幼なじみと中間テスト
5月も半分が過ぎ、学生が頭を抱えるイベント、定期テストの時期がやってきた。中間テストなため、主要五教科だけとはいえ、憂鬱である。
お世辞にも頭がいいとは言えない俺にとっては、地獄そのものである。割と得意な国語系でさえ平均ほど、苦手な英語や数学に至っては赤点ギリギリか、再試験行きである。
「お、橋崎、途中まで一緒に帰ろうぜ。」
「おう、帰るか。」
1年の頃からの友人の谷本大智が声をかけてきた。趣味が似通っているため、仲良くしている。
普段は部活でテニスに勤しんでいるが、部活が休みの日などは一緒に帰っている。
「部活なしで早く帰れるし、どっか寄って帰らね?」
「谷本、テスト週間の意味知ってるか?」
「へいへい、橋崎だって勉強しないくせによく言うぜ。」
「うるせぇ。」
俺のテスト週間はほぼいつもと変わらず家で過ごしているため、何も言い返せない。
「まぁ俺は、そんな勉強しなくても平均くらい取れるからいいんだよ。」
「なんだよ、要領の良さと地頭自慢か?」
実際谷本はテストではいつも平均か、それより少し上の点数を取っている。
「今度の中間は再試にならないように頑張れよ〜?」
「余計なお世話だっての!」
谷本と駅で別れ、ホームで電車を待ちながらカバンからスマホを取り出すと、香織からLINEが届いていた。
かおり『私、今日からテスト週間なんだけど、優斗はいつ頃テスト?』
優斗 『俺も今日からだ』
かおり『ほんと?じゃあ駅で待ってるね』
どうやら香織の通う高校の中間テストも同じタイミングらしい。
テスト週間の間は、香織と一緒に帰れることになりそうで、悪いことばかりじゃないなと思った。
駅に着き、改札を出て香織と合流した。
「あっ、優斗、おかえり。」
「おう、そっちもお疲れ。」
いつものように、2人で並んで話しながら帰る。
当然の事ながら、話題はテストのことについてになっていった。
「優斗ってさ、勉強出来るの?」
「うっ、ま、まぁまぁかな?」
赤点ギリギリどころか、再試になったことがあるなんて、言える訳もなく、慌てて誤魔化そうとする。
「ふーん?中学の頃、張り出されてたテスト順位で、名前見たことなかったけど?」
「うぐっ」
俺と香織が通っていた中学では、このご時世に珍しい、テストの点数に基づいた順位表を張り出すという活動が行われていた。
張り出されるのが上位数名ならまだしも、学年の半分程である、80位まで公開されていた。当然、成績が半分より下の俺の名前が乗ることはなかった。
もちろん香織は常に上位10位以内を保っていたのを覚えている。
「優斗、やっぱり成績良くないんでしょ。」
「……はい。」
誤魔化しきれなかった。なんだろう。すごく恥ずかしいぞ。
「ねぇ、勉強教えてあげよっか。」
「えっ?ありがたいけど、いいのか?自分の勉強もあるだろ?」
香織の成績がいいのは、日頃からはもちろん、試験前もきちんと勉強しているからなのは予想が着く。
俺のために香織の試験前の貴重な時間を使ってしまうのは気が引ける。
「別に優斗のためじゃないよ?どうしても家だと集中できないことあるし、教える方も勉強になるからだよ。」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。」
「うん。場所は図書館でいい?」
「おう。わかった。」
駅から自宅とは反対方向に、市営の図書館がある。そこのことだろう。
話しながら歩いていたら、自宅前まで来てしまった。
「じゃ、明日から1週間、頑張ろうね。」
「あ、明日からか。」
いつも努力を欠かさない香織のことだ。今日からやるもんだと思っていたが。
「優斗はどうせ、今日勉強する気ないんでしょ?急に始めても、集中もやる気も続かないし。その代わり、明日から頑張るんだから、覚悟しといてよ?」
「は、はい。」
今更ながら、香織の勉強会についていけるんだろうか。一抹の不安を抱えながら、香織と別れた。