幼なじみと体育祭 その3
「おっ、橋崎くん、来たね〜。お勤めご苦労様です」
「俺は社長かなんかか?」
いよいよ借り物競争のスタートが迫ってきていたので、生徒会の仕事を他のメンバーに任せ、入場門で集合していた青原さんと合流した。
「さてさて、どんなお題になるかな」
「どうだろうなぁ。こればっかりは運次第だな」
明らかに無理だとわかるお題は却下していったものの、俺以外のメンバーが確認したお題については知らないし、やばめのが隠れているかもしれない。
「今日も、よろしくな」
「頑張ろうね〜」
同じチームとなる、成瀬くんと長谷部さんと合流し、挨拶して、情報共有する。
「それじゃ、お題が分かったらすぐ借りに行く。悩むものだったら、相談に戻るってことでいいな?」
「異議なーし」
リレー形式で、走者の人が借りてこなければ行けないが、どこに借りに行くだとか、誰が持ってそう、なんて相談をしてはならないというルールは無いため、だいたいどのチームも同じ感じだろう。
作戦を話し合い、順番は1番が成瀬くん、2番が俺、3番が長谷部さんで、青原さんがアンカーとなった。
一応リハーサルの時も、同じように順番を決めていたものの、リハの時はお題なしで行われたので、実質ぶっつけ本番である。
しばらくして現在行われていた競技が終わり、いよいよ入場の時間となる。
並んで入場し、いざ競技開始である。
「パァン!」というスタートの合図と共に、9人が一斉にスタートする。
お題を引いたり、きちんとお題が達成されているか確認したりと、走り回る以外の時間もあるため、なんだかんだ接戦になっていくはずだ。
1つ目のお題を引いた成瀬くんが、「ゲェー」と言うような表情になり、俺たちの元に戻ってきた。
「やばい。黒板用ものさしだ。1番近くで借りれるのどこだろ」
「誰が先生捕まえて、職員室じゃない?ルール的に黙って持ってくるのはダメだったよね」
「あぁ、あくまでも借りないといけない」
「だっるいな!行ってくる!」
そう言って成瀬くんは走り出した。
「うーん、幸先悪いかも」
「まだ1人目だし何とかなるよ。多分」
成瀬くんの帰りを待つ間にも、[緑のメガネ]や[体育教師]など、比較的わかりやすいお題のチームが次の走者にバトンを渡していく。
5チームが次の走者になったあたりで、成瀬くんが戻ってきた。
「悪い!待たせたな」
「大丈夫、真ん中くらいだ」
俺はお題をクリアした成瀬くんからバトンを受け取り、お題の入った箱へと走る。俺は第2走者なので、お題のものを2つ持って行かなければならない。
ゴソゴソとお題箱の中から1枚の紙を取り出し、紙を開いて中を見る。
[頼りになる異性]
何だこのお題。どうやってクリアしてるか判断するんだよ。これ。
そう思ったものの、お題に沿った人が思いついたので、連れていくために、まずは3人の所へ向かう。
「青原さん!一緒に来てくれ!」
「私!?私がお題なの?」
そう聞いてくる青原さんに、お題を見せる。
「[頼りになる異性]、ねぇ〜。そう思ってるんだ。へぇ〜?」
「うっせ。もう1人のとこ行くぞ!」
「はいはい。どうせ香織ちゃんでしょ」
保護者の方や地域の人が使う、観客テントへと、2人で走っていく。
「いた!香織!」
俺と青原さんは手を振ったり、大きく手招きしたりして、香織を呼ぶ。
「わ、私!?」
困惑しながらも、香織は出てきてくれたので、俺が左手を、青原さんが右手を取って走る。
「ちょ、ちょっと待って!」
「ごめんね香織ちゃん!今結構後ろの方だから、少しでも巻き返さないと!」
「そういうことだから!」
お題をクリアしているか、判定する人の元へ向かう。
判定する係は一応の予備まで含めて5人。その中の1人に向かって走る。
「判定、よろしく」
「早かったな。橋崎。見覚えのある人ばっかだが、お題はなんだ?」
そう聞いてくる判定係である谷本。
俺はお題の紙を手渡す。
「ふむ、[頼りになる異性]、な。間違いないだろ。クリアだ」
「よし、そう言ってくれると思ってた」
「青原はともかく、中村さんに関しては、他の判定員なら怪しいかもな。まぁ、高校名とか出していいなら行けたと思うが」
「とりあえず、サンキュな」
バトンを渡すべく、待つ2人の元へ戻る。
「お待たせ!」
「早かったね。行ってくる〜」
次の長谷部さんにバトンを渡すと、長谷部さんは走りだした。
「えっと、私はもう戻っていいのかな?」
「あっ、ありがとな。香織。助かった」
「ありがとね!」
「どういたしまして。それじゃ、頑張って!」
香織は俺たちにエールを残して、観客テントに戻って行った。
これまでの様子を見ていた成瀬くんは、遠慮がちに口を開いた。
「橋崎くんよ、今の人、知り合いか?とんでもない美人じゃなかったか?」
「……幼なじみなんだよ」
「へぇ〜、いいな」
何やら青原さんにニヤニヤされているが、スルーだ。
「戻ったよー!」
「早っ!?」
