幼なじみと2家族でお出かけの予定
「あとは、来週の週末、私たちと、香織ちゃんご家族で、お出かけすることになったくらいね」
「…………は!?」
いやいや、何話したらそんな約束する展開になるんだよ。
「それじゃあ、私はそろそろ……」
「あっ、そうね。また遊びにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
俺が戸惑っている間に、香織がそそくさと家に帰ろうと挨拶して動き始める。
あれ、驚いてるのは俺だけ?さては香織のやつ、事前に知ってたな……?
とはいえ、引き留める理由も見つからず、少し話をしてから香織を見送って、リビングに戻る。
「それで、何がどうなったらそんなことになるんだよ」
「別にいいじゃない?それとも、優斗は香織ちゃん家族とお出かけは嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど……。心の準備ってものがだな」
「まだお出かけまで日にちは十分あるから、大丈夫ね」
香織と、お互いの家族含めて出かけることなんて、小学校の頃にも数えるほどしかなかったんだから、驚くなという方が無理な話だろう。
よく考えたら、なんで香織がさっき決まったはずのお出かけを事前に知ってたんだ……?
「まあまあお兄ちゃん、楽しそうだしいいじゃん」
「そうだけど……」
なんか引っかかるんだよなぁ……。
結局、その日はそれ以上のことは何も伝えられることはなく、日が暮れていった。
翌日、俺は体育祭の振り替えで休みだったので、香織の下校時間に合わせて、駅まで迎えに行って、2人で帰った。今日あったことや、来週の予定の話をしたものの、何やら用があるようで、あまりゆっくりはできなかった。
何とも言えない違和感を抱えたまま、その日も過ごした。
そしてまた翌日。
「おはよ。なんか久しぶりな感じするね」
「そうだな。ちょっと日が開いたし」
体育祭の準備やら、振替休日やら、週末やらが重なって、朝一緒に駅まで行くのは久々な感じがする。
「なんかいつもより眠そうだね」
「ちょっとした連休の後はそういうもんだ」
もっともらしい理由を用意したつもりなものの、実際はここ数日感じてる違和感に悩んでるだけなんだが。多分、香織がなんか隠してるんだと思うんだけど……。
「……?どうしたの?じっとこっち見たりして」
「いや、何でもないよ」
「そう?ならいいけど」
こう見てるといつも通りなんだよな。俺の気のせいか?
世間話をして歩いているうちに、駅についてしまった。日に日に駅までの距離が短くなっているような気がする。
「それじゃ、また帰りにね」
「おう、またな」
そう言ってお互い電車に乗り込み、学校へ向かった。
学校について、教室に入るとすぐに谷本に声をかけられた。
「橋崎、ちょっと来い」
「お前、おはようくらい言ってからでもいいだろ。てか朝練は?」
「いいから」
カバンの片付けもそこそこに、谷本に引っ張られて教室を出て、裏庭へ連れていかれる。
「おはよう橋崎くん。お休みはゆっくりできたかな?」
「おはよう。まあまあかな」
途中で青原さんも合流して、裏庭のベンチに座る。
「それで、なんで連れてこられたんだ?」
「橋崎、体育祭であったこと、忘れてないよな?」
「香織が目立ちすぎたことか?」
忘れる方が難しいだろ。まだ3日くらいだぞ。
「その『謎の美少女騒動』が、まだ収まりきってないの。私たち二人は、朝練で早めに学校に来たわけだけど、まだ聞いてくる男どもがいるの」
「はあ!?」
週末挟んだのに!?
「だから、できるだけ、休憩時間は一人でいないようにしろ。あの日の放課後ほどじゃないが、質問攻めにあうだろうから」
「香織の影響力すごすぎるだろ……」
「もし香織ちゃんがうちの学校だったら、今頃告白ラッシュだろうね」
「迷惑すぎる」
なんでそんなに気になるんだよ。名前も知らないはずだろ。
「そんなわけで、黙って連れ出したってわけだ。ありがたく思え~」
「思え~!」
「ああ、ありがとな」
素直にありがたかったので、お礼を言うと2人がぎょっとした表情になる。
「は、橋崎が」
「素直だ!」
「別にいいだろ!」
普段の俺、そんなにひねくれてるか?……ひねくれてるか。
「うーん、もうちょっと休憩時間あるな」
「戻るのはぎりぎりにしたいよね。橋崎くん、なんか面白い話ない?」
「キラーパスだな」
そうだなぁ……。せっかくだし、2人に相談してみるか。
「それじゃ、ちょっと相談してもいいか?」
「なになに?」
「実はさ……」
俺はこの週末にあったことや、感じた違和感を2人に話してみた。
「うーん……」
「ふむ……」
少し考える素振りをしてから、2人は俺に背を向けて、こそこそ話し始めた。
「これってさ……」
「うん、十中八九、あれだよね」
「俺もそう思う。これって話していいやつか?」
「ダメな気がするけど……、このままだと、本人に聞きそうじゃない?」
おい、何話してるんだこの二人。なんも聞き取れないんだけど。
「そうだよな。中村さん、ごまかしきれると思うか?」
「……無理じゃないかな」
「そうだよなぁ……。だったら俺らから伝えといて」
「知らないふりが最適解……かな」
あの~、もしも~し。
「俺もそう思う。っていうか青原、難しい言葉使えるんだな」
「失礼な!」
「うわびっくりした!」
突然青原さんが大きな声を出したので驚いた。
「それで、何話してたんだ?」
俺がそう聞くと、2人は一度顔を見合わせ、谷本が話始める。
「あー、橋崎。中村さんに、来週の予定とか聞かれなかったか?特に金曜日」
「うん?昨日聞かれたな。それがどうかしたのか?っていうか金曜日ってなんだ?」
2人は目を見開いて、お前マジか、というような表情になる。
「橋崎くん。ほんとに気づいてないの?」
「な、何をだよ……」
「来週の金曜。何日だ?」
「えっと……、10月25日……あっ!」
今更気が付いた。その日、俺の誕生日だ。
「まあ要するにだ。今中村さんに違和感感じるのは、その日のためだと思うぞ。だから、何もせず、ただ待ってたらいい」
「例の2家族一緒のお出かけは、香織ちゃんがお母さんたちに橋崎くんの誕生日が近いのを伝えてて、お願いしてたんじゃないかな。愛されてるねぇ~」
「香織……」
別に、香織のことを疑っていたわけじゃないけど、プラスの情報ばかり出てきて、勝手に漠然と不安を感じて、もやもやしていたことを反省した。
「2人とも、ほんとありがとうな。すっきりしたし、ちょっと反省した」
「いいってことよ~」
「おうよ。反省しろしろ。お前、鈍すぎるんだよ」
「しょうがないだろ。家族以外から誕生日祝われるなんて、これまでほとんどなかったんだから」
それこそ、去年にささやかに祝ってくれた谷本くらいだ。
「っていうか、青原さんに、俺の誕生日教えてたっけ?」
「谷本くんにこっそり聞いちゃった。ごめんね?」
「いや、いいけど、それなら青原さんの誕生日も教えてくれよ。谷本は1月11日だったよな?」
そう聞くと谷本はパチパチを拍手をして言った。
「正解だ。よく覚えてたな」
「覚えやすい日付けだもんね~。私は11月30日だよ」
「わかった。覚えとくな」
その時、学校のチャイムが鳴った。
「やっべ!話過ぎた!遅れるぞ!」
「急げ急げ!」
俺たちはバタバタとあわただしく、クラスへと戻っていった。




