第二話 クラン に はいろう !(1)
パブは二人の会話に気付かず賑やかである。
椅子に座り直したリィンは、シドを見上げた。
「俺がクランに入るならば、そちらに利点はあるのか?」
「ある。だってお前面白そう」
それは理由に入るのか!?
内心激しく突っ込むが、口に出すと理解不能な答えが返って来そうなので黙っておく。
「…………俺に、利点は?」
「顔が広いからな。活動範囲は風の谷までだが、協力している別のクランと連絡がとれやすく、それより向こうに行ったとしても安全だ。迷子にはならない。衣食住も確保できる」
とても魅力的だ。
思わず考え込んでいると、シドが喉を鳴らして笑った。
「お前なあ…………男なら思い切って決めたらどうだよ?」
「待て」
思わず止める。
理由は単純。
「俺、女だぞ」
「はああああ!?」
シドに有り得ないような顔をされた。少し傷付いた。
「何で一人称俺だ!?」
「ナメられたくないからだ」
「理由に入らないだろ!?」
さきほどのシド殿の理由よりはよっぽと理に適っていると思うのだが。
おーおーと動揺しているシドは、リィンの胸を見て、確かにと言葉を漏らした。
「少し膨らんでるな」
「少しは余計だ。失礼な。無礼だ。黙れ。話すな。口を開くな。いいから黙れ」
「何倍にもなって返ってきたな!?」
「当然だ」
シドの中で、動揺はまだ治まらないらしい。
そうしているうちに、鳥の丸焼きの皿を持ったライオが帰ってきた。
「とりあえず肉ー……ってリーダーどうした?」
「カルチャーショック」
「リィンは俺らのクランに入んのか?」
さくっとシドの話を無視したライオはリィンの隣に座る。
「悩んでいる。が、今のシド殿の無礼で拒否に傾いている」
「何したんだ!?」
叫んでから、ライオはまあと首に手をやった。
「リーダーだからな」
「何だその妙な納得ぁ!?」
「だってリーダーじゃないスか。よく姐さんに殴られてるリーダー」
姐さんが誰か分からずに首を傾げると、ライオが笑う。
「クランのメンバー。
で、どうするよ? 俺はお前面白そうだし何見ても目輝かせてたしクランなら色んな所に行けると思うけどな? つまりはお前にクランに入ってほしい」
直球だ。
だが、行く当ても無いのだから、それでもいいかと思ってしまった。
「……わ、分かった。クランに、入ろう」
シドが嬉しそうに笑った。
「よーし食え!」
食べてから時間を尋ねると、もう昼を過ぎている。
精算を終えたシドとライオに連れられて向かったのは、ホテルだった。
シドがアクセサリーを通じてクランの仲間に連絡している。ホテルの入口に集まったのは、リィン達の他に三人だ。
「今集まれるのはこれだけか。……そういや、ステラぁ派遣にやってたな」
派遣とは、クランリーダーは向かわずクランの団員のみを依頼に向かわせることを指す。ライオがこっそり教えてくれた。
シドはそんじゃ、とリィンを前に出した。
「こいつぁリィン。さっきパブで会って仲間になった。宜しくな」
「ちょっとお待ちください」
手を出したのは茶髪に茶色の瞳の男性だ。小さな眼鏡をかけている。なにかしら焦っているようだ。
「勝手に決めてませんよね? さらったりしてませんよね? リィン君も了承してますよね? ましてや誘拐なんか」
「してねーよ!」
シドが思い切り否定して、リィンの肩を掴む。
「確かに勧誘したのは俺だが、リィンには」
「ほーら!」
「勝ち誇ったような顔をするな! リィンの旅の目的と合致したからクランに入ったんだよ」
そうなんですか? と尋ねられ頷く。すると青年はならいいか、と暖かな笑顔になった。
「僕が半ば無理矢理入れられたようなものですから心配で。あ、僕の名前はソーヤ。よろしくおねがいしますね」
「こちらこそ。…………無理矢理?」
「ステラに、成り行きで」
ステラと言えば、派遣で行っている人間の名前だ。
握手をすると、次はびょんと飛びつかれた。シドはとっさに肩から手を離す。
目と髪は茶色。また、僅かに頬に触れた髪は硬質である。青年だ。
「?」
「俺の名前はアイザック! リィンって強いのか?」
「分からん。この島に来てから戦ったことがない」
「いつかやろうぜ!」
アイザックはそうだ、と最後の一人、女子を連れて来る。
「名前はアニー。俺の幼なじみで、キレたら怖いからな! 回復してもらえないし」
「回復?」
「こいつの属性その他でさ、回復できんの」
便利だなと思っていると、アニーに恐る恐るとばかりに声をかけられた。
「あの……リィン君はどうしてここに?」
「知らない景色が見たかった。観光だ。金は持っていないが」
「え………………家出?」
「家出も、した」
ソーヤがシドに食ってかかろうとして、シドに口を塞がれる。彼はこちらを見ていた。
アニーは全く視線に気づいていない。茶色の長髪をおさげにして、先端を弄っている。
「何で?」
「…………暇になったからだ」
「暇?」
「暇だ」
「…………なら、良かった」
にぱっと花の咲く笑顔を向けられ、不覚にも見とれてしまった。同性なのにだ。
「このクランにいたら退屈しないよ」
シドがぱっと手を離す。途端にソーヤが「何するんですか!」と怒鳴る。
事態が読めず眺めていると、そうだ、とアイザックが二人の騒ぎに口を挟んだ。
「ソーヤも我慢しようぜ。んで、リーダーてばリィンの実力計りました?」
「あ、忘れてた」
「実力?」
「どういう任務が得意か……むしろ、戦闘が大丈夫かそうじゃねぇかの判断をするんだ」
ライオが全員分の水を持ってくる。気が利くなと思っていると、いきなりシドがリィンの肩を掴んだ。
「具体的には、俺と打ち合ってもらう。魔法を使ってもいい。武器ぁ自分の好きな物を使ってくれよ」
人間の強さを計るには良い機会かもしれない。
「どこで? いつ?」
「やる気だなぁ……何なら、今からするか?」
「是非」
よーし、とホテルの庭に連れていかれる。草の生えていない、地面の見える場所が木々から広く離れており、そこの中心にリィンとシドは立った。
「お前、武器は?」
「今から――――――」
作る、と言いかけて思い止まる。人間は武器を魔法で作ったりはしなかったはず。
済まないが、とクランの団員に顔を向けた。
「誰か剣を持っていないか?」
このぐらいの長さ、と手で長さを示す。
ライオが鞘ごと投げてきた。
抜くと、ちょうど同じぐらいの長さの剣が現れる。かなり細いが。
「ありがとう」
「よーし。準備ぁ整ったな?」
「シド殿はいいのか?」
「俺ぁなあ、初めは素手、ヤバくなったらナックルに持ち替える」
どちらにしても、やや格闘技寄りの戦い方らしい。
「魔法は使うか?」
「使えない」
発現はしているが、このような狭い場所で使っては色々とまずい。ので使えない。
リィンの内心に気づいてか否か、シドは二人の間に立ったソーヤに視線を移した。
ソーヤが頷き、手を出す。
「それでは、始め!」