幼なじみと勉強会
香織と勉強することを約束した翌日。
放課後の香織との勉強に向けて、少しでも頭に入れておこうと、いつもより集中して授業を受けたつもりだったが、いつもとほとんど変わらなかった。
何となく理解出来たのは国語と歴史くらいなもので、数学と英語はちんぷんかんぷんである。
昨日と同じように、駅まで谷本と話しながら帰る。予想通りというか、いつも通りというか、谷本は勉強してなかった。今日は寄り道して帰るらしい。余裕そうで羨ましい。
駅に着き、カバンからスマホを取りだし、通知を確認する。もはや習慣となりつつあるな。
思っていた通り、香織からLINEが来ていた。
かおり『今日から勉強頑張ろうね!』
優斗 『おう、お手柔らかに頼む』
かおり『それは優斗次第かな〜?』
香織とLINEでやり取りをしながら電車に揺られ、駅に到着した。
「おかえり、優斗。」
「おう、今日からよろしくお願いします。」
「うん。いこっか。」
いつもと反対方向へと並んで歩く。自宅方向と比べると賑やかな道を歩いていく。
15分ほど歩いて、図書館に到着した。
中に入り、空いているテーブルを見つけ、座る。香織が自然に隣に座って来て、少し驚いた。
「それじゃあ、始めようか。」
「よろしくお願いします。」
いつもより抑えた声で話しながら香織と勉強会を始める。
「まずは、テスト範囲を教えて?」
「え、えーっと、これだな。」
各教科のテスト範囲が書かれたプリントを取り出し、香織に手渡す。
「うーん。やっぱりうちとは範囲が違うね。でも、大丈夫だと思う。」
さすが香織である。日頃からコツコツと勉強しているからこその自信なんだろう。頼もしいことこの上ないな。
「今日は数学から頑張ろうか。私も隣で勉強してるけど、分からないところがあったら遠慮なく聞いていいからね。」
「お、おう。お世話になります。」
「まずは問題集からだね。頑張って!」
そう言って香織も自分の勉強を始めた。俺も頑張ろう。まずは…………
「えっと、これはここを代入して……」
「この方程式を……」
あの後、香織に教わりながら2時間ほど勉強した。香織は驚くほど分かりやすく説明してくれ、何となくではあるが、理解することができた。
いつもより長い、自宅への帰り道を歩きながら香織と話す。
「ふぅー、頑張ったね。やれば出来るじゃん。」
「い、いや、香織の教え方が良いんだよ。めっちゃ分かりやすかった。ありがとう。」
「どういたしまして。出来たら帰ってからも勉強するんだよ?」
「おう。今日やったとこの復習と、1人でも出来るとこだよな?頑張るよ。」
「うん。よろしい。でも、ちゃんと12時には寝るんだよ?ほどほどにね。」
今日は香織と一緒だったってこともあるが、楽しく勉強出来た気がする。わかりやすいって偉大だな。
「それじゃあ、明日も頑張ろうね。優斗。」
「あぁ。ほんとありがとな。また明日。」
「うん。また明日ね。」
香織と別れ、自宅に帰る。リビングに入るとご機嫌な様子の美咲がいた。
「お兄ちゃん、おかえり〜。今日は遅かったんだね。珍しいこともあるもんだ。」
「おう。ちょっとな。」
「ふーん?」
おい、美咲。なんだその顔は。俺は何も隠してないぞ。(大嘘)
夕ご飯や風呂を済ませ、机に向かう。
香織に教えてもらったことを思い出しながら、問題を解いていく。
トラウマを植え付けられた相手のはずなのに、今のこの関係にどこか心地良さを感じる自分がいることを自覚する。
まだトラウマを払拭するには程遠いけれど、今はとにかく、勉強を教えてくれた香織に応えるために、少しでもいい点を取れるよう、頑張ろうと決意した。