修学旅行 その1
「だぁぁ!また負けた!」
「谷本くん、手札の運が……」
「橋崎はなんでそんな安定して強いんだよ」
無事新幹線に乗った俺たちは、トランプを楽しんでいた。ババ抜きや大富豪などをやっているが、谷本が連敗しててちょっとおもろい。
俺は俺で、夏休みの帰省旅行の時に、父さんや香織に鍛えられたので、このグループでは勝てるようになってた。感謝。
「ところで、どれくらい新幹線で移動なんだっけ?」
「えっと、まだあと2時間は揺られるっぽいぞ」
修学旅行のしおりを見ながらそう答える。
「長いなぁ」
「1日目だしな。ほとんど移動で終わりだ」
目的地まで割と距離がある上、新幹線を降りてからも、特にこれといって観光名所に寄るということはせず、初日の宿である、民泊へと向かう予定となっている。着いてから、それぞれの民泊のオーナーによって、活動が決められるようだ。
とはいえ、道中休憩という形で足を止めるポイントは用意されている。
「まぁまぁ、その時間を使うために、トランプ用意してくれたんだからさ」
「飽きたら他のことやってもいいしな。紙とペンがあるから、人狼とかもできる」
「このメンバーでトランプやら人狼やらするのも、また修学旅行ってことか」
ワイワイガヤガヤと引き続き遊んでいたが、トランプにも慣れてきたのか、それとも飽きてきたのか、全く別の話をしながらやるようになっていった。
「そういや、佐々木。彼女はいつ修学旅行なんだ?」
谷本が話の路線を変更する。
「あぁ、結の通う学校は10月だって言ってたよ。目的地も俺たちとは違って、海外だとさ」
「へぇ〜、いいな。俺海外行ったことないわ」
「俺は飛行機すら乗ったことないぞ」
旅行談義となって行ったが、しばらくして話が戻ってくる。
「橋崎の幼なじみの中村さんの学校はいつだって?」
「香織の学校も、日程的には俺たちと一緒だ。香織も今頃は移動中じゃないかな」
「へぇ、同じ新幹線に乗ってたりしてな」
「いやぁないんじゃないかな。3日目が夢の国なのは一緒だったけど、他は違ったし」
そこまで話したところで、和田さんが気まずそうに話に入ってきた。
「あの、その中村香織さん?ってどんな方なんですか?」
「ごめんごめん、橋崎くんの幼なじみの女の子だよ」
「それと、頭が良くて、運動神経もいい」
「そんで、めっちゃ可愛い」
俺が何も言わずとも、香織の情報が出揃っていく。それにしても、香織はこう見られてるんだなぁ。俺がいるからってのもあるだろうけど、プラスのイメージばかりで嬉しくなる。
「ちなみに、橋崎くんは中村さんとは仲良いの?」
「うん。俺は仲良くやってると思ってるよ」
俺は少し考えを巡らせてからそう答えたが、谷本が突っ込んでくる。
「いやいや、もうちょい自信もっていいと思うぞ。俺らから見ても、めっちゃ仲良しに見えるぞ」
「そ、そうか?」
「うん、間違いない」
そう言われると、嬉しい。自然と笑顔になる。
「おいおい嬉しそうだな、橋崎」
「茶化すな。あと、あんまり他のことに意識向け過ぎるとやばいぞ」
「え……?ってもう負けじゃね!?」
「せいかーい、あがりー!」
たまも敗北を喫した谷本。むしろなんでこんなに弱いんだよ。
そんな調子で、移動の時間を楽しみ続けた。
新幹線からバスに乗り換え、休憩をはさみながら、初日の目的地、民泊が多く行われている地域に着いた。
民泊では、オーナーさんが提示してくれる選択肢の中から選んで活動した。初日はパラグライダー体験をして、2日目の午前中はバウムクーヘン作りを体験した。初日は男子勢の希望で、2日目は女子勢の希望である。
どちらも楽しかったが、2日目のバームクーヘン体験は、作ったバームクーヘンは美味しかったのだが、その後ほとんど時間を開けず、お昼ご飯だったため、お腹がはち切れそうだった。
その後は、民泊施設から出発し、電車に乗って東京へ向かった。電波塔や浅草での観光を楽しんだ後に、夢の国周辺のホテルへと移動し、現在に至る。
明日は朝から1日夢の国である。
「いやぁ、今日も楽しかったな」
「そうだね」
「明日が本番まであるけどな」
ホテルの部屋は当然男女別なため、谷本、佐々木と一緒の3人部屋となる。
順番にシャワーを済ませ、ゆっくりくつろぐ。
谷本はおもむろにスマホを取り出し、操作し始めた。
「谷本、知らないからな」
「大丈夫だって、少しだけだ。って、なんだ?」
谷本は画面を見て困惑した後に、俺に声をかけてくる。
「橋崎、今だけスマホの電源入れて、通知見て、だってよ」
「はぁ?一応ルールではホテルでもダメだろ?ここまで何も無く来たんだし、俺はやめとくよ」
この修学旅行では、先生たちからの提案でひとつの約束がされている。曰く、
「ルールが沢山あって、縛り付けるような修学旅行じゃ、先生たちも君らも楽しくないだろう?だから、約束をしよう。君たちがルールを守っている限り、先生たちは細かなことは言わない。常識の範囲内で楽しめばいい。ただし、誰か一人でもルールを守っていないのを確認したその瞬間から、厳しく取り締まる。いいかな?」
との事。そのため、スマホや身の危険に関わること以外のルールはだいぶ緩くなっている。多分、スマホも何回か見て見ぬふりをしてるんじゃないかな。
まぁ、そんなわけで、ルールは守っておきたいわけなのだが。
「いや、なんか青原から、伝えてくれって言われてるんだよ」
「は?」
なんで?という間もなく、谷本は画面を俺に見せてくる。そこには確かに、「橋崎くんに、今だけスマホの電源入れるように伝えて!」と書いてあった。
「何かあったのかな」
「わかんね、とりあえず、開いてみろよ」
「緊急って感じなのかな?仕方ない」
渋々ながら、バッグのそこにあったスマホを取り出し、電源を入れる。
そこには、既に青原さんからの連絡が来ていた。
「この後、40分にロビーに来てくれないかな?聞きたいことがあるの。お願い!」




