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第三話 いらい を うけよう !


 シドを待っている間、クランに宛がわれた部屋で人間のゲームをしていると、シドが赤い宝石を持って帰ってきた。

「シド殿! ババ引いた!」

「リィンそれぁ引いちゃいけないカードだぞ……」

 ババ抜きである。

 カードを片付け、机の上にクランの団員の(しる)された紙と宝石を置く。

「名前と入るクラン名を言ってくれ」

「名前はリィン。入るクランは‘風の谷まで’」

 紙が白に輝き、リィンの文字が浮かび上がる。同じく宝石も赤く光り、リィンの目の前に浮かび上がった。

 リィンが宝石を掴む。

 シドが紙を丸めた。

「これで完了だ」

 試しに宝石に向かってシドと声を発すると、シドの宝石から自分の声が聞こえる。

「おお」

 (がら)にもなく感動していると、それにアニーが紐をつけて、首にかけてくれる。

「ありがとう」

 礼を言うと何故か頬を染められた。

「で、これからどうする? 依頼を()けるかステラを待つか」

「依頼ー!」

「さっきリーダー、依頼請けてたんじゃなかったんスか?」

 元気に発言するアイザックだが、リィンはライオの発言に同意する。先程までパブにいたからだ。

「ああ。ステラに追加の派遣出してた」

「「鬼!」」

 ソーヤとアイザックから突っ込みが入る。シドはさくっと無視した。

「で、どうするリィン?」

「依頼を請けてみたい」

「それじゃパブに行くか」

 一行はパブに向かう。



 パブに向かうと、真っ先にパブのマスターに紹介された。

「マスター、こいつ新入りな。リィンが何か食い物頼んだらウチの口座から金引き落としてくれ」

「口座?」

 金を管理する金融団体があり、依頼金などはそこに振り込まれるそうだ。

 マスターはあごの長いヒゲを撫でながらにやりと笑った。

「分かった。

 それはそうと、シド。ドラム国に滞在中の全クランに御達示(ごたっし)だぜ」

「ゲッ」

 苦虫を噛み潰した顔だ。

 依頼の紙を見ると、どうやらトーナメントに参加せよとの事らしい。

 他の面子も「もうこんな時期かー」と頷いている。

「何か嫌なのか?」

「トーナメントの前に国王の話があるんだけどな。長いのよ」

 マスターも聞いたことがあるらしい。

「眠っちゃうぜ!」

「僕はいつも手の平をつねってやり過ごします」

「私…………多分寝てる?」

「記憶ねぇなら寝てるだろ。俺も人の事言えねぇけど」

 上からアイザック、ソーヤ、アニー、ライオだ。全員眠たい様子。

「それに、優勝したら国王に勧誘されるんだよ。しつッこく」

 シドの顔がまだ苦い。

「でも請けなきゃなあ……」

「請けなかったらどうなる?」

「クラン解体される」

 強制のようだ。

「やるかー。あ、マスターあとで飲み物よろしく。俺ビール」

「僕もビールで。そこの四人は全員カカの果実ジュースをお願いします」

 手持ちの金を払い紙を貰ったシドは、パブの団体席に座る。各々全員が座ってから、依頼の内容についての説明をうけた。


「リィンは初めてだな?

