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悪役令嬢として婚約破棄されたけど、隣国のツンデレ王子に拾われたので今さら復縁したいとか言われても遅いですわ!

作者: 結城斎太郎

「おめでとうございます、マリアベル様。殿下は、伯爵令嬢リリアーナとの婚約を決められました」


晴れやかな顔でそう告げたのは、私の婚約者だったアレクシス王太子の側近だった。


それを聞いた私は、ただ一言。


「はぁ? ……で?」


氷のような笑みを浮かべて、言い返した。


サバサバした性格で知られる私は、貴族社会では“悪役令嬢”と呼ばれていた。少しでも気に入らない相手には笑顔で毒を吐き、意見があれば遠慮なく言う。そんな私が、正統派で儚げな令嬢に婚約を奪われたのだ。


しかも、聞けば浮気は半年以上前から。どの口が誓いを語っていたんだか。


けれど、泣くほど未練もない。


「王太子殿下との婚約? こちらからお返しするつもりでしたので、ちょうど良かったですわ」


私はそう言い放つと、さっさと会場を後にした。


そして翌月。


――私は、隣国フェルゼンの第一王子・レオニスと政略結婚することになった。


彼は冷静で寡黙、いかにも「感情を表に出さない貴族の鏡」といった雰囲気の男だった。話すたびに「……は?」と怪訝そうな顔をしてきたので、最初の印象は最悪だった。


ただ、それでも私たちは形だけの夫婦として共に暮らし始めた。


ある日、国の舞踏会にて。


「マリアベル様、あなたのような強い女性、私は尊敬しています」


と、武人の息子である騎士が私に微笑んできた。


ちょうどその時、グラスを片手に近づいてきたレオニスが、無言でその男の肩を叩いた。


「……貴様、婚姻者に手を出すとは、どこの教養か教えてくれ」


「い、いえ、私はただ――」


「なら、話しかけるな。次は手を切り落とす」


恐ろしい声でそう囁いたレオニスに、騎士は震え上がって逃げた。


「……なに? 嫉妬?」


「嫉妬など、くだらん」


ふん、と顔を背けるレオニス。しかし、耳は赤く染まっていた。


ツンデレ発動である。


その日から、私は彼が自分を密かに気にかけていたと気づき始めた。食事はいつも私の好きなものばかり並び、寒がればすぐに毛布が届く。書類の山に囲まれた私を見れば、何も言わずに自分の部屋に連れて行き、膝枕で寝かせる。


……え? これ、溺愛じゃない?


ついに私も観念して、彼に問いただした。


「ねえ、私のこと、好きでしょ?」


「は? ……ち、違わない」


顔を真っ赤にして、視線を泳がせるレオニス。完全に図星だった。


「言っておくけど、私だってあんたのそういう不器用なところ、結構好きよ」


それを聞いたレオニスは、ようやく真っすぐ私の目を見た。


「なら、誓おう。永遠に、君だけを愛すると」


その言葉に、私は自然と笑ってしまった。


「なによ、それ。やけにロマンチックじゃない?」


「君がそういうの、好みだと聞いた」


「誰情報よ……!」


「調べた」


こいつ、私に興味ないフリして、裏では全部調べてたんかい。


そうして私たちは、ようやく真の夫婦となった。


――と、そこに現れたのが、元婚約者のアレクシスだった。


「マリアベル、やり直そう。君が必要だ」


「いや、無理」


即答である。


「私はもう、溺愛してくれる王子と永遠の愛を誓い合いましたので」


アレクシスは、捨てられた子犬のような顔で去っていった。


ざまぁ。


その晩、私はレオニスとベッドの上でぬくぬくと抱き合っていた。


「まったく……元婚約者に言い寄られるなんて、気が気じゃない」


「嫉妬?」


「嫉妬など、くだらん」


「耳、真っ赤だけど?」


「黙れ。寝ろ」


「へいへい。王子様」


「……うるさい妻め」


「でも、そんな私が好きなんでしょ?」


「……ああ、世界で一番」


その後、私たちは王宮で新たな生活を始めたが――。


「レオ、ちょっとその書類、私が処理する」


「……君には無理だ。退け」


「はあ? 元貴族令嬢舐めんな」


「この……強引な妻め……!」


「聞こえてんぞ、ツンデレ王子!」


今日も私たちは仲良く言い合いながら、世界で一番愛し合っていた。



---



「レオニス様。マリアベル様。――ご結婚、おめでとうございます」


宰相の厳粛な声が、礼拝堂に響いた。


今日、私は正式に隣国フェルゼン第一王子・レオニスと結婚式を挙げる。既に政略結婚として籍は入っていたけれど、この式は“愛の証”として、彼がどうしてもやりたいと言い出したのだ。


