赤紙
神奈川県横浜市中区
202X年7月某日
東富士演習場の【時空の裂け目】の出現より約6か月後
小島純一は引きこもりのニートだった。
大学卒業し、就活で下着メーカーの大手企業に入社したものの、1年で退職し、実家に引きこもった。
あれこれ5年が経ち、親から働くように促されても、すべてすっぱねて、無視していた。
彼はほぼ毎日13時頃に起床し、母親が部屋のドアに置いた朝食兼昼食を食べて、ネットゲームを晩御飯の時間まで遊ぶことだった。それからまたネットゲームをし、ポリポリとお菓子など食べて、朝方6時頃に就寝する日課だった。
28歳となり、不摂生な生活をしていたせいで卒業当時の体重より30キロ以上太っていて、このまま糖尿病へまっしぐらと思われていた。
その日の午後16時頃、実家の2階のトイレで用を澄ましていると玄関のチャイムがなったと聞こえた。
「宅急便だろうッ」
一言をつぶやいて、自分の部屋へと戻った。
イヤホンをかけようとしているところ、訪れた人は宅配の人ではなかったことに気がづいた。
「防衛省、陸上自衛隊2等陸佐の坂本です」
「お待ちしておりました、どうぞ、お上がりください、土足で問題ありません」
父親の声が聞こえた。
「感謝する」
「坂本様が我が家を訪れたのはあれの処遇が決定したってことで間違いないのでしょうか?」
「はい、その通り・・早速ですが、新兵を強制徴収に参りました」
「どうぞ・・・連れて行ってください・・・国家の一大事にあのごくつぶしは少しでも役に立ってれば幸いです・・・」
「戻らない可能性が高いのですが、よろしいですか?新兵本人にはないが、親であるあなた方はまだ拒否権を実行することは可能です」
「いや、連れていってやってくれ・・・あれがこの前、妻を殴った・・・理由は些細なことだったのに・・・それで僕と妻が決心しました」
「あれは二度と見たくないわッ」
母親の声が聞こえてきた。
「それでは、強制徴収実行します・・・入れ!!」
坂本と名乗った士官のかけ声で屈強な自衛隊員6名が土足のまま、家に入った。
2階の部屋で会話を聞いた小島が窓から飛び降りる及び籠城を考えたが、数人が大急ぎで階段を上ってきているのを聞いて、抵抗するのを諦めた。
鍵がかけてあった部屋のドアが蹴られて、6人の男たちが入ってきた。
「出ていけ!!!ッ」
小島が叫んだものの、顔を殴られ、気絶した。
何時間経ったのはわからなかったが、冷たい床の感触で小島が目覚めた。
頭に布がかぶされており、手足が縛られていた。
「おい!!出せ!!人権侵害だ!!ッ」
「そうだ!!そうだ!!」
「自衛隊こんな蛮行を行っていいのかよ!!ッ」
「責任者誰よ・・・あたしにこんなことして、ただで済むと思わないで!!ッ」
「殺すぜ!!出せ!!俺を出せ!!」
小島が回りから飛んでくる罵詈雑言を聞いていた。そして自分一人ではないことに気づいた。
「黙れ、クズども!!ッ」
男の声が直接、頭に響くように聞こえた。
「新兵の布を取ってやれ!!ッ」
再び男の声が響いた。
フル装備の自衛隊員たちが大きな格納庫内の床に座っていた150人の人間たちの布を取り始めた。
拘束された人たちの目が慣れるまで少し時間かかったが、全員はまた怒鳴り始めた。
「わからないみたいだな・・・クズども・・・黙れ!!ッ」
今度が声とともにとてつもない痛みが伝わってきた。
小さなうめき声を除いて、格納庫内は静かになった。
「みんなが静かになるまで3分かかりました」
皮肉を込めて、格納庫の奥に建てられていた教壇に立っていた中年男が言い出した。
150人の人間は恐怖の目、その男を見ていた。
小島は思った、どこかで見たことある顔だったが、思い出せなかった。
「俺の名はカトウ臨時3等陸尉だ!!・・・てめえら、超法規的措置【赤紙】で強制徴収された、俺たち死刑囚隊の代わりになる、新しく選ばれた【捨てられるべしものたち】だ!!」
教壇に立っていた男は大きな声で言い放った。
小島が思い出した、教壇に立っているあの男、左頬が大きく削れれているのと機械的な左義手をしたあの男は数年前に東京の電気街で無差別通り魔事件で有罪判決及び死刑執行されたはずの犯罪者だった。
続く・・・




