江学勤は親日?
驚くべきことに、世界的な名声を得ている江学勤教授は、日本に特別な関心を寄せている。というのも、東アジアにおいて将来の覇権を得るのは、中国ではなく、韓国でもベトナムでもなく、日本だろうと言うのだ。これは、ほとんどの日本人が夢にも思わない将来像だ。
彼の言説は、感情を見せない。特定の勢力への好意によって言説が歪曲されている様子がないという意味で、とても特異的な人物だ。日本の将来に関する彼の言説も、世界と世界史に関する彼の言説と強く一貫している。恐らくは、彼はまったく親日でもなんでもなく、純粋な推論によって日本の成功を結論しているのだろう。というのも、彼は国家主義(nationalism)、ひいては「ファシズム」について、絶対的に悪魔化する主流の言説を完全に相対化している。
彼は日本人以上に日本の歴史にも詳しく、1985年のプラザ合意の奴隷的性質とそれによる(米国債の税金的性格といった)現代日本の経済停滞の恣意性について常識のように語る一方、第二次世界大戦において日本が核兵器を投下されるのみならず全国の都市に爆撃を受けた事実や、明治維新で植民地化を退けた事実、かつて元寇の危機を体験して団結した歴史についても知悉している。一方で、香港人や台湾人や韓国保守派など、北京覇権の周縁部が日本に熱烈な好意を寄せる傾向はあるから、広東系の出自を持ちながら現在は北京で勤務している江学勤教授において、日本への感情的な好意がありえなくはないと空想することもできる。
ほとんどの日本人は十分に認識していないが、技術力や軍事力や経済力において日米の格差は甚大であり、日中の格差も甚大だ。技術論文の枚数でも日本は中国とすらまったく戦えていないのが現実だ。そこにおいて、東アジアの覇権の将来が中国よりも日本にあるだろうという見方は、唯一と言ったほうが正確だろう。
そしてその理由として、日本が資源に恵まれない島国である事実を彼は指摘する。中国が歴史的にも自己完結した帝国であり、天然資源にも恵まれているのに対して、少子高齢化と石油高騰の板挟みで致命的な危機に陥る日本は、グローバル経済への期待をいち早く諦め、要するに国粋主義的な全体主義と再武装に舵を切り、個人的利己主義ではない精神的自己犠牲の文化を再建するという。そして、資本主義と個人主義のまどろみにより長く浸かることで一歩目覚めの遅れる周辺諸国は、日本という狼に食われて従属させられるだろうというわけだ。彼は、自然的で野性的な利害衝突としての国際世界を予見しており、死を恐れない狼に立ち返る者達が生き残ると予言している。
つまり、彼の文明観、世界モデルは、富裕層の増長と貧困層の覚醒の終わらないサイクルであり、絶望的で救いがない。幸福であって善良である存在が持続する居場所がそこには見当たらない。一方で彼は、米国の覇権が一度は世界を覆ったために、今から数十年の危機は特別な雌雄を決する分水嶺だと見なしている。要するに、当面にわたって苦しみと覚醒のフェーズが世界的なトレンドになるという示唆であり、彼の言説は今後とも刺激に満ちた有益なものでありつづけるに違いない。