「君の晴れ姿を、皆に見せたい」


その一言に、心を射抜かれた。


私は決して“姫”タイプの令嬢ではない。豪奢なドレスより、軍馬に乗る方が性に合っていると思っていた。でも、今の私は違う。


「……まさか本当に純白のドレスが似合う日が来るとはね」


大理石の鏡の前で、私は小さく笑った。


***


「誓いますか。貴方は、このマリアベル・ド・ラヴィエールを、病める時も健やかなる時も、愛し抜くことを」


「……誓う。俺の命を賭けてでも」


レオニスが、私の手を取ってそう言った瞬間、場内の空気がざわめいた。


普段は無愛想なこの王子が、感情を露わにしたのだ。私も不覚にも、ちょっと泣きそうになった。


「マリアベル様。貴女は、このレオニス様を、いかなる困難にも共にあり、愛を貫くことを誓いますか?」


「当然よ。あんたの不器用で面倒なところも含めて、全部、私が面倒見るわ」


「……誰が面倒だ」


「ほら、今のとか!」


出席者の笑いが広がった。


この空気が好きだ。昔の私なら、誰にも愛されていないと決めつけて、仮面をかぶって生きていた。でも今は、皆が微笑んでくれる。


愛されてるって、こういうことなんだね。


***


披露宴が始まると、料理と酒がふんだんに振る舞われ、騎士団や側仕えたちまで上機嫌だった。


「王子、奥様と手をつなぎましょうよ!」


「手を取る程度、当然だろう」


といいつつ、レオニスの耳は赤い。


「王子って、あれでめちゃくちゃマリアベル様に一途なんですよ〜」


側近のロシュが飲んだ勢いで暴露したことで、貴族たちがどよめく。


「婚約前から、寝室の香水まで調べてたんですよ」


「お前、余計なことを――!」


レオニスがロシュに睨みを利かせるが、私は肘でツンとつついた。


「ねぇ、なにそれ。私の匂いフェチだったわけ?」


「……ちが……わない」


「真顔で答えるんじゃないわよ! あ〜あ、変態王子って噂になるわよ〜?」


「君も、俺のこと毎晩腕枕で寝てる癖に……」


「それは! 寝心地が良いだけ!」


式の最中、まさかの新婚夫婦バトルが繰り広げられるとは思ってもみなかった。場内は爆笑に包まれる。


そんな中――見覚えのある姿が、場の隅にいた。


「……アレクシス?」


元婚約者のアレクシス王太子が、影のようにひっそりと立っていた。


「マリアベル……お前、本当にあの男と……」


「今さら何を言いに来たの?」


「後悔してる。お前を失ったことも、裏切ったことも。……今からでも――」


「遅い。あんたの浮気で、私は一度死んだの。レオと出会って、ようやく生き返ったのよ」


きっぱり言い放った瞬間、レオニスが私の背中に腕を回してきた。


「彼女に指一本でも触れたら……この王宮から永久追放だ」


「……っ」


アレクシスは口を閉じ、静かに去っていった。


……これで、全部終わった。


彼に捨てられて、誤解されて、嘲笑された日々。全部、水に流せる。いや、流さなくてもいい。今の幸せが、それを帳消しにしてくれるから。


***


夜。


「……なぁ、マリアベル。今日は……寝るか?」


「当然でしょ。あんたの嫁なんだから」


「そうか……。俺、ちょっと緊張してる」


「可愛いかよ。あのツンデレ王子が」


「可愛い言うな……!」


そう言いながら、彼はそっと私の手にキスをした。


「これから、何十年先も……君を愛し続ける」


「ふふ。いいわよ、レオ。私もずっと、あんたを尻に敷いてやるから」


「……やっぱり君は強いな」


「当然。最強の悪役令嬢だもの」


その夜、世界で一番幸せなツンデレ王子と、最強で最愛の“元・悪役令嬢”は、互いの愛を深め合った。


***


――そして翌朝。


「おーい、マリアベル〜、王妃教育の時間ですぞ〜!」


「はー!? 新婚初日から王妃教育とか聞いてないんですけど!?」


「国家運営は待ってくれませんぞ! 愛の語らいは後回しですぞ〜!」


「ちょ、レオニス! あんたも言ってやってよ!」


「……頑張れ、妻よ」


「お前までえええええええっっ!!」


フェルゼン王国に、新たな伝説が誕生した瞬間であった。




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