幼なじみと旅行の終わり
祖父母宅から出発し、1時間ほどが経ち、自宅までの道のりのだいたい半分ほどまで来た。
行きでは道の駅に寄って帰ったが、帰りはよることなく帰る予定だ。
俺の隣では、美咲と香織がお互いに寄りかかりながら寝ている。香織は朝早かったようだし、一緒に歩いて移動していたから理解できるが、美咲は寝すぎじゃないか?
まぁ車の揺れは眠気を誘うけど、と考えながら欠伸を噛み殺していると、久しぶりにスマホがなった。
俺に連絡してくる人なんて、家族と香織、1部の友人くらいなので、家族と香織と一緒にいた旅行中は鳴ることがなかったのも頷けるだろう。
『第2回、遊びの予定会議を始める!』
青原さんからの、グループへのLINEだった。ちょうど暇だったし、率先して話に入ってみることにする。
『いいな、今度は何しようか』
『やっぱりスポーツ系が良くない?』
『ボウリングとか色々あるとことかどうかな?』
『あり!日にち決めよ!』
佐々木も参戦してきて、話が盛り上がってきた。それにしても、ボウリングか。まともにやったことないけど、大丈夫かな。
伝えておくべきか悩んでいるうちに、あれよあれよと話が進み、週末に遊ぶことになっていた。
『そうだ、橋崎。例の幼なじみちゃんも誘ってみてくれよ』
『私も会ってみたいな。無理はしなくていいからさ』
『聞くだけ聞いてみるけど、あんまりグイグイ距離詰めないようにしてくれよ?特に谷本』
『名指しで言うほど!?』
いつの間にか参加してきていた谷本にちょっかいを入れつつ、隣の香織たちの様子を伺う。
「うーん、まだ寝てるな。家に着く頃まで起きなさそうだし、起きてからでいいな」
返答貰えるまで時間かかると思うとグループに伝えて、一旦話はそこで終わった。
それから約1時間、予想通り到着するまで起きなかった2人に声をかけて起きてもらい、荷物を下ろす。
香織は自分の荷物を受け取ると、俺たち家族に、の方に向き直り、話し始める。
「3日間、お世話になりました!本当に楽しかったです!」
「私も楽しかった!」
「ええ、楽しかったわね。また、予定立てて、旅行行きましょうね」
「私たちはいつでも香織ちゃんを歓迎するよ。これからも、2人と仲良くしてあげてくれ」
香織が挨拶をして、家族がそれぞれ香織に思いを返していく。
「あぁ、俺も楽しかったよ。また、一緒に色んなとこ行こうな」
「うん!本当にありがとうございました!」
そう言って、家に入っていく香織を見送ってから、俺たちも家に入る。
「ただいまー!」
美咲が洗面所に入っていくのを見つつ、荷物を運んで部屋に入っていく。
「優斗、荷物置いてから、ちょっといいかい?」
「ん?わかった。部屋に行くよ」
帰って早々に父さんに声をかけられた。
部屋に荷物を置いて、父さんの部屋へ向かう。
「父さん、入るよ」
一言声をかけて、扉を開く。
「帰ったばかりなのに、すまないね」
「いいけど、どうしたんだ?」
「忘れないうちに、と思ってね」
父さんは自分の机の前の椅子に座り直しながら、そう言って、続けて話す。
「話すか、悩んだんだけどね。隠しておいても仕方ないし、伝えておこうと思って」
「な、何を、です?」
「実はね、香織ちゃんから聞いたよ。優斗、頑張ったんだね」
恐らくは香織と先輩とのことだろうなと理解し、香織に話してくれないか頼んだんだろうと察する。
「大したことはしてないよ。俺ができることをやっただけだ」
「優斗にとってはそうかもしれないね。けれど、私たちは、優斗が勇気を持って香織や美咲を守ってくれたことが嬉しかったよ。誇りに思う」
父さんはいつも真っ直ぐ考えや思いを伝えてくるので、照れくさい。
「これからも、優斗が思うように、香織ちゃんと関わって行ったらいい。優斗が故意に香織ちゃんを傷つけるようなことは無いと思っているけれど、もし、またなにかあったら、相談してきなさい。力になる」
「……うん。ありがとう」
「悪かったね、帰ったばかりなのに呼び出して」
「いや、大丈夫だよ。旅行の運転とか、色んな気遣いありがとう」
そう言って父さんの部屋を出て、自分の部屋に戻る。
部屋に置きっぱなしだったスマホを手に取り、画面を見ると、香織から着信があったようだ。
一言LINEを入れてから、かけ直す。
「もしもし、香織?」
「うん。聞こえてるよ〜。ほんと、色々ありがとね」
香織から、お礼を言われたり、楽しかったことを話したりしつつ、頃合をみて友人に頼まれたことを伝えてみる。
「そういえば、さっき、高校の友達が、遊びに誘ってくれてさ」
「あー、水やりの時の人?」
「そうそう谷本な。今のとこその人と、俺と、もう2人の合計4人で遊ぶって話をしてるんだけど、香織もどうかなって思ってさ」
「えっ、私も?」
「おう。谷本もあとの2人も、香織に会ってみたいって言っててさ。もちろん、香織が嫌じゃなければ、だけど」
「そっか。うーん、優斗は、いいの?」
俺は、か。香織に言われて考えてみるが、香織があの3人に与える影響より、あの3人から香織が受ける影響の方が大きい気がする。
「うん、俺はいいぞ。香織も一緒なら楽しいし。どっちかと言うと、谷本たちが香織に嫌な思いさせないかが心配だ」
「優斗からみて、どんな人たちなの?」
「うーん、そうだなぁ、楽しくて、賑やかな人達かな。けど、嫌な賑やかさじゃなくて、程よい感じ」
「優斗がそう言うなら、大丈夫そうかな。遊ぶって言ってたけど、どこ行くの?」
「えっと……」
それから、日にちや場所、青原さんたちの名前などを香織と共有した。香織が前向きに参加してくれそうで嬉しく思いつつ、一応の保険をつけておく。
「それじゃあ、あいつらに香織も一緒に行くこと伝えるな。けど、もし、やっぱり嫌だなって思ったら、すぐ言ってくれ。知らない人ばっかりだし、しんどいだろうから」
「うん、ありがとね。優斗が一緒だし、きっと大丈夫だよ。頼りにしてる」
そう話してから、電話を終わり、友人たちのグループに報告する。
『幼なじみの事だけど、参加してくれるってさ』
『ほんと?やったね!』
『1人だけ、周りの人知らないの、キツイだろうし、僕、彼女誘ってみるよ』
『おっ?リア充参戦か?』
『谷本、気を使ってくれてんだから茶化すなよ』
どうやら佐々木が気を使ってくれるみたいだ。
なんだか賑やかで、色んなことが起きそうな出かけになりそうだなと思いつつ、部屋を出て、リビングに向かっていった。




