08 二人の母
久々の投稿【二人の母】
こちらは、古賀コン初参戦作。
今回のテーマは「ママにならないで」
このテーマで、1時間の時間制限の中、書き上げました。
…正直ちょっと時間オーバーしたけど、気持ち的には1時間って事で(汗)
https://note.com/koga_hiroto_13/n/n632d24dbbefb
僕には母が二人いる。ママと母さん、どっちも大好き。
ママは、すごく優しくて、いっぱい誉めてくれて、いつもニコニコしてて、でも、時々ちょっぴり泣き虫で。とってもかわいい自慢のママだ。
ママは、パパと結婚する前に仕事を辞めた。結婚したら、ずっと家に居ると決めていたそうだ。周りからは「いまどき珍しい」って言われたみたいだけど
「少しでも長く一緒に居たいと思うのは当たり前でしょ? 彼はもちろん、いつか生まれてくる子供達とも」
と、迷い無く辞めたそうだ。
そして二年後、僕が生まれた。後から聞いた話だと、僕には本当は一つ上の兄か姉が居たそうだ。でも、産まれる前におなかの中で死んじゃった。ママもパパもいっぱい泣いた、でもその後、僕や妹達が元気に生まれてきてくれて、本当に嬉しかったんだって話を聴いて、僕もいっぱい泣いた。
結婚するときに言ってたように、ママは本当にずっと一緒にいてくれた。幼稚園の発表会や夕涼み会、小学校に上がってからの授業参観や運動会も、一回も欠けることなく全部パパと一緒に来てくれた。
でも……僕が小三の時、ママに癌が見つかった。その時既にステージ4、手術も難しい状態で、ママは治療より家族との時間を優先した。
後から聴いた話、お医者さんからは最初、余命六箇月を告げられていたけど、僕が小五の夏休みになるまで、今にして思えば凄い痩せ我慢だったんだろうけど、ほんと変わらず元気なママで居続けた。そして家族みんなに囲まれて穏やかな最後を迎えた。不謹慎だけど、なんかドラマみたいだと思ってしまった。
それから父は仕事と家事に追われる日々を過ごす。僕や妹達も色々手伝った。
「このくらいで音を上げてたら、ママに笑われちゃうな」
と、疲れを隠しきれない顔で、強がって笑う父を見るのが辛かった。
それから数年、時々、家事の手伝いに来てくれていた祥子ちゃんが、父と再婚することになった。祥子ちゃんはママの妹だ。
中二だった僕は、とても複雑な気持ちになったけど、祥子ちゃんは小さい頃から大好きなお姉さんだったので、嬉しい気持ちもあった。
祥子ちゃんは父と結婚してからも仕事を続けていたので、学校から帰ったとき家に居ないことも多かった。でも、父よりは少し早く帰り、急いで晩御飯を準備する。僕や妹達も時々手伝って。だから前より晩御飯の時間は遅くなったけど、なるべく家族揃って食べるようにしていた。
授業参観や体育祭にも来てくれたが、仕事のトラブルなんかで、途中で抜けていってしまうこともあった。後で何度も何度も謝られたけど、仕事だったら仕方ないよね。
そんな日々を過ごして、ある日、意を決して呼んでみた
「母さん」と
びっくりした表情で一瞬固まった後、うっすら涙を浮かべながら僕の名を呼び、そして抱きしめられた。なんだか、やっと本当の家族になれたような気がした。僕も母をそっと抱きしめた。
でも、僕を抱きしめながら、母さんが
「嬉しい……私、やっと……やっとあなたのママになれたのね……」
そう言われた時、
「違う! 母さんは母さんだけどママじゃない! ママはママだけだ! ママにならないで!」
思わず叫んでしまった。と同時に激しい後悔に襲われた。抱きしめた腕をほどき僕の胸を押す母。せっかく縮まった距離が一気に遠ざかっていくのを感じ、必死で手繰り寄せようとする。違う、そうじゃない、母さんのことも大好きだし尊敬もしている。ここで誤解されたらもう元には戻れない気がした。
「違うんだ母さん! 母さんのことも大好きだ! 母さんは母さんだけだ!」
抱き締める腕に、より力を込めた。
しばらくの沈黙の後、再び僕を抱き締める母。
「ありがとう。ごめんなさい、私、あなたの気持ちがわかってなかった。ママは姉さんだけだもんね。こんな私でも、また母さんって呼んでくれる?」
「もちろん……母さん! そろそろ皆が帰ってきちゃうよ、急いでご飯の準備しなくちゃ」