第十六話 じたい を はあくしよう !
夜、空はほんのりと薄暗くなり、晩御飯前の時間である。
町に戻ると、どこか落ち着かない空気……というより、町を走る男が多く見受けられた。
「あっ、あんた!」
リィンを見つけた男が、慌てて駆け寄ってくる。見た覚えはあるが、思い出せない。
「リィン、知り合いか?」
「多分…………?」
「え、ちょ、」
「ノッチだろ。『ヒューマニズム』の」
そうそうそんな名前だった。シドに当てられた男改めノッチが、嬉しそうに拳を握る。
「やべえすっげえ嬉しい『風の谷まで』のクランリーダーに名前覚えてもらってるとか………………って違う!」
今度は首をブンブン横に降り始めた。見ていて面白い男だ。
「見る限り、あんたのとこは大丈夫だったんだな?」
シドが眉を潜める。
「何かあったのか?」
「魔物の襲撃が。優勝候補って言われてるクランが軒並み襲撃を受けてるんです」
思わず顔を見合わせる。ライオが無表情で手を固く握った。
「つまり、俺らが行った時、奴らはちょうど町に襲撃に行ってたと。道理でいない筈だ」
「うむ。そして鉢合わせしたのは、奴らがこの町から帰ってきた時、だったのか」
ライオが怖い。が、今はそれに気を使う暇もない。
「ノッチ、だったか。俺達は先程まで、依頼でナザン廃坑に居たのだ」
「クラントーナメントで疲れてんのにすげえなオイ。……だから襲撃は受けてないのか」
「うむ。一体出口でかちあったが、ライオが切り捨てた」
「うおおおぉぉ!」
ノッチに賞賛の目で見られ、ライオが頬をかく。
「俺のことはいいんだよ。……で、町の被害は?」
「かなりの数がやられてる。奴ら、いきなり窓から突っ込んできやがった。同時刻に多数のクランが襲撃されてる」
相当の数がこちらに来ていたと考えて良いだろう。
「何人かが連れ去られた」
ライオが踵を返す。とっさにその肩を掴んだ。
「落ち着け。もう間に合わん」
舌打ちを立てるライオは、殺伐とした雰囲気に呑まれるノッチを覗き込んだ。
「お前のクランはどうなんだ」
「え、あ、半分くらいが病院で治療を受けてる。俺はかすり傷だけだったから辞退したけど」
見せられた傷は、確かにそこまで深くない。もっと重傷な怪我人もいただろう。
ノッチがはああと溜め息をつき、頭を抱えた。
「正直、ウチはもう団体戦に出れない。棄権することになるだろうなぁ…………」
「個人戦で勝って、クランの名を上げれば良いだろう。魔物の襲撃も不意打ちのように聞こえる。対処も難しかっただろう」
「そうだけど……って次の対戦相手アンタだよ」
「む、なら済まんが勝たせてもらうぞ」
「容赦無え! まあその方がありがたいけど」
そこまで気にしている様子ではなさそうだ。大方が怪我で済んだのだろう。
アイザックが、腕を組んだ。
「でもさー、そのノッチ? の話聞いてたら、棄権するクランいっぱい出そうだよなぁ」
「だろうなあ」
はああと再び溜め息をつくノッチ。頭を撫でてやると、妙な顔で見られた。
「試合相手に同情とかすんなよ? 面白くないし」
「安心しろ。その辺りは割り切る。誠意を持って抜かり無く遠慮無く躊躇い無く手加減してやる」
「手加減すんのかよ!!」
しなければノッチなど簡単に吹き飛ぶだろう。シドの口元が震えている。
「そ、それにしても、やっと襲撃か」
「やっと?」
「うむ。どうやら、風の谷に向かってもらった仲間から連絡が来てな。子供を育てる為に、魔物が何体かこちらに来ているそうなのだ」
「子供を育てる……それでさらわれたのか!」
「だろうな。……魔物の子供なら既に確保したが」
「まじかよ。そいつ、人質になるんじゃねえ?」
「その前に魔族に引き渡した」
「そうかいそれじゃあ…………って、魔族?」
つい、口が滑った。
口を覆うが、出た言葉は取り消せない。
