修学旅行 その5
それぞれお昼を選び、ハンバーガーやまんじゅうを楽しんだ後、次の動きについての話になった。
「こっからどうする?」
「パレード見るか、アトラクション行くかだな」
「んじゃ多数決で」
パレードが2人、アトラクションが3人に分かれたので、アトラクションに行くことになった。
「どれ行くかだな」
「もう1個激しめ行っとく?」
「いや〜しんどい人もいると思う」
ちらりとさっきのコースターで圧倒されてた2人を伺うと、静かに頷いていた。
「そしたらあれ行くか」
「あれって?」
「会話楽しむ系」
「なるほど、私そのキャラクター好きだよ」
「えっ、どのキャラだ?」
「着いてからのお楽しみだね」
そうして再び話したり、ポップコーン食べたりしながら歩いていき、目的のアトラクションに着いたようだ。
「あぁ、このキャラクターな。俺も知ってるよ」
声が特徴的な青色のキャラクターがそこに居た。
「そんじゃ、並ぼーぜ」
俺たちはアトラクションの前の列に並ぶ。パレードが近いからか、比較的人が少なめのようで、割と直ぐに入れそうだ。
「このアトラクションはどんな楽しみ方するのがいいの?」
もはや恒例となりつつある、アトラクション前の列での谷本と青原さんへの質問タイムだ。
「このアトラクションはさっき言った通りだな。会話を楽しむ!」
「運次第だけどね〜」
いよいよ俺達も入場することができた。一度に入る人数が多い分、回ってくるのも早いのかな?
そうして俺たちはキャラクターの会話を楽しんで行った。
運良く谷本は選ばれ、何度も名前を呼ばれてた。見たことないくらいいい笑顔でスクリーンに映ってて、こういうのの才能あるんじゃないかと思う。
「いやぁ、最高」
「谷本くんだけずるーい!私も呼ばれたかった」
「谷本、すげーな。初めて見直した」
「一言多い!」
ガヤガヤと出てきて、出口にあるショップで止まる。
「俺、せっかくだし買ってくわ」
「あっ、じゃあ私も〜」
今回、誰よりも楽しんでいたであろう谷本と、もともとキャラが好きな青原さんが買いたいようなので、俺も見て回ってみる。
「へぇ〜、色んなのあるんだな」
でっかいぬいぐるみやカチューシャを見ながら歩いていると、控えめに和田さんが俺を呼び止めた。
「橋崎くん。ちょっといい?」
「よっと、どうかした?和田さん」
手に持っていたぬいぐるみを棚に戻してから、和田さんの方へ向き直る。
「ちょっと、行きたいところがあって。着いてきてくれないかな」
「今すぐ?まだみんな買い物してるけど」
俺は見回して、みんなの様子を伺うが、よく見えなかった。棚の死角になってるのかな。
和田さんは答える。
「うん。でも、少しだから、お願い」
「そんな遠くじゃないんだよね?」
「うん。出たことすぐ」
それなら、買い物が終わったみんなも、出てきたら気づくかな。
「わかった。でも、はぐれたら面倒だし、分かるとこにいような」
「それじゃ、いこ」
そう言って歩く和田さんについて行って、お店からでる。
「えっと、こっち!」
「わっ!どこいくんだ!?」
お店を出るなり、和田さんは俺の手を取って小走りで移動し始める。見えるとこにしようって約束はどこに行ったんだ?
そう思いつつ、引っ張られるままに移動して、水路沿いの場所に出た。振り返ると、一応さっきのアトラクションの出口が見えるので、分からなくもないかな。
そんな心配をしていると、和田さんが話し始めた。
「と、突然ごめんね。こんなことして」
「いや、いいけど、どうしたんだ?」
和田さんの意図が見えないので、聞いてみた。
「橋崎くん。この修学旅行でさ、初対面みたいな感じしてるけど、去年も同じクラスだったんだよ。覚えてる?」
「えっ?もちろん、覚えてるけど、そんなに話したことなかった、よな?」
何やら真剣で、思い詰めたような雰囲気の和田さん。素直に思ったことを話すと、思ってもみなかったことを話し始めた。
「確かに、こんな風に話すような関係じゃなかったけどね、去年、私のこと助けてくれたこと、覚えてないかな?」
去年?まだ青原さん曰く、近寄るなオーラが出ていた時期に、和田さんを助けたことがある?
