幼なじみと友人とボーリング
さぁ、いよいよボーリングのお時間だ。完全初心者の俺、心配しかない件について。
「大丈夫、私もやったことないよ」
「多分、いや、きっと香織はすぐコツを掴む」
「そうかなぁ……?」
これまでの経験上、恐らく香織は早々に慣れて、楽しみ始めると思う。かけてもいい。
「まぁ、わかんないことは聞いてよ。最初のコツ位は教えれると思うよ」
「奏汰はスポーツ全般そつなくこなすからねぇ。私も結も、よく3人で来るから、奏汰程じゃないけど、教えてあげる」
「頼りにしてるよ」
どうやら、1レーン4人までらしいので、2レーンに3人ずつ分かれて入る。
自然と青原さん、俺、香織と佐々木、七海さん、谷本というグループに分かれた。
「それじゃあ、まずはボーリング球を選ぼう。重いほど倒しやすい感じがするけど、ちゃんと投げれる重さがいいよ」
あんまり重いと、投げるって言うより、落とす感じになっちゃうから、と佐々木が付け加える。
「私はいつもこの重さよ」
「それじゃあ、私も一旦同じにしてみようかな」
青原さんはスムーズに、香織は指をはめてみながら、選んで行った。
俺も同じように選んだが、香織や青原さんと同じ重さが良さそうかな。
「3人とも同じ重さか。橋崎、もうちょい筋肉つけた方がいいんじゃないか?」
「うっせ、自分でもわかってるよ」
そういう谷本は、俺よりもだいぶ重たそうなやつで、佐々木はその更に上。七海さんは俺たちより軽いものを選んだようだ。
それじゃ早速、と青原さんが球をもってレーンの前に立つ。
「いい?よーく狙って、力を抜いて、真っ直ぐ下ろして、真っ直ぐ投げる!」
その言葉通りの動きから投げ出された球は真っ直ぐに中央のピンに向かっていき、ピンをなぎ倒し、8ピン倒していた。
「わかった?最初はゆっくり、真ん中のちょい右らへんを狙うといいよ」
青原さんはレーンにある三角形を指さしながらそう説明してくれる。
「優斗、先どうぞ」
「お、おう。やってみる」
今度は俺が球をもってレーンの前に立つ。
「えっと、よく狙って、力を抜いて、真っ直ぐ……」
青原さんに教えてもらったことをなぞるようにして、球を投げる。
俺の投げた球は、真っ直ぐに、ガーターへ向かっていった。圧巻のゼロピンである。
「あっはっは!さすが、期待を裏切らない!」
「ちくしょう……」
谷本が心底楽しそうに笑う。くっそ、悔しすぎる。絶対今日中にストライク出してやるからな……。
「まぁまぁ、初めてだとそんなもんだよ。気にしない気にしない」
そう慰めてくれながら、レーンの前に立つ佐々木。なんだろう、めっちゃ様になってる。
佐々木はテレビなんかでよく見るプロボウラーの人のような綺麗なフォームで勢いよく球を投げた。
その球は、緩やかにカーブを描きながら中央のピンの少し右側に当たり、ピンを弾き飛ばしていった。
「ストラーイク!さすが奏汰!」
「調子、良さそうだね」
「と、とんでもねぇ〜」
幼なじみ2人の反応を見るに、いつもこんな感じなんだろうなと分かり、絶句する。
「何回か通って、やり方分かればできるって」
「いやー、信じられん」
谷本もうんうんと頷いていた。
「なかなかこうは行かないな。調子いい時はプロ並みなんだろ?」
「それは言い過ぎ」
その後、谷本も投げていたが、上手いね。特に言うことなし。あんま言うと調子乗りそうで嫌だ。
青原さんのをお手本にして頑張ろうと思っていると、それまで黙っていた香織が立ち上がり、ボーリング球を持ちあげた。
「頑張れ、香織」
「うん。やってみる」
そう言って香織は、早くも2周目に入った佐々木の動きを観察した後、真似するように動き、綺麗なフォームでボーリング球を投げ出す。
佐々木程の勢いはないが、緩く曲がり、中央のピンの少し右側を捉え、ピンをなぎ倒した。
「やった!できたよ!」
「すごーい!香織ちゃん!」
「ありがとう桃ちゃん!」
いつの間にか下の名前で呼び合う仲に進展していた2人がハイタッチして喜ぶ様子を横目で見つつ、谷本たちと話す。
「えっ、経験者だったっけ……?」
「驚くだろ、これで今日が初めてのボーリングなんだぜ……」
「えぇ……?」
「佐々木っていういいお手本があったのもあるだろうけど、やっぱり飲み込みが早すぎる」
男子勢が絶句しているのをみながら、やっぱりこういう反応が正しいんだなと再認識する。
「やったよ、ストライク取ったよ!優斗!」
「お、おう。おめでとう。さすがだな」
「えへへ、期待されちゃったし、応えないとって思って」
照れたようにそういう香織。事実として言ったつもりだったけど、まぁいいか。
その後も、プロ並みのスコアを叩き出す佐々木と、そこまでじゃないにしても、十分に上手い香織。そして、そこそこのスコアを取る谷本や青原さんに七海さんと、ダントツドベの俺による、ボーリング大会は続いていった。
え?ストライクは取れたのかって?まぐれでスペアを取れたのが精一杯だよ。
しばらくして、終わりの時間になったので、ボーリングを終えた。
ダーツ、卓球、バッティングセンター、ビリヤードなど、色々な種目を遊び倒していると、気づけば夕方になっていた。
「うーん、楽しかったね〜」
「そうだな。はしゃぎ倒した」
時間も時間だしと、俺と香織以外は、割と家まで遠いので帰ることにして、電車に揺られている。
「ねぇねぇ、香織ちゃん、橋崎くん。今日はちゃんと楽しめた?」
そう聞いてくる青原さん。それを、恥ずかしがらずに聞けるのすごいなと思いながら答える。
「おう、楽しかったぞ。ボーリングとかダーツはまた練習しとく」
「あはは、特にボロボロだったもんね。香織ちゃんは?」
恐らく、青原さんにとっては、香織の反応が本命なんだろうなと思いつつ、俺も香織の方を見る。
「うん。楽しかったよ。とっても。新しい友達もできたし」
「よかった〜」
青原さんは安心したように胸を撫で下ろす。素直で裏表のない女子って珍しい気がするなぁと思い、知り合えてよかったと思った。
気がつけば、俺たちの最寄り駅に着いた。
「んじゃまたな」
「今日はありがとう。またね」
俺たちは手を振りながら電車を降りた。
* * *
橋崎くんと香織ちゃんが電車を降りていき、また電車は走り始めた。
「いやぁ、それにしても」
「あぁ、考えてる事は一緒だと思う」
「うん、そうだね」
「?」
私と谷本くん、奏汰は顔を見合わせて、話す。
「想像以上に香織ちゃんが可愛すぎた」
「話には聞いてたけど、ほんとになんでもそつなくこなすなんて……」
「ボーリングが1番びっくりだったな」
「いや、1番びっくりだったのは……」
私たちは声を合わせて言った。
「橋崎 (くん)学校と違いすぎ!(だろ!)」




