幼なじみと決意のお出かけ
いよいよお出かけ当日となった。昨夜はよく眠れなかった。これまでも、2人で出かけたことなんて、たくさんあるのに、いざ思いを伝えるんだと思うと、落ち着かなくなる。
結局あまり眠れなかったけれど、一日元気に遊ぶためにもしっかりと朝ご飯を食べ、身支度を整える。
服装や髪形をこだわろうと考えていたが、そこはいつも通りのほうがお互い落ち着くだろうという、谷本の意見を採用して、いつも通りに準備する。
「さて、こんなもんかな」
いつも通り準備を整え、カバンを背負い、約束よりも少し早く家を出る。
「今日は俺のほうが早かったな。香織、楽しんでくれるといいんだけど……」
しばらくして、約束の時間になり、香織が家から出てきた。
「おはよう、優斗。待たせちゃったかな」
「おはよう。全然、今出てきたとこだ」
今日の香織は、再会した時よりも少し長くなった髪を少し低い位置で、ポニーテールにまとめていた。清楚な印象な白色のワンピースを身に纏っており、小さめのバッグを肩にかけている。
いつも通り、というと失礼かもだが、とても可愛く、魅力的に見える。
「優斗、今日の私はどうかな?」
俺の視線に気づいた香織が、そう問いかけてくる。
平常心、平常心と自分に言い聞かせ、笑って答える。
「ああ、似合ってる。可愛い、と思う」
「えへへ、ありがと。今日は、どこに連れて行ってくれるの?」
最後のほう、平常心とは言いながらも、ごもり気味になってしまったものの、香織が嬉しそうだったので、良しとする。
さて、今日行くところ、だけど。
「お楽しみ、と言いたいところだけど、まずは遊びに行こうぜ」
「遊びに?」
「おう。香織、カラオケって、ハードルあるか?」
人によっては人前で歌うのが苦手という人もいるので、一応確認を取っておく。
「カラオケか~。たまに行くから、ハードルとかはないかな」
「よかった。なら、とりあえず、カラオケ行こうぜ」
「わかった。とりあえずってことは、カラオケ以外にも行くところがあるのかな?」
「それは、これからのお楽しみ、だな」
そう言って2人で歩き出した。
カラオケは駅の近くにあるため、話しながら歩いていると、直ぐにたどり着いた。
「何時くらいまで歌う?」
「お昼くらいまでいようぜ。2時間くらいかな」
「それぐらいがちょうど良さそうだね」
受付をして、カラオケに入る。
「優斗はカラオケ採点入れる人?」
「俺は割と入れて歌うことが多いかな。香織は?」
「私はどっちでもいいから、入れよっか」
香織はポチポチとタッチパネルを操作して採点を入れた。
「どっちから歌う?」
「正々堂々じゃんけんで」
じゃんけんの結果、香織の勝ちだったので、香織から曲を入れる。
香織は最近話題のアーティストの曲を入れた。
「〜〜♪♪」
う、上手ぁ……。
音程はバッチリあっているし、柔らかく歌い分けているようで、抑揚も感じられる。何より、歌声が綺麗でずっと聴いていられる。というか、聴いていたい。
「優斗、曲入れないの?」
曲が間奏に入り、香織が聞いてきた。
「いや、香織の歌が上手すぎて、聞くのに夢中だったわ。入れる入れる」
「ありがと!」
香織の歌を聴きながら、俺も曲を入れる。
この後に歌うのかぁ……俺はそんなに上手くないから、ちょっと恥ずかしいな。
香織の歌っているアーティストの曲は、俺も好きなので、せっかくなので、同じアーティストの別の曲を入れる。
入れた頃には、香織は歌い終わり、点数が発表される。
「94点……すごいな。歌も上手いんだな」
「この曲はちょっと自信あるんだ〜。次は優斗だね」
「あ、あぁ。あんまり期待しないでくれよ」
伴奏が流れ始め、俺も歌う。
「〜〜♫」
いつもより、ちょっと声が出やすい、かな。とはいえ、香織の歌声とは比べるのもおこがましいが。
