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第一話 まち に でよう !



「っつうことでこの国は軍事国家………………おーい、聞いてるかー?」

「聞いている」

 リィンがあいすという物体を食べながら答えると、先方に呆れた顔をされた。

「んなアイス頬につけて幸せそうな顔で言われても説得力ねぇよ」

「む、そうか」

 いいから食え、と言われありがたくいただく。


 魔物のみが住む島がある。名はないが、人間達にも認知されており、人間達の住む島のひとつに近いため警戒され、はるか昔には人間と魔物間で戦争などもしていたらしい。

 近年は両者とも関わらずの体制を保ってきた。

 そして現在リィンがいるのは、その魔物の島に最も近い位置にある、バルタ島のドラム国である。詳しくはドラム国の城下街の広場。

 今隣にいる男によると、海に面しており、海越しに魔物の島から一番近いため、もし魔物の侵略が始まった時真っ先に蹂躙(じゅうりん)されないよう、武術に力を入れているらしい。ので軍事国家なのだそうだ。

 なぜ侵略せねばならん、と内心突っ込んでいたリィンは、男がじっと見ていることに気付き、見返してみた。

 男は赤銅色の長髪を流して首のあたりで結わい、目は森のように深い緑だ。顔立ちも精悍。

 対するリィンは黒髪に黒目。ちなみに髪は短い。地味にも程がある。少しむっとした。

「俺の顔になにか付いているのか?」

「アイスが唇の端に」

「…………気をつける」

 慌ててぬぐっていると、男が口を開く。

「俺はライオ。‘風の谷まで’に所属している」

「カゼノタニマデ?」

「あれ? 知らねぇ? それなりに有名なクランなんだけどなぁ」

「そもそもクランとは何だ」

「クランも知らねぇのか。まるで箱入り娘だな」

 ハコイリムスメとやらが何かは知らないが、どうやら常識が無いと言われているらしい。知らなくて当然だ。

 よっこいせ、と側のベンチに座ったライオはクランが何か説明してくれた。

「クランてのはなー、アレだ、集まり。好きな奴らで集まってクラン結成して、んで依頼受けるんだよ」

 よく分からず首を傾げる。ドラム国の説明はわかりやすかったのでてっきり説明上手だと思っていたが。

 ライオが首の後ろをかいた。

「んー…………うちのクランリーダーのが解りやすいかもな。俺もちゃんとは知らねぇからなー」

 ついてきな、と言われる。同時に彼は首にかけていたネックレスの赤い宝石にあーあー言い出した。

『どうした?』

 アクセサリーから声が聞こえた! とリィンは飛び上がる。

 娯楽として魔物の島でもアクセサリーは売っていたが、話す物は無かった。

 ライオが驚く様子もない。

「なんかねー面白い奴に会ったんスよ。で、クランて何だって聞かれたんですけど俺説明ヘタで。リーダー頼んます。てことでどこにいるんスか?」

『お、おう? 今な……パブにいる』

「よし。アイス食ったな? じゃあ行こうぜ」

 引きずられながら、先程のアクセサリーについて質問する。

「会話ができるのか?」

「おー。原理は知らねぇけど」

 これも今から会うクランリーダーとやらに聞こう、と心に決めたリィンであった。

 大通りを歩く。丸い浮かぶ球体の紐を持った子供が母親と手を繋いでいる。女子が三、四人で集まってこちら(ライオだろう)を頬を染めて見ている。

「なにボーッとしてんだ?」

「に、賑やかだな」

「そりゃ、祭だからな」


 パブに着いた。パブの扉に赤い円を発見し、これは何だと尋ねようとしたが、ライオは気付かず扉を引く。

 扉を開けた途端騒がしく賑やかな声が全身を包んだ。驚いて一瞬固まったリィンの腕をライオは掴み、店の奥に引っぱっていく。

「あ、いた。リーダー」

「おー」

 軽く手を挙げたのは、

「……………………人間?」

「ははは」

 黒い肌に金髪。鼻は高い。目は碧く鋭い。少し怖く見える。

「ヤの人間に見えるたぁ言われたが、人間を疑われたのは初めてだな」

