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第十四話 おく に もぐろう !(1)

 いや本当に遅くなってすみません。

 お久しぶりです。

 細々とでも続けます…!!

 それにしても、である。

 奥に潜るにつれて、気分が悪くなっていく。

「気持ち悪い」

「大丈夫か?」

「ライオぁ魔法無いから分からないんだろうな。密度が濃すぎるんだよ」

 確かに、魔石がそこら中に埋まっている。魔の島でもここまで大量には見たことがない。

「俺はまぁ…………慣れた」

「無理だ……が、二人とも」

 二人に呼びかける。

 気のせいであってほしいのだが、一応確かめるべき、なのだろう。

「その、右の岩をどかしてもらえないか」

「これか?」

「違う。シド殿、もう少し左……それだ」

「どうしたんだ?」

「とてつもない魔力を感じる。しかも複数」

 ライオが、さりげなく剣に手を伸ばす。

「…………言われて気付いたけど、ホントだな。ちっこい気配がする」

「退かすぞ」

 緊張した面持ちで岩を動かしたシド。彼の脇の下をかい潜り、出来た穴を潜り。

 リィンは、震えながら、大きな赤い目でこちらを見る、三人の子供を発見した。

「………………子供?」

 思わずリィンが呟くと子供らは飛び上がり、わたわたと走り回る。

 穴の先は、大きなドームのような場所になっていた。出入口も、シドに退けてもらった一カ所しかない。

 後から入ってきた二人も、首を傾げている。

「何でこんなところに、子供が?」

「気配はこいつらしかしないけどな……?」

 強大な魔力も、この子供達から感じられる。

 結局ドームの隅に固まった三人は、口々に言いはじめた。

『ぼ、僕達人間だからねっ!』

『そうだよ!』

『まま魔物じゃないからっ!』

「魔物だと?」

 嫌な予感がする。

 その時、であった。

『シド!』

「うおっ!? ステラか!」

『そーよ私よ。風の谷でギギとも魔物達とも遭遇はできたんだけど、ちょっと気になる事があったから、先に一つだけ連絡しとくわ』

 ステラがやや早口で、用件を話し始める。

『奴らに頭出せって脅したら、首都に行ったって言いやがったのよ』

「首都? ……こっちに来てんのか!?」

『そう。何でだって詳しく聞いたら、子供達を育てる為にだって吐かしたわ』

 子供達。

 リィンもシドもライオも、同じ事を考えたのだろう。

 そろって、固まった、こちらを見続ける、赤目の子供達を見た。

「………………ビンゴか?」

「かも、なぁ」

「一応、確証が欲しい」

 人間の子供に見える彼ら。もし本当に魔物の子供なのだとしたら、相当な数の人間を食べていることになる。

 現状は、限りなく黒に近い灰色だ。

 リィンは子供達の前に屈み込み、一人と目を合わせた。

 蛇口を捻るように、少しずつ、魔力を流し込む。すぐに子供の頬が紅潮していく。

「答えてほしい。

 お前の親は、魔物か?」

『魔物……だよ』

 灰色が、黒に変わった。

『お前っ!?』

『なにばらしてんの!?』

「ありがとう」

 視線をずらすと、その少年は糸が切れたように座り込んだ。

「その少年に罪はない。不思議だろう? 魔力を流し込むとこうなるのだ」

「リィンお前、ホントに便利だなぁ…………」

「魔力って流し込める物なのか?」

 後ろで呑気に突っ込む二人に、改めて尋ねる。

「さて。俺としては連れて帰りたいが……難しいか?」

「そもそも現在位置もわからねぇのに、難しくないか?」

「そうか。ならギギに頼もう。ステラ殿、ギギはいるか?」

『今はいないわよ』

「そうか。いれば送ろうと思っていたが……仕方ない。ギギに伝えてくれないか?」

『ハーイ、何伝えたらいいかしら?』

「ナザン廃坑で例の子供達を発見した。俺の魔力を残してあるので、あとで回収してほしい。頼んだ」

『オーケイ。後で合流したら伝えとくわ』

「済まぬ」

「……よく考えたら、リィンお前、四天王パシリにしてるんだよな…………」

「幼なじみの特権だ」

 実際、魔王であるリィンが、四天王であるギギをこき使っても別に問題無い。

 子供達に向き直る。

「嘘をつけばすぐに気付く。

 お前達は、ここに来てからどれほどの人間を食った?」

『食べてない』

『ここに来てからは、父さんが持ってきた熊とか鹿とかばっかり』

『前にいた……風の谷? では、迷った旅人をさらって食べてたけど』

 チャキ、とライオの方から剣を抜く音が聞こえる。同時に子供達が怯え始めたので、リィンはそちらを向かず手の平をライオに向け、制止を呼びかけた。

