修学旅行 最終日と帰り道
夢の国での最高に楽しい時間も終わりを迎え、ホテルへと帰った。俺たちははしゃぎすぎたからか、帰って早々に眠りにつき、翌日となった。
最終日ということで、今日も観光名所を巡るのだが、荷物を持っての移動となるため、少し心配だ。
朝起きて、荷物の整理、片付けをしているのだが。
「どう考えても入らなくね?」
「分かる。何も考えてなかった」
「何やってんだか……」
青原さんに貰ったぬいぐるみがどう考えてもキャリーにもリュックにも入らない谷本と、ポップコーンバケットの行き場のない俺。
ちゃんと帰りを考えて行動していた佐々木は既に片付け終わり、準備万端である。
「後先考えずに買ったりするからだよ」
「教えてくれても良かっただろ!?」
「いや〜、面白そうだなって」
「鬼か!?」
時間もないので、仕方なく俺はポップコーンバケットを肩からかけて持ち歩くことにした。
谷本はぬいぐるみを抱っこした状態で行動することになるので、それよりはマシかな?
ホテルを出て集合し、バスに乗り込んだ。
ポップコーンバケットがカバンに入らず、仕方なく持っている人は割といたので、俺はあまり浮かなかったが、さすがにぬいぐるみを抱えている人はおらず、谷本の普段のキャラも相まって、谷本はめっちゃいじられてた。ちょっと可哀想なので、バスなど移動の時は隣にいてやることにする。
そんな忙しい朝を過ごし、観光名所を巡ったあと、帰りの新幹線に乗った。
行きと同じようにトランプなどで遊んでいたが、谷本がこの数日でトランプのコツを覚え、強くなっててびっくりした。行きよりもいい勝負になることが多くなり、楽しかった。
そんなこんなで新幹線も駅に着き、学校に戻ることはなく、その場での解散となった。
楽しかった修学旅行も終わりである。
「楽しかったなぁ」
「もう終わりだもんな」
家に帰るべく、5人で電車に乗っている。
「修学旅行も終わっちゃったし、本格的に受験の準備、しないとだよね」
「うわぁ、勉強嫌」
そんな話をしているうちに、1番近い駅で降りる俺の最寄り駅に着いた。
「じゃ、また学校でな」
「おう、またな!」
「またねー!」
手を振って見送ってくれるみんなに手を振り返してから、駅を出る。
「あっ、優斗!」
聞き馴染みのある声に、振り向くと、ちょうど死角になるところに、キャリーバッグを持った香織が立っていた。
「香織、おかえり。待っててくれた、のか?」
「うん。一応、連絡はしたんだけど……」
俺は慌ててカバンの底からスマホを取り出し、電源を入れる。そこには、30分以上前に、香織から駅で待っている旨の連絡が映っていた。
「本当にごめん。スマホの電源切ってて……。長いこと待たせちゃったな」
「ううん、大丈夫。私が勝手にやった事だから。一緒に帰りたかっただけだしね」
話しながら微笑む香織は、なんだか悲しげに見えた。
そう思ったのもつかの間、悲しげな雰囲気はなくなり、いつもの明るい様子に戻り、話し始める。
「それじゃ、帰ろ?」
「そ、そうだな」
いつもの道を2人で並んで、修学旅行であったことや楽しかったことを話しながら歩いていく。
あっという間に公園の前まで帰ってきた。
「ねぇ、ちょっと公園でお話しない?」
香織は公園の前で立ち止まって、提案してきた。
「もちろんいいけど、香織、大丈夫か?待たせといてあれだけど、疲れとか」
「うん、大丈夫」
2人で公園に入り、ベンチにならんで腰掛ける。
「それで、香織。話したいことってなんだ?」
「あれ、私、話したいことがあるって言ったっけ?」
「いや、わざわざ公園に入ったから、何かあったのかなって思って」
「そっか、そうだよね」
なんだからしくない香織。1度そう思うと、ここまで話しながら帰ってきた道中や、駅で待ってた様子の中にも、香織らしくないところが見えてくる。
いよいよ何を話すのかが不安になってきた辺りで、意を決したように、香織が話し始める。
「ねぇ、優斗。優斗って、付き合ってる人、いるの……?」
「へ……?」
あまりに予想外な方面の話が飛んできて、間抜けな声しか出なかった。
聞かれた内容を把握するのに少し時間がかかったが、何とか返答する。
「い、いやいや!付き合ってる人なんて居ないぞ?」
「ほんと?」
「生まれてこの方付き合ったことなどありません!それどころか好意を寄せられたことすら怪しいです!」
自分で言ってて恥ずかしいし虚しくなってきた。けどまぁ事実なのだから仕方ない。
香織はぷくっと頬を膨らませてから、小さな声で聞いてくる。
「でも、私見ちゃったよ?」
「な、何をです?」
やましいことなど何も無いはずなのに、こんなにも追い詰められてるような雰囲気はなんだ!?
「優斗、夢の国で女の子と2人でいたでしょ」
「そ、それは同じ班に、香織も知ってる青原さんと、その友達がいたから、たまたまそう見えたんじゃ?」
というか、夢の国で香織と出会わなかったと思ってたのは俺だけで、香織は俺の事見つけてたのか。
「……手も繋いでるように見えたけど?」
「……えっ?」
夢の国でそんな青春真っ只中の男女みたいなシーンが俺に訪れていた、だと?
思い出してみると、和田さんに引っ張られて、移動している時だと気づく。確かに客観的に見たら、2人で抜け出してるようにも見えなく無い。
「ち、違う違う!なんか行きたいとこがあるって言われてお店を出たら、引っ張って行かれただけで!決して、決して俺の意思では無い!」
好きな女の子にこんな誤解させたままでいられるか!
「ほんとの、ほんと?」
「本当だってば!だいたい、俺が好きなのは……!」
「優斗が、好きなのは……?」
あれ?俺、勢いと流れで、とんでもないことを言いそうになってないか……?




