幼なじみと打ち上げ
「あっ、きたきた!橋崎くん、こっちだよ〜」
「ごめん、遅くなった」
「お勤めご苦労!」
「それ流行ってるのか?」
教えてもらったファミレスに入ると、青原さんが手を振って居場所を教えてくれた。その手にはパフェでも食べていたであろう、スプーンが握られている。
みんなは男子と女子に分かれて、向かい合って座っていたので、男子側の空いてるとこに座ると、自然と正面に座っていた香織と目が合った。
「香織、谷本や青原さん辺りに嫌なこととか聞かれなかったか?」
「うん。楽しく話してたから大丈夫だよ」
「橋崎くん、頼りにしてるって言ってくれてたのに、心外だなぁ」
「名指しなとこに信頼を感じるよな」
「そういうとこだぞ」
まぁ、一応聞いといただけで、実際のところはほとんど心配はしてなかったけど。
「それよりさ。こっちのファミレスで良かったのか?俺と香織以外は割と家から離れちゃうよな?」
「それはしょうがないことなんだよ」
ここに来るまでに感じていた疑問をぶつけてみると、青原さんが答えたあと、佐々木が付け加えた。
「学校あたりのお店は色んなクラスが打ち上げやらなんやらで使うからね。最悪の場合、鉢合わせることになるから」
「あぁ、なるほど」
「ほんと、ごめんね。私のこと気遣って、色々考えてもらって」
香織が申し訳なさそうに話した言葉に、青原さんと七海さんが素早く反応した。
「香織ちゃん、そういう時はありがとうの方が嬉しいもんだよ」
「そ、そうだよ。気にしないで」
そういえば、いつもは香織が俺にそんなことを言ってくるイメージなのに、珍しいな。
「それに、どっちかといえば橋崎の方に原因はあるしな」
「そういう話になったよね」
俺の居ないうちに俺のせいになっていたらしい。そりゃ、原因は俺にもあるかもだけど、なんか解せぬ。
「あの、橋崎がクリアしたお題だけど、ちょっと捻って[頼りになる異性]ってなってたけどさ。別に同年代じゃなくていいんだよな」
「……あっ」
「要するに、女の先生を2人、それこそ、生徒会の顧問の先生とか連れていけば、もっと簡単にクリアだったわけで」
「わざわざ香織ちゃんを呼び出しに行った橋崎くんが、香織ちゃんが注目されるきっかけを作ったってことになるよね」
……なんにもいえん。納得してしまった。
「しょ、しょうがないだろ。俺も早くクリアしなきゃって必死だったし、お題見て、1番最初に思い当たったのが香織だったんだから」
「優斗……」
「ひゅー、お熱いねぇ」
「でも、先に借りたのは、桃ちゃんだったよね」
「確かに私が先だった。すぐ香織ちゃんも借りに行くんだろうなって思ったけど」
何やら理由を求められているので、正直に答える。もうバレてるようなもんだし。
「お題を見て、香織だなって思って、そこから、色々香織関連で相談に乗ってもらってた青原さんが思い当たったんだ。借りた順番は近い方からってだけ」
「なるほど納得」
「私の事で相談?」
そう香織が疑問を抱いたところで、青原さんがニヤニヤとうっすら笑いながら、話し始める。
「そうだよ〜。香織ちゃんへのお土産とか、告白とかね。けど、勘違いして欲しくないのは、どれも最後は橋崎くん自身が決めてたから、安心して」
「お土産はわからんけど、告白相談に関しては、俺も証人だな。俺らはアドバイスとか案出しをしただけで、決めたのは橋崎だ」
「そうだったんだ。色々優斗がお世話になったんだね。ありがとう。これからも、私共々よろしくお願いします」
なんとも居づらい雰囲気である。親が友達に「お世話になってます」的な挨拶をする時みたいな気まずさと恥ずかしさに似てるが、これはそれを超えてる。
「香織ちゃんから丁寧なお願いを聞いて思い出したから、私が橋崎くんに言われた言葉をそのまま香織ちゃんに伝えよう」
「は?何を……」
「まぁまぁ」
青原さんをそろそろ止めようと、俺は抗議の意味を込めてデコピンでもしようと思ったが、谷本に止められてしまった。
俺の静止も意味をなさず、青原さんは話し始める。
「えー、こほん!……困ってたら助けるし、いつでも相談に乗るよ。迷惑だってかけてくれていい。友達って、そういうもんだろ?」
「へぇー、いい事言うねぇ」
「もう勘弁してくれ……」
青原さんは無駄にカッコつけた声色でそんなことを言う。確かに似たようなことを言った記憶があるけど、わざわざみんなの前で言うか?しかもなんか誇張されてない?
このまま俺について話され続けたら、どれだけのダメージを負うかわかったものではないので、何とか話題を変えようと口を開く。
「そ、それはそうと、青原さんがお題を黙ってみんなを集めてった話はもう解決したのか?」
「そういえば橋崎が来た時に、その話の途中だったよな」
「ギクッ」
「1度ならず2度までも俺を餌にしたのか……」
思っていたよりもスムーズに話の標的をすり替えることが出来て、一安心である。
その後も、話が盛り上がり、あっという間に解散しなければいけない時間となった。
「しくしく……そんなに叱らなくてもいいじゃん」
「桃ちゃん、私たちにそれは通用しないよ」
「ほら、帰るぞー」
「みんな冷たい!」
あれから、主に幼なじみ2人からこってり絞られた青原さん。とはいえ、なんというか、愛のある感じの叱り方だった。
何はともあれ、今日の打ち上げで、だいぶ距離が縮まった、というか仲良くなれた気がするな。
「それじゃ、橋崎も中村さんも、またね」
「あぁ、また学校でな」
「今日はありがとう。またね」
「また誘うね〜!」
4人とは乗る電車の方向が違うので、手を振って別れ、香織と2人で電車に乗る。
「色々あったけど、楽しかったね」
「そうだな。恥ずかったけど」
「かっこいいこと言ってたもんね」
微笑みながら褒めてくれる香織。静かに手を合わせてくるので、さっと繋ぐ。
「うーん、けど、ちょっと羨ましくなっちゃった」
「……同じ学校に通えたら、みたいなことか?」
「それもあるんだけどね」
香織は1度間を開けてから、話し始める。
「私、今日みたいに話せる友達、学校にいないんだ」
「えっ、以外だな。いつも周りに人がいるイメージだったけど……」
少なくとも、中学校まではそうだったはずだ。
「部活辞めちゃったから、その関係の人とは気まずいし、学年で人気の男の人の告白断ったとか、成績がいいとかで、だんだんね。話す友達がいない訳じゃないよ?ただ、遊びに行くほど、仲良い訳じゃないんだ」
何となく、想像ができてしまった。男の生徒は、断っても断っても、寄ってくるのに、それによって、女の生からは距離を取られてしまうんだろう。
「じゃあ、もっと遊びに行かないとな。今日のメンバー全員が揃うのは難しいかもだけどさ、色んなとこ遊びに行きたいな。それこそ、夢の国とかな」
「ほんと、楽しそうだね」
「谷本と青原さんすごいんだぞ。2人がいたら夢の国楽しみまくれる」
「そうなの?」
まだ、俺たちの状況では、行くことはできないけど、いつかのその時を思い描いて話をする。
夢の国に行くことは難しくても、近いうちにみんなを誘って遊びに行く約束を取り付けることを、心に決めた。




