修学旅行 その2
「この後、40分にロビーに来てくれないかな?聞きたいことがあるの。お願い!」
青原さんから連絡が入っているのを見て、時間を確認する。今が30分過ぎなので、時間には間に合うが……
「一体、なんの話なんだろう」
「なんだったんだ?」
谷本に対して、俺に確認するように頼む連絡をしたってことは、多分、俺だけに来て欲しくて、佐々木や谷本には知られたくないって感じなんだろうな。
そう察した俺は、それとなく誤魔化す。
「うーん、大した用事じゃないみたいだ」
「なんだ、焦って損した」
俺はスマホの電源を切り、元通りバッグの底に入れ、代わりに財布を取り出す。
「ん?どっか行くのか?」
「今カバン開けて気づいたけど、昼にお土産買い忘れたから、ちょっと行ってくる」
「そか、行ってら〜」
ベッドに寝っ転がってくつろいでる谷本は、寝っ転がったまま、手を振った。
いざロビーへ向かうために、静かに部屋を出る。
一応、ホテル側に迷惑をかけない範囲で、お土産ショップを利用することは許されているので、まずはそこへ向かい、その流れでロビーに向かうこととする。
時間を見つつ、とりあえずお土産ショップへ向かう。
「思ってたより人少ないな」
生徒が押し寄せてないか心配だったが、みんな割と部屋でゆっくりしているようだ。まぁ明日があるしな。
入っておいて、何も買わないのも変な感じなので、家族用のお菓子を買って出る。
部屋に戻る時、少し回り道をしてロビーへ向かう。
ロビーに着くと、パジャマ姿の青原さんが、部屋への直通エレベーターの方を見て待っている様子だった。
近づいていく足音に気づいて、青原さんがこちらの方を向く。
「橋崎くん、よかった。来てくれた」
「なんか切羽詰まってる感じだったし。何があったのか?」
そう聞くと、青原さんは少し考え込んだ後、神妙な面持ちで話し始める。
「橋崎くん。これから聞くことに、正直に答えて欲しいの」
「え?うん、わかったけど……?」
普段、明るいムードメーカーな彼女からは考えられない、真面目な雰囲気に困惑する。
「橋崎くん、あのね、橋崎くんは、香織ちゃんのこと、どう思ってる?」
「へ?」
その雰囲気から発された言葉の内容が、香織のことだとは思っていなかったので、さらに困惑が深まる。
「そりゃ、青原さんも知ってるだろ?仲のいい幼なじみ、だけど」
「本当に、それだけ?」
変わらず同じ様子で、真っ直ぐ俺の目を見据えて言葉を続ける。
「お願い、大事なことなの。もちろん、言いふらしたりしないから。佐々木くんにも、谷本くんにも。もちろん、本人にも」
「……」
青原さんのことを信用してない訳じゃないし、言いたくない訳でもないけれど、恥ずかしいんだよなぁ。
けれど、このまま逃がしてくれる雰囲気じゃないし、正直にって言われたしな。
俺は周りに他の生徒が、主に谷本が居ないことを確認して、小声で話す。
「前までは、仲のいい幼なじみだったけど、今はそれだけじゃない、かな」
「やっぱり、橋崎くんは、香織ちゃんのこと」
「うん、好きだって思ってる。できるなら、ずっと隣に居たいとも、思ってる」
青原さんは、「やっぱり」と呟いてから、言葉を続ける。
「その気持ちを、香織ちゃんに伝えたいって思ってる?」
「いつかは、伝えたいけど。多分青原さんも知ってると思うけど、俺、口下手だし、勇気も持ち合わせてないから、まだ時間かかりそうかな」
「……そっか」
青原さんは納得したようで、ひとつ頷いて、笑顔でこちらを見る。
「ありがとう。私と正直に話してくれて。やっぱり、私の思ってた通りだった」
「何となく、そんな気はしてたけど」
そろそろ部屋を出てから30分が経つ。そろそろ戻らないとだなと思っていると、青原さんが話す。
「最後に。1個だけ」
「なんだ?」
「明日ね、私も頑張ってみるけど、もしかしたら、橋崎くんに迷惑かけちゃうかもしれない。その時は、ごめんね?」
そんなことをいう青原さん。
俺は小さく笑って答える。
「そんなこと、事前に伝えなくても大丈夫だって。困ってたら助けるし、今日みたいな相談にも乗るよ。迷惑だってかけてくれていい。友達って、そういうもんじゃないか?」
そう答えると、青原さんは驚いた表情になり、笑って答えてくれる。
「あははっ!そうだね!ありがとう。また明日ね!」
「おう、また明日」
何かの間違いで、先生たちに会っても面倒なので、別々にエレベーターに乗って部屋に戻っていく。
「ただいまーっと」
「おかえり。遅かったね」
「何買ったんだー?」
お土産の入った袋を持って部屋に入り、2人と話す。
特に怪しまれてないようだが、なんだかんだこの2人は察しが良く、気も聞くので、知らないふりをしてくれているのかもしれない。
良い友達と出会えたな、と思い、なんだか暖かくなった。
「なぁ、2人とも」
「どうした?」
「何?」
「明日、足が動かなくなるくらい楽しもうな」
「もちろん」
「あったり前だろ!案内しまくってやるから、覚悟しろよ?」
谷本も青原さんも夢の国に詳しい感じだったからな。明日が楽しみだ。




