幼なじみと写真
ついに楽しかった夏休みが終わり、学校が始まってしまう日となった。
次の長期休みは12月までないと思うと切ない。
とはいえ、これまでの休み明けよりも、断然体は軽く感じる。我ながら、単純すぎる。
「おはよー、お兄ちゃん」
「おはよう」
いつものように朝の準備を整えていると、既に準備し終わり、朝のテレビ番組を見ていた美咲が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、休み明けの朝なのに調子良さそうじゃん。いいことあった?」
ちょっと朝余裕があるからって失礼な。まぁ確かに、休み明けは遅刻ギリギリまで布団の中にいることもあるけど。
「まぁ、ちょっとな」
「ふーん……あっ、まさか!」
美咲はテレビ番組を見ていた姿勢から、体ごとこちらに向け、続ける。
「香織お姉ちゃんと待ち合わせ!?」
「なんでそんなに鋭いんだよ」
地頭がいいからなのかなんなのか、見事に的中させてくる美咲。
「ずーるーい!私も一緒に行きたい!」
「いや、行く方向逆だろ」
「むー」
唇を尖らせて抗議してくる美咲を受け流しつつ、家を出るべく玄関へ向かう。
いつも思うけど、美咲は俺より家出る時間遅いのに、俺より早く準備終えてるのなんでだ?
そんなことを思いつつ、背中に美咲の気配を感じながら、家を出る。
「あっ、優斗、おはよ!」
「おはよう、香織」
家を出た先には、既に香織が待っていてくれた。久しぶりに見る、制服姿が眩しい。
「おはよう!香織お姉ちゃん!2人とも、行ってらっしゃーい」
「ありがとう、美咲ちゃん。行ってくるね」
俺たちは手を振って見送ってくれる美咲に手を振り返しながら、駅へと歩き出した。
朝にあったことや、これからの行事のことなどを話しているうちに、あっという間に駅に着いてしまった。
「ここからは別々だね。1日、頑張ろうね」
「あぁ、また、放課後な」
改札を通り、それぞれの電車に乗りこんだ。
これから毎日こんな感じかな、と思うと、胸が高鳴る気がした。
学校に着いて、授業やホームルームを受けること数時間。お昼休みの時間となった。
「橋崎、今日どこで昼食べる?」
「いつも通り教室でいいんじゃないか?」
「今日は青原と佐々木も一緒だぞ。中庭とか取りに行こうぜ」
うーん初耳。別に断らないけどさ。
「聞いてないんだけど。あと暑いだろ。教室で机動かせばいいじゃん」
「お前、幼なじみの話、教室でしていいのか?」
「はぁ!?なんでその話になるんだよ」
「このメンバーってなったら、そうなるだろ」
そんなこんなで、夏休みが開けたとはいえまだまだ暑い中、中庭のテーブルでお昼を食べる、物好き集団となった。
「いやー、久しぶりだけど、久しぶりじゃないね〜」
「どういう意味か分からないよ」
「そのままだけど?」
よく分からない会話をしながら、青原さんと佐々木も合流し、お昼を食べ始める。
「んで、なんで俺呼ばれたんだ?谷本はともかく、青原さんも佐々木も、夏休み前まで、別の人たちとご飯食べてたよな?」
「俺はともかく!?」
「そうだね〜。でも、その習慣を変えるには、長期休みの後は自然なタイミングなんだよ」
「そういうこと。せっかく遊びにも行ったんだし、これからもよろしくってことで」
谷本が何やら俺に言ってきている気がするが、無視して2人と話す。
「ん?ってことは、今日だけじゃなくて、今後もこんな感じでお昼過ごすってことか?」
「せいかーい!まぁ無理にとは言わないし、予定が合わない時とかもあると思うけどね〜」
嬉しいけど、毎日香織のことを聞いてきそうでなんか不安だ。
そうして、話しながらお昼を食べていると、話題は夏休みで楽しかったことに移っていった。
「あっ、そうだ。コレ見てよ。可愛くない?」
そう言って青原さんが示す先には、可愛らしい猫が眠っている写真があった。
「可愛いな。俺猫派だから、こういう写真好きだ」
「やったね。私も猫派」
「どうやら戦争のようだな。橋崎に青原よ」
「なら、谷本、3対1だね」
「なにぃ!?」
なんだかんだ楽しくご飯を食べていた訳だが、それぞれ、夏休みの思い出を話していく中で、俺は重大なことに気づいてしまった。
そう、あれだけ楽しかった、祖父母宅への帰省旅行で、1枚も写真を撮ってないのである!
