幼なじみ彼女とご報告
「お疲れ様です〜」
「お疲れさんだ」
久々の生徒会ということで、少し張り切り気味に生徒会室に入る。
既に会長が来ていて、挨拶を返してくれた。
他の部活であれば、大会で勝ち進んでる部活以外は、3年生は引退しているものだと思うが、生徒会はそうもいかない。
「最後の仕事が始まるな」
「そうなりますね。寂しいですよ」
「まだ気が早いぞ、橋崎。体育祭をやりきってからだ」
そう、10月にある体育祭が、生徒会の活動としては、文化祭の次に大きく、忙しい。
そして、生徒会3年生最後の仕事となる。
しばらくして、生徒会のメンバーと顧問の先生が集まり、打ち合わせが始まった。
とはいえ、進行や司会は放送部が行うし、競技の準備も体育委員会との合同となるので、当日に生徒会が個別でやる仕事は、国旗、校章旗の管理や時間管理、パンフレットの配布等となる。
事前準備の中にまぁまぁ大変なのがあるのだが、それでも文化祭よりはマシである。
文化祭の時のように、各役割分担を行い、注意点のおさらいをして、初日の生徒会は終了する。
「これからまたしばらく忙しくなるけども、よろしくお願いね」
「はい、今年も頑張りましょう。お先に失礼します」
先輩に挨拶をして、学校を出る。
スマホを取り出し、香織から連絡が来ていないか確認する。
『今日から生徒会だったよね?終わったら連絡してくれたらうれしいな』
思っていた通り、香織から連絡が入っていたので、返信する。
『今終わったよ』
『お疲れ様。それじゃあ、あと30分後くらいに駅につくかな?』
『そうだな。それくらいだと思う』
『わかった。迎えに行くね』
香織のお迎えに喜びの気持ちが顔を出してきたが、申し訳なさが勝つ。
『わざわざ悪いよ。家でゆっくりしててくれ』
『いいのいいの。私が会いたいだけだから』
そういわれると、断るのも違うし、なによりうれしいので、言葉に甘えることにする。
『ありがとう。俺も会いたい』
『よかった。それじゃまたあとでね』
自分で送ってメッセージなわけだが、なんともむず痒い。香織みたいに自然に伝えられるようになるのは、まだまだ先になりそうだ。
電車に乗り、揺られること数十分。最寄り駅に到着した。
「おかえり、優斗っ!」
「おっと、香織、ただいま」
改札を出ると、すぐに香織に見つかり、手を差し出して駆け寄ってきた。
手を合わせるようにして受け止めると、香織は手を握ってきて、自然と恋人つなぎのようになる。
「えへへ、照れちゃうね」
「そ、そうだな」
顔を見合わせて、微笑みを交わす。
両手どちらもつないでいる状態から、いつもの横並びになる。
「帰ろうぜ」
「うんっ、いこ」
手をつないで家へと帰っていく。
「今度の生徒会の仕事は体育祭?」
「そうなんだよ。また忙しくなる」
「どんなお仕事があるの?」
「文化祭ほど大変な仕事はないんだけど、一個大変な仕事が待ってるんだよ」
「へぇ~、どんなの?」
「借り物競争のお題確認」
「えっ?そんなのがあるの?」
わが校の体育祭のメインイベントとも言っていい、種目。それが借り物競争である。
これがなかなか曲者で、まずリレー方式の色別対抗戦であり、バトンを渡すたびに借りるものがひとつづつ増えていくため、盛り上がるのだが、運営側の確認の回数は多いし、割と鬼畜なお題もまぎれているので大変なのである。
そして何よりも……
「お題を全校生徒から募集するんだよ。それを生徒会のほうで確認するのが大変なんだ」
「なるほど。やる方とか、見てる方は楽しそうだけど、運営管理する方は大変そうだね」
一人ひとつは義務のようになっているし、毎年ふざけたお題を考えてくる輩がいるので、ちゃんと確認しないといけないしで、面倒くさいったらありゃしない。
「体育祭も見に行くから、頑張ってね」
「ああ、頑張るよ」
そんなことを話しながら、帰っていく。公園も通り過ぎ、もう少しで家につくな。
「えっ!?」
「!?!?」
丁字路を曲がる手前で、割と大きな驚いたような声が聞こえた。
声がした方を見ると、制服姿の美咲が驚いた表情で固まっていた。
「お兄ちゃん、香織お姉ちゃん、まさか……」
「美咲、これは」
「美咲ちゃん、あのね」
慌てて繋いでいた手を離し、弁解しようとするが、時すでに遅し。
「お、お母さーん!赤飯食べなきゃー!」
「それはなんか違くないか!?」
「待って美咲ちゃん!」
自宅へ向けて走り出す美咲を追いかけるように、俺たちも走っていく。
結局間に合わず、家に入って行ってしまった美咲。
その後姿を見て、香織が一言提案をする。
「いっそのこと、ご挨拶しちゃおっか」
「!?」
香織までそっちに回ったらもう逃げ場ないんだけど!?
諦めの境地に至りそうになりつつ、何とか気を保つ。
「いやでもさ、なんかこう、流れとか、心の準備というものが」
「優斗、優斗は、私と付き合ったこと、ご両親に知られたくないってこと?」
「いや、そうではないけど、こう、なんか、な?」
「嫌なわけじゃないなら、早めにやっとこうよ。それとも、ご両親に知られたら困ることがあるの?」
「そんなこともないけども」
「なら、決まりだね」
香織は俺の手を取って、俺と手を繋ぎなおして玄関のドア前に向かった。
あぁ、もうどうにでもな~れ!
「ただいま帰りました」
「ただいま」
慌てて入っていった美咲が忘れたのであろう、鍵の開いたままだった玄関を開け、2人であいさつしながら家に入る。
「あら、お帰りなさい。美咲の早とちりじゃ、ないみたいね」