 トーナメントぁ個人戦と団体戦に分けられる。個人戦はもちろん一人、団体戦の人数制限ぁ年によって違うが……今年は五人か。

 かかる日数は十日間。始まりは明日か……って多いな!?」

「トーナメントに勝ったら、何か景品でもあるのか」

「これも年によって違うが、ある。とりあえず金」

「どちらにも参加しなければいけないのか」

「いや。どちらかだけでいい」

 どうする? と聞かれ、気を遣われる前に発言する。

「まだ、俺は(みな)の戦い方を知らない。これから特訓したとしても、連携ができるとは思えない。動ける団員は俺が入って六人。個人戦を含めればちょうど六人必要だ。

 だから、俺を個人戦に回してほしい」

 これが定石だろう、と思われる言葉を放る。

 言おうとしていたらしいシドが意外そうな顔をしている横で、確かにとソーヤが考え込む。アイザックとアニーはえぇと不満げな顔だが、ライオは不思議そうに首を傾げている。

 それから、と素直に告白しておいた。

「俺は友人曰く、『ワンマンプレイヤー』らしい」

「でもよ、これから一緒に戦うだろ?」

 アイザックはまだ不満そうだ。アニーは一緒に戦いたいが一理あると思っているらしい。

「だが、急すぎる。こんな大舞台でいきなり連携など難しい。

 そうするくらいなら、言い方は悪いが……もっと簡単な依頼で連携を練習したい」

「別にそんなに強い相手じゃねぇぞ?」

「だが、衆人環境だろう? 俺が入ることで皆の上手い部分を潰してしまったりしたら悪い」

「お前遠慮深いな」

「そうか? 最善策だと自賛しているが」

「理屈だとそうだけどよー…………なんかなぁ」

「仕方ないだろ」

 シドは頷いている。ソーヤも賛成のようだ。

 仕方なさそうにアイザックもアニーも頷いた。ライオも渋々ながら首を縦に振った。

「もう決まったのか」

 マスターが飲み物を運んで来る。

 先程ソーヤが頼んでくれたカカの果実のジュースとやらは、赤かった。

「何だこれは」

「別名『子供のビール』。酒精は入っていませんが体が暖かくなる物ですよ」

 そう言いながらビールとやらを飲むソーヤ。酒に強そうだ。

 恐る恐る口に含むと、口の中が痺れるように感じた。慌てて飲み込むと、確かに体が暖かく感じた。

「不思議な飲み物だ」

「ウマイだろー。そういやリィンって歳いくつ?」

「多分…………十七?」

「お。同い年だ」

「ライオって十七だったのか。とても俺より年上には見えないぞ!」

「失礼な! てめぇがデカいんだよ」

「ちょっと……二人とも、」

「アニーさんは十八でしたよね?」

「あ、はい。お酒は苦手なんですけど……」

「酒は十八からなのか」

 良いことを聞いた。

 シドを見ると、うまそうにちびちびと飲んでいる。

「ん? 欲しいか?」

「要らん」

「バッサリかよ!」

 ひゃははと妙な笑い声を上げられる。シドはもう酔っているのだろうか。

 マスターは机破壊するなよ、と妙な忠告をしてからカウンターに戻って行った。騒いでもいいらしい。

 人間とは不思議だな、と思いながらリィンはジュースをまた一杯口に含んだ。





 そして翌日。

 個人戦の会場兼開会式の会場となる闘技場に向かうと、クランの人間が大勢ひしめき合っており、リィンは怯んだ。

 ライオに腕を掴まれる。

「行こうぜ」

「…………む」

 やがて放送が流れ、クランごと、団体ごとに整列するよう言われる。騒がしいままだが、やがて整列するようになると、回りを見回すシドが首を傾げた。

「例年より多いな……?」

『これより開会式を始めます! 参加クラン数三十二! 確認完了!』

「いつもは二十を下りますよ」

 ソーヤも首を傾げている。

『それでは、国王のお話です』

 リィンが前を見ると、壇上に何やら赤いビロードを着た男が立った。

『皆の者!』

 どうやら音声を魔法で拡大しているらしい。

 でっぷりとした男は偉そうに踏んぞりかえり、参加者達を見回す。

『今回はこのドラム・カップに参加して頂き誠に感謝する』

 絶対これ感謝してねぇ、との呟きが後ろのライオから聞こえた。近くのクランの団員が肩を震わせて笑っている。

 だが、リィンも同感だ。偉そうに言われても感謝しているようには見えない。

『そして今回、この国に滞在しているクランだけでなく、他国にいた有力クランにも参加してもらったのには深~い訳があるのだ!』

 いいから早く理由話せよ、とまたライオが突っ込んだ。前方……アイザックからいびきが聞こえる。

 聞き手の状態にも気付かないドラム国国王は、踏んぞり返ったまま、たっぷり間を空けて、口を開いた。


『ラスカノン帝国及びガレリア財務局との会合により、このバルタ島は魔王ゾディアークの討伐を始める事と相成った!』


「な、」

 息が、止まった。

 理解しきれない。

 どのクランもどよめいている。当然だろう。

 リィンには、何故魔王討伐という話が出たのか、理解できない。

 頭の中で必死に最近の書類をさらうが、心当たりのある人間との(いさか)いなどは起きていない。

 なら何故だ。


 国王はどよめきを楽しそうに眺めてから、あー、と声を発する。

『皆々驚いていようが、これは仕方のないことである。

 依頼を確認した者なら分かることだが、最近、風の谷に巨大な魔物が出没し、通行人を襲っているとの通報があった。既に帝国と話し合って我がドラム国とラスカノン帝国の連名で討伐依頼を出してある。

 問題は、魔物に遭遇し生還した者の証言だ』

 魔物が島を渡って来ているなど、初耳だ。

『生存者が話すには、その魔物はいずれ魔王になり、総ての魔物を統括し総ての島を支配すると豪語していたそうだ』

 ざわり、と総てのクランが揺れる。リィンも目を見開かざるをえない。

 魔王になる?


 魔王になるには、条件が必要になる。魔王が生存しているうちに魔王になる条件を満たす者が生まれることもある。その場合、強い方が魔王になる。

 つまり、件の魔物は、今の魔王(じぶん)より強くなると豪語しているらしい。


 嫌悪感と同時に、好奇心も浮かんできた。

 名前を言ってはくれないだろうか、と少し期待してみる。

 魔の島でも、強者は有名である。リィン自身よく噂の主に会いに行くこともある。

 ここで知り合いの名前が出たらちょっと嬉しい。

 壇上では、国王がまだ話を続けていた。

『もし魔が攻めてきた時、この島は真っ先に侵攻の対象となる! 我が国の精鋭が負けるとも思えぬが、万が一もあろう! よって、魔王が攻める前に我々が不意を突き、攻め、島を征圧すれば良いのだ!』

 愚策だ、と内心思い切り突っ込む。

 まず不意など突けるはずがない。だって魔王(ほんにん)がここにいるのだから。

 だが、「殺られるまえに殺れ」の精神を、人間はひどく好むと聞いている。

 胸のうちを、ちらりと危惧が過ぎった。

『このドラム・カップ、それから来月あるラスカノン・カップ。これらの優勝者には、闇を無効化する指輪を与える! そして、バルタ島の総力を挙げて、魔王討伐に力を貸そう!』

 つまりアレか。優勝者に魔王を討伐させるつもりか。

 そんな内容では誰も乗らないのではと考えたが、さすがにそれはドラム国国王も考えていたらしい。

『また、魔王討伐に成功した暁には、その者達に贅沢の極みを約束する』

 これに飛びつかない人間はいないようだ。どのクランも一斉にわいた。

『それでは諸君、頑張りたまえ!』

 以上! と国王が壇上から下りる。放送でも開会式の終了を告げられる。

 周りのクランが興奮しながらぞろぞろと退出するのを眺めていると、険しい顔のライオに腕を掴まれた。


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