そんなこと、あったっけ。
「ごめん。覚えてない」
「そっか、そうだよね。多分、橋崎くんは、私も含め、女の子の名前と顔、覚えてなかったと思うから、しょうがないよ」
「うっ、申し訳ない……」
ほんと、谷本に促されるまで何も考えてなかったからなぁ。そういう意味では、谷本には感謝しないとか。
「私、あの日日直でね。放課後だったんだけど、先生から頼まれたことが終わってなくて、1人残ってやってたんだけど。その時、生徒会まで時間あるからって、手伝ってくれたの」
「……思い出した。それは、覚えてる」
確かに、去年、生徒会に入ったばかりのころ。
生徒会まで時間があって、やることもなかったから、ふと目に止まった女の子を手伝った覚えがある。
「あの女の子、和田さんだったのか」
「そうなの。あの時は、ありがとう」
「どういたしまして。でも、それじゃ、わざわざその事のお礼を言うために、こんなことを?」
「えっとね、それもあるんだけど。私ね、橋崎くんに……」
「楓〜!!!橋崎く〜ん!!!」
和田さんが何かを言いかけていたその時、後ろから大きな声で呼ぶ声がした。
「はぁ、はぁ、さ、探したよ!」
走り回って探してくれたからか、ここまで走ってきたからか、息を切らしている様子の青原さん。
「ごめん、青原さん。ちょっと和田さんと話をしててさ。すぐ戻るつもりだったんだけど……」
そう言うと、青原さんはバッと顔を上げて、俺の顔を見つめる。
「ど、どうした?何か、あった?」
そう聞くものの、青原さんはじーっと俺の顔を見つめ続ける。なんなんだ!?
それから数秒して、ほっとしたような表情になる青原さん。とても小さな声で、「間に合ったかな」と呟いたのが聞こえた気がした。
「青原さん?」
「なんでもないの!佐々木くんも谷本くんも探してるから、橋崎くん!目立つとこに立って、みんなを集めてくれる?」
「えぇ!?まぁ、だいたい俺のせいだしな……わかったよ」
気乗りしないものの、連絡取り合うことができない以上、しょうがない。目立つとこって、どこがあるかなと考えながら、とりあえず、元のお店前に行くことを2人に伝えて、動き出した。
* * *
「橋崎くん、行ったかな。さて、楓」
「う、うん」
「どこまで話したの?」
「去年の所までだよ。あと少しで、伝えられそうだったのに」
「そっか。やっぱり、間に合ったんだ。良かった」
私は改めて胸を撫で下ろした。
「楓、邪魔してごめん。だけど、私も、譲れないの。友達が、絶対誰かが傷つくことになるってわかってるのに、背中を押してあげることは、私にはできないの」
「わかってる。昨日も、それとなく止めてくれたし。桃ちゃんのこと、責めたりもしない。桃ちゃんのせいで、最高の結果はなかったけど、桃ちゃんのおかげで最悪も起こらなかったから」
「楓……」
私のことを気にしてくれる楓に、優しさを感じて、ほんとにこれでよかったのか、考えていると、楓が続けて話し始めた。
「それにね。1歩進んだから」
「どういう意味?」
「思ってた通り、橋崎くんは、去年のこと私だとは覚えてなかったの。だけど、事実として、ちゃんと覚えててくれたし、お礼もきちんと言えた。だから、1歩前進」
まだ諦める様子なんて、微塵もない様子の楓に、圧倒された。
その様子を見て察したのか、楓が口を開く。
「もう、1年も片思いしてるんだもん。そう簡単に諦められないよ。橋崎くんも、まだ、付き合ってる訳じゃないんでしょ?橋崎くんに、特定の相手ができちゃったら、諦めるよ。けど、それまでは、終わってない」
「つ、強いね。楓」
そうなると、まだ油断ならないのかなと心配になったけれど、次の言葉で安心することができた。
「心配しなくても、この修学旅行中は、もう告白しようとはしないから、安心して。そんなに何回も連続でトライできるほど、勇気持ってないから」
「……そっか」
「またはぐれちゃうから、戻ろ?」
そう話して、橋崎くんの言っていた場所へ向かう。
もうしばらく、悩みの種は無くならないようで、私は心の中で、また自問自答をすることになりそうだ。