「済まん」

「嫌味ではないから安心しな」

 面白そうに言うクランリーダーとやらは、二人にそばの席に座るよう言う。

 ライオの隣に座ると、クランリーダーは水の入ったガラスコップを二人に渡してから口火を切った。

「俺の名前ぁシド。ライオのいるクラン……‘風の谷まで’のリーダーをやってる」

「クランリーダーという名前ではないのか?」

「いや……それは称呼(しょうこ)……役の名前でな。あー……そういやお前さんぁクランについて知らないんだったな」

 忘れてた、言ったクランリーダー改めシドは、そんならと話を始める。

「そもそもだな、生きる為なぁ何かしら働かなきゃ生きていけない。そこは理解できるな?」

「うむ」

 働かざる者食うべからずだ。

「そこで働くには、職が必要になる。農家しかり、国の兵隊しかりだ」

「それとクランがどう関係するんスか?」

 ライオも聞いているらしい。

 先を急ぐんじゃない、とシドはライオに言ってから、話を続けた。

「それでだ。この島なぁ野生の生き物が大量に生息している。そいつらは普段山の中で生活しているが、ふと人里に下りてきては、人間を襲うことだってある」

「そいつらを討伐するために、クランは存在するのか?」

「それだけじゃない。山を通る商隊の護衛や、時には落とし物探し、届け物だってする。それこそ何でもな。

 言うなれば、便利屋か」

 便利屋が何かは分からないが、何となく意味合いは分かった気がした。

「何でもするのか」

「拒否権というのか、依頼を請けなくてもいいけどな。

 パブの扉を見たか? 赤い円が描いてある。あれが依頼所の印だ。普通町一つに一つだな。

 大きい町……例えば帝国の城下街ぁ二つ三つあるらしいが。

 で、パブのマスターはどこどこでこういう内容の依頼が入ってるとかを教えてくれる。仲介料を払えば依頼受諾完了だ。

 普通こういう手続きぁクランリーダーがやるけどな」

 ライオがへーと声を漏らした。聞くと、依頼をクラン同士で取り合うこともあるらしい。

「クランに入っていなければ、依頼は請けられないのか?」

「いや。個人でも大丈夫だ」

「ならば……クランに入って長所はあるのか?」

「そりゃ人数いた方が討伐だのは安全だろ。それに危険度が増せば増すほど代金ぁ増える」

 人数がいた方が守る者が増えて不利なのでは、と思ったが黙っておく。

「理解できた。感謝する。

 ところでまた済まんが、この通信器具はどのような原理なのだ?」

「お。これか?」

 シドも持っていたネックレスの赤い宝石をつまむ。

「魔法だな。……魔法についてぁ知ってるか?」

「大枠は」

「そんじゃ説明してみな」

 リィンは口を開いた。


 魔法は、力である。各々(おのおの)個人ごとに持っている魔法は違うが、属性ごとに種類分けすることが可能だ。

 属性は大まかに火、水、木、雷、風、地、光、闇、その他に分けることができる。人間の魔法属性は性格もしくは血筋で決まり、また何属性も持つことが可能である。対して魔物は種族によって属性が決まっており、ただし全魔の生物の中で最も魔力と武力の強い者のみに闇の属性が宿る。

 属性にも相性があり、火は水と地に弱く、水は木と雷に弱く、木は風と火に弱く、風は地と雷に弱く、地は水と木に弱く、雷は地と木に弱く、光は闇に弱い、闇は光に弱い。

 また、(ちまた)には魔法書と呼ばれる物も出回っており、これは持っていない属性でもそのスペルと呼ばれる文字列を読むだけで魔法が使えるという代物だ。


「…………これでいいか?」

「おう。…………お前、博識だな。変な方向に」

 普通ぁクラン知ってて魔法知らない、とぼやくシドをよそに、ライオは目を輝かせている。

「お前よく知ってんなあ!?」

「教えてくれた」

 おっと、とシドが口を挟む。

「忘れないうちに補足な。

 人間の属性決定だが、光ぁ血筋にも性格にも作用されない。理由は依然として不明のまま。また、何属性も持っている人間もいれば、逆に何の属性も持っていない人間も存在する。

