幼なじみ家族とお出かけ
大変充実しすぎて今後が怖いほどの誕生日を過ごし、週末がやってきた。香織家族と、俺たち家族でお出かけである。
事前に聞いといたところによると、お出かけといっても、以前香織とキャッチボールをしに行った河川敷の辺りにある、キャンプやグランピング、バーベキューを楽しむことができる場所に、バーベキューしに行くようだ。
「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
「おはようございます。楽しみましょうね〜」
両親が話をしているのを尻目に、香織と話をするため、両親の近くからちょっと離脱する。
「優斗、おはよ!」
「おはよう、香織」
そう話しつつ、香織に近づいて小声で話す。
「今日、どんな風に立ち回る?」
「うーん、今みたいに両親組と、子ども組で分かれて行動する気もするし、それぞれ親交を深めるために、お互いの両親と関わる流れになる気もするよね。流れに身を任せるしかないかも?」
「だよなぁ……」
個人的には前者の両親組と子ども組で分かれて行動するのだと、負担が少なくて嬉しい。
ただ、香織のご両親の好意を無碍にするのも、気が引けるので、やはり流れに任せるしか無さそうだ。
その後、割と沢山ある荷物を重さを見つつ、手分けして持った。
「よし、そしたら出発するよ。少し歩くから、気をつけるように」
「わかったー!」
「元気でよろしい」
こういう時、美咲は自然に場を和ませたり、話しやすい雰囲気にするのが得意なんだよな。どうかそのままでいてくれ。
1番前に俺の両親、その後ろに俺と香織、その後ろに美咲と香織のご両親と、並んで歩いていく。
美咲が香織のところに来ないのが意外だったけれど、どうやら香織のご両親に捕まっているようだ。うちの両親が香織を可愛がってくれるのと、似た心理なのかな?
「優斗、今日、お父さんたちが話したがってたから、どこかで話すことになると思う。ごめんね?」
香織が、さっき話したことを気にしていたのか、そのように話しかけてくる。
「全然大丈夫だよ。決して、香織のご両親と話すこととか、一緒にいることが嫌な訳じゃないんだ。ただ、俺の言動で失望されないか心配なだけで……」
「それなら心配ないね。私が保証する」
「なんでそんなに自信満々なんだよ。正直、未熟なとこしかないと思ってるんだが」
そう聞くと、香織は「だって」と前置きしてから、話す。
「私は今まで、子どもの頃も、今も、一度も優斗に失望したことなんてないもん」
「……あ、ありがとう?なのかな」
「だから、自信もって!」
「お、おう」
そう言われて嬉しくないわけが無いが、やっぱり不安は拭いきれないもので。
夏休みの海での出来事をきっかけに、筋トレやランニングなど、トレーニングに励んでいるものの、直ぐに結果が現れるものでもないし。
まだ不安や自信のなさを抱えていることを、察したのか、話を続ける香織。
「うーん、だったら、私を信じて?」
「……?香織のことは信じてるけど」
「それなら、問題ないはずだよ。私は、今まで会ってきた男の人の中で、優斗が1番だって思ってる。人柄も、私のことを考えてくれてる所も。だから、私のことを信じるなら、私が信じてる優斗も、信じてあげてよ」
「どこかで聞いたセリフみたいだな。けど、わかった。信じるよ」
香織はその言葉を聞いて、頷いて微笑んだ。
気づけばバーベキュー会場のすぐ近くまで来ており、準備を始めることとなった。
「優斗、手伝ってくれるかい?」
「わかった。ちょっと行ってくるな」
父さんに呼ばれ、キャンプで使うようなイスやテーブルの準備に取り掛かる。
「香織、こっちを手伝っておくれ」
「はーい」
「美咲はこっちよ〜」
それぞれ手分けして、バーベキューの準備が行われていく。
テーブルやイスも、組み立てるだけとはいえ、今日は2家族分なので、人数分用意するのはなかなか骨が折れる。
ストレッチがてら、身体を起こし、周りを眺めて見ると、準備を進める家族の面々がよく見える。
「これ、こうであってるよね?」
「そうだよ。バッチリだ」
香織と、香織のお父さんはコンロの用意に忙しくしているようだ。
「それにしても、どこで学んできたんだい?ほとんど香織が準備してしまった。お父さんの立つ瀬がないよ」
「優斗たちとの帰省旅行の時に、優斗に教えて貰ったの。その時は任せっきりだったよ」
「おや、優斗くんはアウトドアにも明るいのかい。それは助かるなぁ」
