幼なじみと海沿いの公園
「いい景色だな」
「ほんと、水平線ってこういうのだよね」
「海だー!」
俺たち3人は、水族館を出てから、遅めのお昼をコンビニで買い、近くにある公園へとやってきていた。
海水浴で行った海よりも、波が高く、海の青の濃さが際立っている。
天気もいいため、水平線が見渡せて気持ちがいい。
「それじゃ、この辺のベンチで食べるか」
「そうだね。風があるからそんなに暑くないけど、気をつけようね」
「はーい」
ピクニック気分で3人並んでベンチに座り、買ったお昼を食べた。
ピクニックメインで、敷物とか遊ぶ道具とか持って、公園等に行ってみるのも楽しそうだな、なんて話をしながら、ゆったりと時間が過ぎていく。
水筒は持ってきていたので、お茶を配り、ほっと一息である。
お昼を食べ終わり、少し休んだ頃。
美咲がベンチから立ち上がり、提案する。
「ねぇ、お散歩しよう?」
「散歩?遊具とかはいいのか?」
「ちょっとお兄ちゃん!子ども扱いしすぎ!」
「悪い悪い、冗談だ」
散歩か、海が見えて景色もいいし、風も気持ちいいしいいかもな。
そこまで考えたところで、思い出した。
「待った!」
「わぁ!ど、どしたのお兄ちゃん。大きい声出して」
「写真を撮ろう」
「夏休みに撮らなかったのをすごく悔やんでたのが伝わってくる……」
景色を撮りつつ、いい感じの場所を見つけ、3人で写真を撮る。
「はい、チーズ!」
パシャリと撮った写真は、我ながらいい出来だ。
「いい感じに撮れたぞ」
「ほんとだね。後で、私にもちょうだい」
「私も私もー!」
その調子で、前を歩く2人の写真を撮ったり、撮り手を交代したりしながら、散歩した。
思っていた通り、潮風が心地よく、その風によってなびく2人の髪がとても綺麗だった。
気づけば夕方近くなっていた。名残惜しいけど、今日はここまでかな。
「そろそろ帰ろうか」
「もうこんな時間か〜。まだ行ってみたいとこもあったのにな」
「それはまた今度来た時だね」
そう話してから、今朝歩いてきた道を引き返し、駅へと向かう。
電車に乗りこみ、4人席に座る。ぬいぐるみやお土産等、割と荷物があるので、人も少ないし、1席分荷物置きにするのを許してもらおう。
しばらくは話しながら過ごしていたが、次第に美咲の口数が少なくなっていき、香織の肩に寄りかかって寝てしまった。
「美咲ちゃん、寝ちゃったね。乗り換えの駅まであとどれくらいだっけ」
「うーん、あと10分くらいかな」
「起こすのも可哀想かな」
「また背負うから大丈夫」
香織と美咲のことを話すこと10分ほど。乗り換える駅に着いたので、それまで持っていた荷物を香織に預け、ゆっくりと美咲を背負う。
美咲は目を覚ますことなく、次の電車に乗り込み、席に座らせると、変わらず静かに寝息をたてる。
「美咲ちゃん、よく起きないよね」
「普段は昼寝とか夕寝とかしないからな。多分、香織と一緒だとはしゃぎすぎる上に、安心するんだろ」
電車の中は休日だというのに、少し時間が遅くなったからか、いつもよりも空いている。
「ちゃんと着いたら起こすから、香織も寝ててもいいぞ?」
「ううん、大丈夫。それより、優斗と話してたいな」
しばらく話していたが、話題は今日あったことになっていった。
「シロイルカのショーの時、優斗に頼んでるものだと思ってたから、びっくりしたよ」
「あぁ、美咲のやつ、俺たちの手を両手に取って、バンザイするみたいにあげたもんな」
自然とシロイルカのショーの話になってしまった。否応なく、香織のあの発言を思い出してしまう。
聞いていいものか、悩んでいると、香織が先に口を開き、話し始めた。
「ねぇ、優斗。あの時、スタッフさんに、カップルに間違えられてさ、どう思った?」
香織は少し俯きながら、小声でそう聞いてきた。
返答に困る……。嬉しかった、とは違う。間違いなくプラスの感情だったけれど、どう言い表していいか、分からない。
「もしかして……嫌、だった?」
返答に悩み、考えていると、言いにくいことなのかと勘違いしたのか、香織が再び問いかけてきた。
俺は慌てて答える。
「そ、そんなことない!そんなことは全くもってないよ。ポジティブな意味に感じたんだけど、なんて言い表したらいいのかわかんないんだ。紛らわしくて、ごめん」
そういうと、香織は安心したような表情になった。
「香織こそ、慌てて誤魔化してただろ?嫌じゃなかったか?」
「びっくりしたから、慌てちゃっただけだよ。嫌じゃなかった」
「ならよかったよ」
今の俺に、あの「まだ」の意味を聞く勇気はない。
もしかしたら、この関係が崩れてしまうかも、と思ったら、聞けない。
「意気地無しの俺を許してくれ」
「優斗?今なんか言った?」
「いいや?なんでもないよ」
その後も香織と話を続け、この時間を心地よく感じながら、電車に揺られた。
* * *
水族館へのお出かけから帰ってきた。優斗と美咲ちゃんと分かれ、ドアの前に向かう。
片手に大きなシロイルカのぬいぐるみを持ち、もう片手に家族や友人へのお土産を持って、家に入る。
「ただいま」
「おかえり、香織。楽しんできたみたいね」
お母さんは私の顔や両手に持った袋を見てそう話した。
「うん、とっても楽しかった」
「そう、良かったわね」
両親に買ったお土産を渡し、自分の部屋へと向かう。
部屋に入り、シロイルカのぬいぐるみを袋から出す。
「やっぱり可愛いなぁ」
1度ぎゅっと抱きしめてから、ベッドの上に置く。
優斗に取ってもらった水色のイルカのぬいぐるみと比べると、思っていた通り、少しだけ小さい。
「シロイルカのぬいぐるみ、欲しいって言った時、優斗に理由を聞かれるとは思ってなかったな。うまく誤魔化せてたかな……」
あの時は、色が違うから違うぬいぐるみだ!みたいなことを言ったような気がする。だって、本当の理由は、恥ずかしくて言えないよ。
2つのぬいぐるみを、ベッドの上に並べて置く。横に並べてみたり、ちょっと乗っけてみたり、ヒレのようなところで、抱き合わせてみたりしちゃった。
「こうやって、2つ並べたら、私と優斗みたいな感じだなって思った、なんて、言えるわけないもん」
自分のことなのに、なんだかとても恥ずかしくなってきて、2つのイルカのぬいぐるみを慌てて離して、ベッドに飾る。
「ぬいぐるみ、色んなの沢山集めたいな。優斗と出かけてたら、色々増えていきそう」
これから先のことを考えて、胸が高なった。




