幼なじみ彼女と体育祭 その1
「それじゃ、次、リレーの走者決めるぞ〜」
美咲に香織と手を繋いで帰っているところを見つかり、バタバタと騒がしい夕方を過ごした日の翌日。
学校の授業の中で、体育祭の選択種目決めが行われていた。体育委員の谷本が司会のようなことをしてる。
「橋崎くん、どれやるの?」
つい先日の席替えで、たまたま隣になった青原さんが話しかけてくる。
「なんか余ったら、かな。別に参加しなくても良いやつだし」
「それはそうだけど、つまんないねぇ」
「生徒会の仕事もあるし、その方が都合いいんだよ」
そもそも絶対参加の学年の種目が、よく分からないダンスと、男女それぞれの綱引きなんかがあるため、選択種目は数が少ないのである。
「そういう青原さんは?」
「私は多分……」
「青原!リレー出てもらってもいいか?」
「うん、大丈夫だよー!」
話している最中に、青原さんは前の方でリレーのメンバー決めをしていた谷本たちに呼ばれた。
「まぁ、こうなると思ってたの」
「そっか、運動神経いいもんな。応援してるよ」
「華麗な走りを見ていてくれたまえ」
青原さんと話をしながら様子見すること数十分。
リレーの他にも、5人6脚や障害物競走の出場者が決まり、最後の選択種目になった。
「それじゃ、最後だ。借り物競争出たい人いるか?」
谷本がクラスに呼びかける。
「あれ、誰もあげないな」
「ほんとだね」
割と人気のある種目だと思ってたのだが、なんでだろうか。
「多分、見ている方が楽しいことに気づいたんじゃない?」
「あぁ、確かにそうかも」
うちの高校は、各学年6クラスあるため、赤、白、青の3色に2クラスずつ分かれる。そして、各色各学年から4人のチームが3つずつ、系9チームが借り物リレーをすることになっている。
結構な人数が同時に走り回るため、毎年借り物競争は盛り上がりを見せるものの、盛り上がってるのは主に観客で、出場者本人は最後になりたくない一心で、借り物求めて走り回ることになる。
そりゃ立候補も少ないか、と思っていると谷本が確認し始める。
「うーん、困ったな。各クラス2名なんだが、出来れば男女1人ずつが望ましいんだが、やってくれる人いないか?」
シーン……と聞こえてきそうなほど反応がないクラス一同。頑張れ、谷本。
「とりあえず、決めないとだからさ。ちょっと周りの人と話し合ってみてくれるか?」
谷本の指示で、ガヤガヤと話し合いが始まる。
俺達も引き続き話す。
「これ、まだ何もやってない人になるパターンじゃない?」
「そんな気がするな」
「てことは橋崎くんピンチだね」
「生徒会が忙しいのは嘘じゃないから」
「そうはいってもね〜、ほら、来たよ」
「はい?何が来たって」
青原さんが示すほうを見ると、谷本がこちらを向いて歩いてくるのが見えた。
「橋崎、まだ何も参加してないよな。頼むよ」
「いやいや、俺生徒会で忙しいしさ」
「でも他にいないんだって!頼む!親友を助けると思って!」
「うーん……」
「橋崎も生徒会なら分かるだろ?誰も上げないのに、誰か決めないといけないの、キツイんだよ」
谷本は俺に必死に訴えてくる。けどなぁ、他のはともかく、借り物競争はさすがに遠慮したい……。
「もし橋崎くんがやるなら、私もいいよ。その方が協力しやすいだろうし」
「ほんとか!?橋崎、青原もこう言ってるしさ、ダメか?」
「……わかったよ。この話し合いの後、誰も手をあげなかったらな」
「サンキュな橋崎!青原も助かった!」
そう言って谷本は教卓の方へ戻って行った。
「青原さん、こうなるの予想してた?」
「まぁね。谷本くん、誰とでも仲良くやってるけど、こういうのお願いできる関係なのは、私たちくらいだと思うし」
そう話しているうちに、谷本を含めた体育委員がクラスの話し合いを止め、話し出す。
「それじゃ、改めて。借り物競争、やってくれる人、いるか?」
話し合い前と同じように、シーン……と聞こえてきそうなクラス。しょうがないか。
隣の青原さんと顔を見合わせて、2人で手をあげる。
「青原さんに、橋崎くん。ありがとう」
無事に選択種目の出場者が全て決まり、話し合いが終わった。
「マジでありがとな。助かったよ」
「どういたしまして」
その日の放課後、昨日と同じように、生徒会室へと向かう。
その途中で、会長と合流した。
「そうか、橋崎も借り物競争出ることになったんだな」
「俺も、ですか?」
「あぁ。実は俺も借り物競争に出ることになったんだ。勝負だな」
そう言ってワハハと笑う会長。少し、借り物競争が楽しみになった。
なんて、思っていたのだが。
メンバーが集まり、今日から放課後、各クラスから集まったお題や、1個じゃ物足りなかった生徒や、先生、保護者の方が考えたお題を入れる、お題投票箱の中を確認することになる。
俺と会長は、競技に参加する立場だが、人手も足りていないし、自分の元になんのお題が来るのかは分からないので、確認にも参加していいことになった。
まだ初日ということで、2クラス分程しかないので、まだ楽な方ではある。
[1番距離の近い異性]
[SNSフォロワー200人越えの人]
[使い古した鉛筆]
[生卵]
わけの分からないお題が出るわ出るわ。
1番距離の近い異性はアニメとかでは定番だし、使い古した鉛筆も、難易度は高そうだが、先生が持っている可能性もあるし、いいとしよう。
ただ、なんだ生卵って。朝食べてきたのかな?
フォロワー200人越えも名乗り出てくれるか?これ。
もちろん、[体育教師]や、[校長先生]、[クラスで1番背が高い人]など、まともなお題もあったが、今日の分の確認を終えた頃には、みんなヘトヘトだった。
最初こそ何だこのお題とツッコミが飛び、楽しい雰囲気だったが、明日はどうなるだろうか。