えっへんと胸を張る長谷部さん。
「それじゃ行ってくるー!」
慌てて青原さんも走り出す。だいぶ巻き返して、3位辺りだろうか。
「長谷部さんのおかげだな」
「お題が簡単だったからね。[同じクラスの女子]だったから」
稀に見る良心的なサービスお題だ。
「橋崎くーん!」
「お、戻ってきた」
駆け足で戻ってきた青原さん。割と走ってきたのに平気な様子で、話しかけてくる。
「橋崎くん。勝ちたいよね?」
「そりゃ、できるなら勝ちたいけど……?」
なんでそんなこと聞くんだろうか。
「じゃあごめんね?一緒に来て!」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「いいからいいから!」
青原さんはそういうと観客テントへと走っていく。
「橋崎くんは香織ちゃん探してね。私は結探すから」
「お題が全く読めん」
とりあえず言われた通り、さっきと同じ場所へ向かい、香織を呼び出す。
「また私?」
「そうなの!一緒に来て!」
「あっ、お久しぶりです」
いつの間にか七海さんを連れて青原さんが戻ってきていた。
「あとは奏多だけ」
「佐々木ならあっちじゃないか」
「行こ!」
俺が部活動リレーに向けて待機している辺りを示すと、青原さんは走り出した。
慌ててついて行く俺たち3人。
「もしかして……?」
香織はお題がなんなのか、わかったのだろうか。つぶやきが聞こえる。
そうしている間にも、1位が決まってしまった。最後のお題は[先輩、または後輩の生徒]だったようだ。
「いた!奏多!一緒に来て!」
「わかった。ちょっと待って」
佐々木は部活のメンバーに一言伝えてこちらにやって来た。
「よし、あとはチェックに行くだけ!」
「これ、お題なんだった?」
「俺も知らされてない」
戻っていく間にも、2位が決まってしまった。得点が加算されるのは3位までなので、3位が決まると、競技が終了することになる。
「あー、先にクリアチェックしてる人いる」
あのチームがクリアだった場合、俺たちは4位になるため、負けになってしまう。
「とりあえず、行こう」
青原さんは、谷本を選んでチェックを求める。
「お題チェックお願い」
「さっきぶりだな。まーた知り合いばっかだよ。それで、お題はなんだ?」
「お題は……」
青原さんが紙を開き、谷本に見せようとしたところで、先にクリアチェックをしてもらっていたチームのお題が認められ、3位が決まってしまった。
よく見たら会長だ。くっそ、もうちょいだったんだけどな。
「残念だったな。負けは負けだけど、まだ生徒が全員帰ってくるまで時間あるだろ。お題だけチェックしてやるよ」
そういう谷本に、青原さんは紙を差し出す。
「えっと、なになに……。はっはーん?さてはお題知らせずに連れてきたな?」
「えっ、お題なんだったんだよ」
ニヤニヤする谷本と顔を逸らす青原さん。
「[想い人がいる人、またはカップル]か。お題クリアだな。おめでとう」
「「「「!!??」」」」
「ちょ、谷本くん!間に合わなかったなら言わなきゃバレなかったのに!」
谷本にツッコミを入れた青原さん。その後ろに、2人の影が見える。
「桃ちゃん……?」
「青原、そういうことは黙ってたらいけないよな」
「うう、ごめんって〜。谷本くん助けて!」
「俺は判定係の仕事を果たしただけだ。それじゃ」
「あっ、待って!置いてかないで!」
2人に捕まって叱られる青原さん。その様子を見ていると、香織が話しかけてきた。
「優斗、私と付き合い始めたこと、みんなに話したんだね」
「あっ、えーと、その、な?」
「なんでそんなに慌ててるの?優斗にしては珍しいなって思ったけど、なにかやましいことでもあるの?」
どうやって誤魔化そうかと考えていると、青原さんがキラリと目を光らせた気がした。
「それはそうと橋崎くん!香織ちゃんとの事はいつ紹介してくれるのかな!?」
「なっ!?」
「優斗、紹介ってどういうこと?」
青原さんめ、自分が怒られてる状況を帰るために爆弾投下してきやがった。
「えっ……、あっ!そっか。お題がクリアってことは……」
「橋崎と中村さん、もしかして、そういうこと?」
情報過多なんだけど。どう対処すればいいんだ?
「ほら!退場準備しなさい!みんな帰ってきてるわよ!」
「やばっ!戻らなきゃ!」
「後で話聞かせてね?」
俺が目を回しそうになっていると、競技の補佐をしていた副会長のお叱りを受けた。
香織と七海さんは観客テントへ、佐々木は部活動対抗リレーの列に戻っていき、一旦助かった。
「青原さん、勘弁してくれよ……」
「ごめんね?でも、あのままじゃ私、2人にめっちゃ叱られてたからさ……」
「後で俺もみんなに捕まって、色々聞かれるんだろうけど、青原さんに、俺と香織からも話あるからな」
「ひえっ」
青原さんはこの後のことを想像したのか、身体を震わせた。
俺も覚悟しとかないとな、と思いながら、退場していった。




