんげき)は無い。それをわざわざ攻撃するのは理に適わない」

 俺、と言いかけたのはご愛嬌だ。

 アイザックに説明していたソーヤがそれに、と口を開く。

「最近帝国は木材などの資源が不足している聞きます。今回のこれも、恐らくは魔の領土を狙ったものでしょう」

 そんな理由で狙うような土地なのか、と内心驚いていると、シドが苦い顔になった。

「ソーヤぁ帝国がメインだって思うか?」

「でなきゃ闇封じの指輪なんて用意できませんよ」

「…………まあ、そうだな。

 帝国かーうわーめんどくせーなぁ」

「僕だって。

 まあ、だから、どんなに利を説こうがこの遠征は決行されるでしょうね」

「何か、遠征を阻止する方法は無いのか?」

「僕達一般人には無理です。

 もしかして、魔王サイドの者がやってきて、人間なんか襲うかよバーカみたいなことを言ってくれたら、建前失って中止になるかもしれませんが」

「分かった。当たってみる」

「という訳で僕達は素直にトーナメントを受け…………え?」

 ソーヤが目を丸くしてこちらを見た。

 他の団員もだ。

 リィンはゆっくりと、聞こえるように言った。

「知り合いに、魔族がいる。魔王とも繋がりのある奴だ。

 そいつに、今度会ったら、頼んでみる」

「え、えええ!?」

「昔、前後も分からないころにそいつに拾われた。今でも連絡は欠かさない」

「お前も!?」

 アイザックが嬉しそうにリィンにしがみついた。

「お前……も?」

「おう! 魔物に襲われて死にかけた時に、魔族に助けてもらった! 魔物撃退してもらったんだぜ!」

 魔物。

 そのような報告は一切受けていない。


 法律では、魔族……人型での渡海は人間に害を為さない者を限定して許可してある。リィンもそれを利用して渡ってきた。

 しかし、魔物の渡海は許可していない。発覚すれば厳罰に値する。

 人間に会ってもいいが、余計な波は立てない。波を立てて、うっかり戦争になどなってしまっては困るからだ。魔物のような「人の言葉を話す生き物」は間違いなく世間を混乱に陥れてしまう。