 …………初めて闇属性の条件知ってる奴と会ったぜ」

 言われ、瞳を覗き込まれてからひやりとした。隠すべきだったかもしれない。

 シドはしばらくリィンの目を見てから、ウィンクをして視線をライオに移した。

「ちなみに、ライオぁ属性が発現していない。こんなに存在感ある奴なら何かしらの属性持ってそうだけどな」

「ま、俺は剣一本の人間だからいいんだけどよ」

 ライオは別段気にしていない様子。

「んでもってー、リーダーは雷属性。キレたら目玉がカッて光るんだぜ」

「そうか。

 で、原理は?」

 忘れてた、と笑ったシドは宝石をリィンの目の前に置く。

「これはクランにも関係してくるんだけどな。クランを結成すると、政府から紙を貰う。これだ」

 見せられた紙は一見何の変哲もない。名前が記されており、シドの名前の横に丸がついている。

 が、よく紙を探れば、魔法がかけられているようだ。

「これは……探索の魔法か」

「おう。でな、」

「少し待て」

 これぐらいなら自力で解析できる。

 紙に指を滑らす。文字はペンで書かれたのではない。

「クランに入ると、ここに名前が浮かび上がるのか」

 また、紙からシドの宝石に何らかの魔法が働いている。

「ライオ、宝石を」

 ライオの宝石には、シドの宝石からの魔法しか働いていない。紙からシドの宝石に働いている魔法と同質のものだ。

「シドの宝石が、親玉なのか。それで、紙から送られてくる名前…………その前に、個別の宝石ごとに所有者の名前が登録してある。

 シド殿の宝石は、紙から送られてくる、名前を登録済みの宝石と通信ができる。ライオの宝石はそれを受信し、親玉となるシド殿の宝石と通信できる。

 が、シド殿の許可さえあれば、ライオの宝石でも、シド殿の宝石を通じて別の人間の宝石に声を送ることが可能。

 どうだ」

 シドは口を開けていた。

「……………………お前」

「正解か?」

「さあ。お前、俺が政府から聞いた話より詳しく説明したろ」

「そうか」

「聞く限り正解そうだけどな」

 ライオは首をひねっている。

「訳わかんねぇや。

 あ、パブのマスターに食い物頼んできます」

 ライオが立ち、カウンターに向かう。

 それを見送ってから、シドはにやにやと可笑しな顔でリィンを眺め始めた。

「何だ」

「いやなー……そういやライオたぁどこで出会ったんだ?」

「ここの街中で。あいすを眺めていたら買ってくれた」

「オイ」

 突っ込んだシドを見遣り、もう長居する必要もないだろうと席を立つ。

「世話になった。では」

「ちょっと待て」

「何だ」

 シドはまだ、じっとリィンを見ている。

「お前、生まれはどこだ?」

 不意打ちに、表情が強張った気がした。

 答えようにも地名など知らない。ドラム国の生まれと答えても、ライオにドラム国のことを聞いていたとばれてしまうと厄介だ。

 それに。

 不意に、頭に手が乗った。

「悪い。今の質問は忘れろ。

 何で、この島に来た?」

 ただの思い付きだ。

 だが、元を辿ってしまえば。


「知らない景色を見たかった」

 答えに、シドはニッと笑い、頭の上に乗ったままの手を動かし髪をかきまぜる。

「そうか。

 なら、ウチのクランに入らないか?」

「……………………」

 しばらく、言われた意味が分からなかった。

「…………………………は?」

「クラン‘風の谷まで’に入らないかって聞いてるんだよ」

「何故?」

「気分。というかお前、土地勘も無いのにフラフラさ迷ってたら金盗られるぞ」

「金など持っていない」

「余計ダメだろうが」

 また突っ込まれた。

 シドはリィンの頭の上に乗せていない方の左手を自分のこめかみにあてて溜め息をつく。

「依頼を請けようにも仲介料が必要になる。仲介無しで依頼を請けたら逮捕される。

 いいからウチ入っとけ。何だかんだで素性とか深く詮索しないから。ほとんど皆ワケありばっかだからな」

 詮索されないのはとても助かる。

 少し、真剣に考えることにした。


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