何やら預かり知らぬところでまた香織のお父さんからの評価が上がっている気がするが、すっと目線を逸らし、母さんたちの方を見る。
「お肉たくさんだね!」
「美咲ちゃん、野菜も沢山食べるのよ」
「ナス以外なら食べるよ!」
「ほんとにナス嫌いよね〜」
美咲とお母さん2人が、食材の管理と準備をしていた。美咲は相変わらず元気いっぱいである。
「優斗、そっち持ってくれるかい?」
「あっ、ごめんごめん。今やるよ」
各々自分の準備を終わらせ、お昼に間に合った。
俺は手を洗いに近場の水道へ向かう。
季節的にも、寒くなりすぎず、暑すぎずの時期なので、外でも比較的過ごしやすい。俺たち以外にも利用者が沢山いるから、多少騒ぎすぎても大丈夫そう。
「お兄ちゃーん!お肉焼き始めるよ〜!」
「今戻るよ!」
家族の待つテーブルへと戻り、いよいよバーベキュー開始だ。
早速お肉が並べられ、焼くのを待つ間に、香織のご両親に話しかけられる。
「優斗くん。昨日が誕生日だったな。遅くなってしまったが、誕生日、おめでとう」
「これからも、香織をよろしくね」
その言葉を聞いて、俺は慌てて少しくつろぎ気味だった姿勢を正して、感謝を伝える。
「ありがとうございます。もちろん、これからも香織とも、ご両親とも、いい関係を続けられるように努力します。けれど、実際のところ、お世話になるのは俺の方だと思います」
「あらまぁ。謙虚ね」
「そうなの。優斗はちょっと謙虚すぎるというか、自己評価低いんだよ」
俺とご両親との話に入ってきた香織。助け舟を出してくれるのかと思いきや、何やらいたずらっ子のような表情をしている。
「あら、お父さんと似てるわね。お父さんも若い時、自己評価が低いどころか、自己嫌悪していたわ」
「ちょっと母さん。やめないか」
「そうなんですか?そうは見えないですけど」
どちらかと言うと、威厳を感じる人で、そういったことに悩んでいたとは思えない。
「自分なんか自分なんかってね。思い詰めてたこともあったわ」
「母さん!」
「あらあら、ごめんなさいね。とはいえ、優斗くん。謙虚なところは美徳だし、時間が解決してくれることでもあるから、気にしすぎないようにするのよ」
「はい、心に留めておきます」
そう話していると、とてもいい匂いがしてきた。
「そろそろ焼けるよ」
「さぁ、いただきましょうか」
「「いただきまーす!」」
その後、イカや貝などの魚介類や肉、野菜が次々と焼かれ、みんなで食べていく。
「焼けたよ。美咲ちゃん、食べるかい?」
「食べる食べる!おじちゃん、ありがとう」
「うむ、うむ。よく食べなさい」
何やら美咲と香織のお父さんの息があっていたり、
「お肉にはお酒よねぇ〜」
「美味しいです〜」
「たまにはいいわよね〜」
お互いのお母さんがお酒を飲み交わしていたり、
「優斗、ご飯粒ついてるよ」
「えっ、まじか。どこ?」
「動かないで、取ってあげる」
香織に頬の方に付いてたご飯粒を取ってもらって、恥ずかしかったり、
「香織お姉ちゃん、これ美味しかったよ」
「ほんと?私も貰おうかな」
「食べるかい?どうぞ」
「ありがとうございます。……ほんとだ、美味しい」
父さんの食べていたおつまみを貰って、香織と美咲が感想を伝え合っていたりなどなど……
色々な様子が見られて面白かった。
あっという間に食べるものもなくなり、片付けの時間となってしまった。
不思議なもので、準備よりもなんだか呆気なく、スムーズに片付けも終わった。
何やら他の家族は話をしているようで、少し時間が出来たので、目に付いたゴミを片っ端から拾って帰ることにする。
俺たちが出したゴミはもちろん、投げられていたペットボトルやら、花火の残骸やらを、どうせゴミ袋をもっているので、拾って集める。
「優斗、ゴミ拾い?」
「あぁ、なんか気になったから。来た時よりも美しくってやつだな」
「偉いよね。そういうとこ、真似しなきゃだね」
そう言って香織もゴミ拾いを手伝ってくれた。目につくゴミはなくなり、満足である。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうね。またやりましょうね」
「楽しかったー!」
心の中で美咲に同意しつつ、荷物を持って、バーベキュー会場を後にした。
漠然と不安に思っていたけれど、楽しかったし、なんの心配もいらなかったな。
早くも次の予定はどうなるかを話している両親たちに聞き耳を立てつつ、香織と美咲と、話しながら帰って行った。