 現に、魔物が渡海して騒ぎを起こして、魔王討伐などという荒事に発展している。

「………………魔物の被害は、多いのか?」

 静かにライオが口を開いた。

「年に五、六回が多いのか少ないのか、人によるだろ」

 気配がビリビリと張り詰めている。怒っているのだろうかとライオを見ていると、シドが彼の頭をグーで殴った。

「でっ」

「眉間にシワが寄ってるぞ」

 言われたライオが眉間を揉む間、ソーヤが目を伏せた。

「………………ライオ君は、討伐に参加したいですか?」

「別に。

 ただ、お袋を食った奴だけはこの手で殺す」

 リィンは呆然とした。

「……………………食った?」

「頭からバリバリな」

 先程から変わらず静かで冷静、いっそ冷酷に見えるライオは辛かったはずの光景を言葉に出す。

 人食いは先々代が立法し、禁止となったはずだ。

「そんな」

「リィンが真っ青になってどうするよ。普通は俺が取り乱す側だろ」

 そう言うライオ。

 彼は、大切な人を亡くしていた。

 己の監督不行届のせいで。

「………………っ」

 不意に、土下座の衝動に駆られる。

 もしこの場に他の団員がいなければ、間違いなく土下座して、洗いざらい自分の素性を吐き出していただろう。

 だが、出来なかった。

「何と言うか……すまん」

「何でリィンが謝るんだよ。

 あー…………それから、俺は討伐嫌スよ。なんか嫌だ」

「何でだよ?」

「本能? つか魔王討伐に行くくらいなら風の谷に出没してる魔物を倒しましょうよ。

 リィンも落ち着けー」

 頬を引っ張られる。

 たしかに、魔物を倒す方が先だ。

 だが、登録したからにはトーナメントにも出なければならない。

 シドが依頼の紙をひらひらと振りながら、注目と団員に声をかけた。

「十日間とは書いてあるが、ぶっちゃけそいつぁ試合数が多いからだ。だから確実に二、三日は暇になる。

 その日に情報収集して、ステラに確認してもらうか」

「またステラ姐さんにですか? 可哀相ですよー、姐さんパシりみたいで」

「少し寄り道するぐらいだ。つかお前、あいつをパシリとかよく言えるな………………」

 アイザックの非難をかわしたシドは結局、とまとめる。

「討伐にゃぁ参加しない、よって優勝しない。ただし、クラン(うち)の誇りにかけて決勝までは勝ち上がる。いいな?」

(おう)!」

 元気に答えたのはアイザック。ソーヤとライオは頷き、アニーははいと返事をする。

 リィンも、うむと呟いた。



 入口に戻ると、ドラム国の兵隊から紙を渡される。

 シドの予想通り、第一回戦が多いようだ。団体戦は二日目から、個人戦はこの後すぐとなっている。

 また、何故か団体戦のトーナメントは作成してあるのに、個人戦は何時から試合としか書かれていない。

「個人戦ぁ第一回戦として、十人ぐらいがまとめてほうり込まれる。その中から四人だけが次に進めるようになってるぜ。

 トーナメント表ぁその十二人が決まってからになるな」

「リングから出せばいいのか」

「もしくは気絶、降参な」

 呼ばれる。待合室に向かう列に紛れると、後ろからシドに「観客席にいるからなー」と声をかけられた。

 見られるのか。少し恥ずかしいな。極力目立たないようにしよう。

 そんな事を思いながら流れに従って歩いていて、ふとあることに気付いた。

 前にシドとやり合った時は、ライオに剣を借りていた。既に返却済みだ。

 つまり。

 リィンは今、武器を持っていない。



 結局、諦めて素手で戦うことにした。対戦相手から武器を奪えるならそれにこしたことはないが、まあそれは後だ。

 闘技場の広場に出た。観客席が数段高い位置に、ぐるりと広場を囲むように設置されている。観客数は少ない。

 大きなリングに十人ずつ分けられて入れられる。リングは計三つだ。リィンは真ん中のリングに入れられた。

 先程シドから聞いた通りの説明が流れる。演説の後だからだろうか、リングからも観客席からも熱気がうかがえる。

「リィン!」

 声に観客席を見上げると、アイザックが笑顔で手を振っていた。振り返すと、ライオがアイザックを押し退けて手を振り出す。振り返すと、アイザックが何やらライオと喧嘩を始めてしまった。


『始め!』


「おっと」

 直ぐに攻撃をかけられる。よそ見をしていたせいで目をつけられていたらしい。

「新入りちゃんよお、魔王討伐の花は先輩に持たせるのが筋ってもんじゃねえのかなあ?」

「無駄口を叩くぐらいならさっさとここから出ろ」

 がら空きの胴を掴み、男の勢いを利用してリング外に放り投げる。二人目の男は鳩尾に拳を減り込ませると気絶した。

 リング内を見ると、もうリィンを入れて六人にまで減っている。あと二人、誰かに抜けてもらわなければいけない。

 気絶した男の剣を拝借(はいしゃく)し、ついでに男をリング外に放り出す。中に転がっていてはつまづきかねない。

 使い慣れている剣よりは長いが、まあ使えるだろう。

 改めて確認する。

 かたまって話していた屈強な男四人が二人ずつに分かれ、それぞれの剣をリィンともうひとり、小柄な青年に向ける。どうやら手を組んだらしい。

 子供のような青年に男二人で挑むのか、と野次が聞こえる。リィンが女だとは気付いてもらえないらしい。少しばかり落ち込む。

 まあ、女でいて良かったことなど一度も無いのだが。

「さて」

 男二人はリィンを左右から挟み込むつもりらしい。

 リィンはひとつ、溜め息をついた。


 面倒だな。


 片方の男に突っ込む。リィンの剣を男は鞘で受けたが。

「残念だな?」

 対シドでは見せなかった、リィンの本来の力をほんの少しだけ発揮すると、鞘はあっさり砕けた。剣を反転させ、柄で男の頬を殴る。

 男は軽々とリング外に吹っ飛んでいく。

 事態が把握できていないもう一人に駆け寄り、今度は(うなじ)のツボを軽く叩き、気絶させた。

 気絶した男をリングに放り出し、このリングを見ていた審判に声をかける。

「終わったぞ」

「え、あ、だ、第二リング終了!」

 リィンと同じく狙われていた青年は命からがら助かったらしい。

 退場するよう言われたのでリングを降り、別のリングの前を通って待合室に向かう。まだ試合をしているようだ。

 その時。

「?」

 何かを感じた。

 知っている何かだ。

 結局よく分からず、リィンは広場から退場した。



 残り二つのリングが終わるまで、四人とも同じ待合室で待機させられた。空気……雰囲気はとても悪い。狙われていた青年が縮こまっている。

 リィンも男二人に若干ジロジロと見られたが、睨み返すと彼らは見ないようになった。

 トーナメント表を作成して今渡すのだろう、と検討はつく。

 暇だな眠たいなと思っていると、男二人が恐る恐る声をかけてきた。

「あんた、どこのクランだ?」

「‘風の谷まで’」

「「ひッ!?」」

「何か」

「お、お前みたいなの、ついこの間までいなかっただろ!?」

「当たり前だ。昨日入った」

「昨日!?」

「それでいきなり個人戦に抜擢!?」

「というより、俺しかいなかった。団体戦に五人回すと」

「? お前入れて七人じゃないのか?」

「一人派遣中」

「誰?」

「教えない」

 明日には分かることであっても、情報は与えない方が良い。それに、夜に対策でも()られたら厄介だ。

「そう言うお前達はどこのクランに?」

「ヒューマニズム」

「ユートピア」

 おかしな名前だ。

「意味は?」

「さまざまな抑圧や束縛から人間を解放し人間性の尊厳を確立」「空想上の理想的な社」

「やっぱりいい」

 どちらも面倒そうな意味合いのようだ。

「おーいリィン」

 聞き慣れた声に扉を見ると、シドがニヤニヤと笑みを浮かべて立っていた。

「シド殿か。何だそのイヤラシイ笑顔は」

「いやらしい!? 俺嫌われたか!?」

 突っ込みつつ隣に座る。

 硬直するヒューマニズムとユートピアの二人と青年に邪魔するぜと軽く手を挙げたシドは、それで、と口を開いた。

「まずぁ第一回戦通過おめでとう」

「ありがとう」

 素直に褒められたのは初めてだ。少しドギマギしてしまう。

 他の面子もいるのかと扉に目をやると、シドが手を振った。

「待合室にゃぁ待機しているクランのリーダーしか来れない。

 誰に来てほしかったのかな~?」

「ウザイ五月蝿い黙れそして帰れ」

「激しいな!?」

「おっさん丸出しの発言をしたシド殿が悪い」

 ごめんごめんと謝るシドは、やはり大人なのか、さくっと話を用件に戻した。

「ついさっき他のリングの試合も終わったんでな。ざっと残っているクランについて話そうと思って来た」

 リーダーらしい事をしている、とまじまじ彼を眺めると、シドは笑った。

「これでもリーダーだからな」


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