できるだけ上手く聞こえるように、頑張って歌った。
「優斗も上手だね。私は好きだな」
「あ、ありがとうな。俺も香織の歌、いいと思う」
そう話しているうちに、得点が映し出される。
「88点か、まぁまぁだな」
「ちょっと音程違うとこがあったからかな。採点の基準よく知らないんだよね」
「俺も詳しくはないけど、ロングトーンとか関係してそう」
採点画面を見ながらそう話す。
そんな調子でそれぞれ歌っていった。
しばらくして、俺が歌っている時に香織が曲を入れなかった。
香織は、俺が歌い終わったのを確認して、話しかけてくる。
「優斗、この曲知ってる?」
そう言って香織が見せてくる画面を見る。
「知ってる知ってる。なんかの映画の、デュエットの曲だよな」
「そうそう。一緒に歌ってみない?」
「もちろんいいぞ。あんまり上手く歌えないと思うけど、許してくれ」
「大丈夫だよ。それじゃ、入れるね」
少したって、伴奏が流れ始める。
「〜〜♫」
「〜〜♪♪」
綺麗な香織の歌声を邪魔しないように、ハモリを意識する。
時々、こちらを見てくれる香織と目を合わせて、一緒に歌う。
曲は5分弱ほどあったはずだが、一瞬のことに感じるほど、充実した時間だった。
「上手く歌えたね。楽しかった〜」
「俺も楽しかったよ。香織に合わせて歌うだけで、上手く聞こえるからすごいよ」
その後も、お互いの知っている曲で、デュエットメインで歌っていった。
気づけば、時間が来ており、慌ててカラオケを後にする。
「気持ちよく歌えた〜!また来ようね」
「こちらこそ。また香織の歌声聞かせて欲しいよ」
「それはそうと、次はどこに連れてってくれるの?」
ワクワクした様子の香織がそう聞いてくるので、俺は小出しにしながら答える。
「そうだな、まずはお昼食べに行くか」
「何食べるの?」
「前に、オムライス専門店行ったの覚えてるか?」
「もちろんだよ。美味しかったよね」
「それと同じようなお店がな、駅の周りにあるらしいんだよ」
「えー?聞いたことない」
「だよな。俺も調べてみて知ったから。行ってみようぜ」
昨日、青原さんと谷本と調べたところによると、駅から10分ほど行ったところにお店を構えているらしい。
スマホのナビに沿って歩いていくと、すんなり見つかった。
「このお店だな」
「美味しそうなメニューがたくさんだね」
店の前で止まっているのもあれなので、入って考えることにした。
お互いに好きなオムライスを頼み、届くのを待つ。
「優斗はあんまり冒険しないよね」
「オーソドックスなのが美味しいってわかってるから、そういうのにしがちなんだよな。香織は割とチャレンジャーだよな」
「新しい発見があるからね。それに、だいたいは美味しいし」
しばらくして、オムライスが出てきた。
いただきますをしてから、食べ始める。
「うーん、美味しい!」
「美味いなぁ、今度美咲も連れてこよ」
「いいね!美咲ちゃんもオムライス好きだもんね」
パクパクと食べ進めていく。ふと、前回のことを思い出し、香織に聞いてみることにした。
「香織、今回も1口交換するか?」
「いいの?それじゃお言葉に甘えようかな。じゃ、優斗からね。はい、あーん」
ナチュラルに、スプーンを差し出してくる香織。ニコニコしているし、嫌だってこともないだろう。
「あ、あーん」
「どう?美味しくない?」
「う、うん。美味い」
「でしょ?」
正直あんまり味はわかってない。
「香織の番な。ほら、あ、あーん」
「あーん」
香織は躊躇うことなくパクリと食べ、幸せそうに頬を緩める。
「やっぱり美味しいね〜」
「ハズレとかなさそうだよな」
「ね、次はもう少しチャレンジしても良さそう」
直ぐに食べ終わってしまい、軽くお腹を休めてからお店を出た。
さぁ、次の場所いくか!