「ライオが殺したい気持ちも分かる。だがしかし、この子供達は、何も知らない」

「知っていようが知らなかろうが、人食いは人食いだ。魔族だって、死刑にするんじゃねぇのかよ」

『『『死刑!?』』』

「待て。子供で、人食いが死罪だと知らずに親から与えられていた場合、情状酌量が認められているのだ」

 言ってから、しまったと息を呑んだ。これでは火に油を注ぐようなものだ。

 案の定、背後から、背筋が凍るような殺気が飛んできた。

「じゃあ何だ、人様の生活壊しといてそのお咎めも無しか? 人間にだって生活ってもんがあるのに、それを壊したそいつらに、何の罰も与えないと?」

 静かな静かな、問い。

「ざけんじゃねぇぞ!! んなの不条理じゃねぇか!! そいつらが食った旅人の帰りを待つ奴はどうなる!? 野垂れ死ねってのか!?」

 爆発した。

 吠えるライオに、何も言えない。ただきつく目をつむっていると、頭にシドの手が乗った。

「ライオ、落ち着け。その旅人を、自分の場合に重ねるな。

 ガキが生きるために、食うしかなかった。自然の節理だ」

「だからって人食いが容認できるって言ってんですか、リーダーは!」

「弱肉強食だろうが。

 俺達だって別の動物の肉食って生きてる。魔物にとって人間は別の動物の肉だ」

 あくまで静かに告げたシドの手が、リィンから離れていく。思わず顔を上げてシドを探すと、彼はライオの赤銅色の髪を掻き混ぜていた。

「魔物憎しとお前が殺したい気持ちも分かる。でも、まだ子供だ。お前が母親を殺された時と同じ、子供だ。

 こいつらはこれから親を失う。……そうだな、リィン」

「うむ。故意の人食いでは、死罪は免れぬ」

「ほらな。だから……」

 言葉を濁すように、シドが空いた手で首元を押さえる。

「……あんまり言いたくぁないが、お前も矛を収めてくれ」

 恐る恐る、ライオを見ると、彼はやはり、険しく顔を歪めていた。

「収められると、思ってるんですか?」

 ぽつりと呟いた彼は、うなだれて深く息を吐いた。

「………………姐さん、鷹の奴に伝えて下さい。これ以上、魔物の被害を出すなって」

『安心しろ。聞いた』

 ギギの声が、ドームに響く。

『魔王一同、もうさせねぇよ』

 リィンも、頷く。

 子供達に向き直り、膝をついた。

「……お前達の親は、人食いという大罪を犯した。死刑となるのは必至だ」

『聞いてた、けど』

『何で、死刑なの?』

『他の動物だと何も無いのに』

「人間は、魔族に近すぎる。魔族は、種族本来の姿もとれるだろう。だが、何故魔族はそろって、その姿ともう一つ、人間の姿をとるのだと思う?

 人間が、心を持っているからだ。他の生き物が持っていないわけではない。植物とて傷つく言葉を放つだけで、萎れてしまう。

 だが、人間は本能だけではないものをもっている。知識、言語、経験、未来を想像する力だ。それらが人間を人間たらしめているのであり、魔族が人間を近い者として位置付ける理由でもあるのだ」

『……………………?』

 そろって首を傾げる子供達に、場の気まずさも忘れ、笑みを零してしまう。

「今は分からずとも仕方がない。いずれ分かる時が来る。それまでは、魔王ゾディアークが定めた法律なのだと、覚えていれば良い」

 宝石に、喚びかける。

「ギギ。この通信具で子供達をそちらに運ぶ。応えろ」

『へいよ』

 事態が分からず動かない二人に、笑みを向ける。

「少しばかり、目をつむっていては貰えないだろうか? できれば耳も」

「お、おう」

 シドが背中でライオの視界を、手で耳を覆い、彼自身も目をつむった。

 確認し、魔法――――闇を発動する。大きく起動させてしまうと、廃坑が崩れてしまうことにも気をとめる。

 目を丸くした子供達を、闇に包む。

 通信具の魔法を使って行き来する声。その声と同じ要領で、通信具の魔法を使って、子供達を包んだ闇を送る。

 ドームの天井に、闇で、通信具に仕掛けられていた術式を刻む。

 それらが、黒く輝いた。

「ギギ・イーグル」

『リィン=ゾディアーク』

 ギギの声とともに闇が一際黒く輝き、通信具に吸い込まれていく。

 ドームからも術式が消えたと同時に、ギギから声が飛んできた。

『成功だ。キズ一つねぇよ』

「良かった。二人も、もういいぞ」

 言いながら二人を振り返り。


「…………………………」

「…………………………」


 シドと目が合った。


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