初日のBBQも!海での砂のお城も!夏祭りも!
そして何より、あれだけ色んな姿を見せてくれた香織の姿も!
4人の中で1人、激しい後悔に襲われつつ、思い出話に花を咲かせていった。
夏休み明け初日の授業を終え、下校時刻となった。
ちゃんと宿題を全部提出したので、スッキリして帰れる。谷本はうっかり1つ忘れていたらしく、居残りを命じられていた。
その日の帰り道、香織と一緒に帰るため、駅で待ち合わせをする。
「お待たせ、優斗。1日お疲れ様!」
「おかえり、香織。そっちもな」
一言ずつ言葉を交わして、家までの道のりを歩き始める。
「今日、どんなことあった?」
「それがさ……」
俺は、お昼休みにあったことを話すことにする。
「夏休み、あんだけ楽しいことが沢山あったのに、1枚も写真撮ってなかったことに気づいてさ。めっちゃショック」
「あちゃー、日頃写真撮る習慣ないと忘れがちなのかもね。私、時々写真撮ってたから、あげよっか」
「ほんとか!助かる」
「どんな写真が欲しいの?」
「えっとな……」
BBQの写真や海の時の写真、夏祭りの時の写真、と希望を伝えると、そのほとんどが香織のスマホによって残されていた。
BBQで家族みんなで楽しそうにしている写真や、砂のお城の写真。夏祭りで美咲が楽しそうにしている写真などなど、香織に送ってもらった。
「マジでありがとう。感謝してもしきれない」
「どういたしまして。今度から、写真とる時、優斗にも教えてあげるね。他には撮っておきたかった写真とかない?」
「えっと、その」
あるにはある。というか、1番後悔していたのが、残ってる。けど、めっちゃ恥ずかしい。だが、背に腹はかえられん……!
「言ってみてよ。写真撮ってるかもしれないし」
「それじゃあ、あの、香織の浴衣姿の写真が、欲しいです……」
「えっ?」
後半は消え入りそうなくらい声が小さくなってしまったが、ちゃんと香織の耳には届いたらしく、驚いていた。そして次第に、その頬が赤く染っていく。
言うまでもなく、俺も真っ赤であろう。すごく熱い。
「そ、そんなに、欲しいの?私の、浴衣姿の写真」
「ほ、欲しい。すごく、似合ってた、から」
「もう、しょうがないなぁ。じゃあ、送ってあげる」
その言葉のあと、着付けて貰った直後に撮ったのであろう、香織の浴衣姿の写真が送られてきた。
「あ、ありがとう。大切にする」
「あ、あんまりまじまじと見ないでよね!」
その後、気まずいながらも、決して嫌ではない雰囲気のまま、歩いていく。
しばらくして、未だ頬の赤い香織が、その頬をもっと赤くしながら、聞いてきた。
「ねぇ、優斗?もしかしてさ、わ、私の、水着姿の写真も欲しかったな、とか、思ってない、よね?」
ギクッ!?そ、そりゃ、欲しいに決まってる。脳裏に焼き付いているとはいえ、好きな人の水着姿なんて、残しておきたいもんだろ。
とはいえ、そんなことを正直に言える訳もなく、誤魔化すように言葉を発する。
「そ、そんなこと、思うわけないだろー」
うん。我ながらこれはひどい。こんなので誤魔化されてくれるわけが無い。
香織はその俺の言葉を聞いて、俯いて、そっぽを向いた後、一言。
「もう、優斗のえっち」
うん。これは俺が悪い。その言葉すらも、魅力的に感じてしまった。
しかしながら、香織からは嫌がるような、マイナスな雰囲気と言うよりは、プラスの雰囲気が感じられた。
間もなくして、家に到着した。
「じゃ、じゃあまた明日!」
「ま、また明日」
恥ずかしさからか、家の前に着いて早々に家に入っていく香織。
「ちょっと、可愛いすぎだろ……」
明日、どんな風に朝あったらいいのか分からないやつだ、これ。
俺は家の前で、静かに頭を抱えた。