案の定、ノッチが詰め寄ってきた。
「どういうことだ!?」
「落ち着けよ。まあその、なんだ。……魔の島の連中も、この騒ぎを快く思っていないって事だよ」
間にライオが割って入ってくれる。ノッチが何か言いたそうに口を開いたその時。
「ノッチ!」
「あ、リーダー!」
クランリーダーが走ってきた。左腕を三角巾で吊っている。
彼はシドを見て、無傷のリィン達を見て、目を丸くした。
「さすが風の谷」
「勘違いしてるみたいだが、俺達ぁ外出しててな、魔物の襲撃を受けてない」
「どこに行ってた?」
信用されていない……警戒されているのか。
シドがあっさり答えた。
「ナザン廃坑。パブのマスターに聞いてみな。依頼を受けたんだからよ」
「……そうか。悪い、疑った。幸運だったな」
「いいってことよ。ただ、俺達もナザン廃坑で魔物とかちあった。幸い一頭だがな。ライオが切り捨てた」
「ああ……斬ると魔物の体が砂に変わるっていう?」
「そうそう。俺のことな」
ライオが手を挙げる。
「リィン!」
ギギが飛んできた。……翼を隠そうともしない。案の定、クランリーダーとノッチの目に警戒が浮かぶ。
「そいつは?」
「魔の島の協力者だ」
「んなことより、リィン。あのチビ共、かなりの量の人間を食っていやがる。確実に三十は下らねぇぞ」
「あ? 何だって?」
ライオが殺気立つ。ギギも睨む。リィンは間に入り、ギギに説明を求めた。
「それで、あの子供達はどうした?」
「地祇のおっさんに事情説明して押し付けてきた。雨露バアさんなら多分もうすぐこっちに来る。
で、ついさっき魔物五体が廃坑に飛んでいくのが見えたんで、雷落としといた」
「偉い。そいつらに、この町が襲撃されていたらしい」
「くらんとーなめんと、とか言う奴が狙いか。ついでに捕まってた人間はあの……ステラとかいう女に押し付けてきたぜ」
「うむ」
ギギの雷で全滅したとは考えられない。五体では少な過ぎる。何隊かに別れて移動しているのだろう。
「もう一度ナザン廃坑に向かうべきか…………」
「リィン君。もし僕が魔物なら、子供達がさらわれていた時点で隠れ家が見つかったと判断し居場所を変えます」
ソーヤの意見ももっともだ。
待ち伏せして殲滅すれば良かった。
そのとき。
「敵襲だああぁぁぁッ!!」
悲鳴とともに殺気を感じ、近くにいたアニーとノッチを掴み飛びのく。シドやライオもクランリーダーとソーヤ、アイザックを掴まえており、さっきまでリィン達がいた場所に炎弾が打ち込まれた。
「うおおぉ」
ノッチがまた声を漏らしている。リィンは二人を離して蒼穹を抜き、空より降ってきた魔物の爪を受け流した。
『見事、』
「殺気が駄々漏れだ」
酷評。さらに空いていた脇から袈裟がけに斬り捨て、返す刀で襲い掛かる魔物の胴を斬り払う。
「胴ががら空きだ」
弱い。
弱過ぎる。
リィンは舌打ちを立てた。
ギギに肩を叩かれる。
「強くなかったからって、そうカッカすんなよ」
背中にギギの背中を合わせられ、やや落ち着いて周りが見れるようになった。
大量の魔物が、クランに入っている者いないもの関わらず、人間を襲っていた。
「種族は…………様々だな」
「目立つのは空龍族……地祇のおっさんや先代魔王達、地龍族と対立してたな。そのうちの急進派か」
次に多いのは淫魔族。ユイフェルミアが四天王になった時に、抗議した者達が島を出たという話は聞いたことがある。そうでなくとも、あの一族にはいざこざが絶えない。
要するに、ただの権力争いか。リィンはもっと心踊る……そう、魔王に挑戦するという類いのものを期待していた。
「面白くない」
「知ってる」
二人は同時に地を蹴った。
できるだけ頑張って投稿続けます…
いや、終わりは見えてるんだ、終わりは…
ただデータの移し代えが難しいだけでorz




