幼なじみとお墓参り
朝のゴタゴタを終え、旅行最終日が始まった。今日は毎年と同じように、お墓参りをする。
掃除のための道具や線香、ライターなどを用意して、車に積み込む。
「気をつけてね」
「ありがとうねぇ」
じいちゃんとばあちゃんが車に乗り込むのを手伝い、自分の準備も済ませる。
うちの車は座席が6人分しかないため祖父母が乗り込む時には誰かが歩いて向かわなければならない。
幸い、それほど遠い訳では無いので全然平気である。
「ありがとうね、優斗」
「しょうがないよ。んじゃ先出るな」
車と歩きでは到着時間に大きな差があるため、先に出ても到着が早いのは言うまでもなく車である。
「あれ?優斗はもう出るの?」
「あぁ、車に乗り切れないからな」
玄関で靴を履いていると、香織が声をかけてきた。
朝のゴタゴタから、まだまともに話していないので、俺のせいじゃないんだが、なんだか気まずい。
「なるほど、ちょっとまってて!」
香織はそう言って早足でリビングに入っていった。何やら話し声が聞こえたあと、香織が戻ってきた。
「私も一緒に歩いて行くよ」
「えっ、無理しなくていいぞ?暑いし。6人なら乗れるんだし」
「1人で行くのはつまんないかなって。私、この辺のことまだ全然わかってないし、教えてよ」
そう言いながら靴を履き、トントンと鳴らす。
「ほら、いこ?」
「あ、あぁ、行くか」
そう言って2人で歩き始めた。
「それで、実際どれくらいかかるの?」
「うーん、20分くらいかな。車なら5分とか」
「なーんだ、あっという間じゃん」
2人で並んで歩く。いつもの落ち着くスタイルだ。
「それはそうと、今朝は母さんが悪かったな」
「気にしなくていいよ。元はといえば、お願いしたのは私だし。まぁあのタイミングでバレるとは思ってなかったけど」
母さんのことだから、香織に話を持ちかけた時から狙ってたんだろうな。
「なんで急に朝ごはん用意してくれたんだ?」
「えっとね、優斗へのお礼だよ」
「俺のためだったのかよ」
「うん。優斗には沢山もらってばかりで、何も返せてなかったから」
そんなことはないと思うけどな。俺だってもらってばっかりだと思ってる。
「だからさ、もう1回聞いていい?」
「何をだ?」
「お味噌汁、美味しかった?」
「……美味しかった。俺の好きな味だったよ」
「そっか、よかった」
そう言って心底嬉しそうに微笑む香織。
これはもう、勘違いしても、仕方ない、よな。
顔が暑くなるのを感じながら、歩いていった。
無事にお墓のある場所へたどり着くと、既に車も到着していた。
「お待たせ、手伝うことある?」
「ありがとうねぇ、お墓掃除、手伝ってくれるかい?」
「わかった。香織は濡れるといけないし、母さんの方手伝ってやってくれ」
そう言って分かれ、既に掃除を始めている父さんたちの方へ合流する。
「おや、優斗、来たかい。そこのブラシで足元綺麗にしておくれ」
「了解」
その調子でテキパキと掃除を進め、徐々にお墓は綺麗になっていった。
母さんたちが用意してくれた線香やお花を供えて、家族みんなでお墓の前に並んで手を合わせる。
数秒間、そうした後、家に戻る時間になった。
「優斗、香織ちゃん、悪いね。先に戻るけれど、ゆっくりでいいからね」
「あぁ、また後で」
車で帰っていく家族を見送ってから、来た時と同じように、香織と並んで帰る。
「ねぇ、優斗」
「ん?どうした?」
「優斗は、お墓の前で、ご先祖さまになんて報告したの?」
「んー?家族が変わりないことと、相変わらず美咲と仲良くしてることだな。あとは……幼なじみとまた楽しくやってること、かな」
「私のことも報告してくれたんだ。紹介はしなくてもいいの?」
「……それは、また今度な」
「ふーん、そっか」
俺は嘘をついた。実際に頭をよぎったのは、本当の意味で家族に香織を紹介する関係になったら、ということだった。
うん。やっぱり、俺は。
「あれ?どうかした?」
「いいや、なんでもないよ」
ぼんやりと香織の方をみて、会話をしながら、自分の気持ちを自覚した。
家族が家に戻ってから、しばらくして、俺達も戻ってきた。旅行でやる予定だったことも終わり、あとは帰るだけである。
お昼を食べてから、身支度を整えていく。
「忘れ物しないようにね」
「分かってるよー!」
それぞれ、持ってきたものを確認して、車に積み込んでいく。
そうして、荷物も積み終わり、俺たちは車に乗り込む。
運転席に座る父さんが窓を開け、じいちゃん達に挨拶をする。
「それじゃあ、行ってきます。3日間ありがとうございました。今度は、恐らく冬に、また来ます」
「えぇ、わかったよ。待っておるからね」
ばあちゃんはそう答え、じいちゃんは静かに手を振っている。
じいちゃんに手を振り返していると、ばあちゃんが後ろ側の窓にやってきた。
「優斗、美咲ちゃん、香織ちゃんも。また会えることを楽しみに待っておるよ」
「おう、また帰るよ」
「次は雪遊びだね」
「ありがとうございます」
「もしかしたら、次会う時には、違う関係の子もおるかもしれんのぉ〜」
「ちょっとばあちゃん!?」
微笑み、笑いながらそう言うばあちゃん。
なんだか、俺の内心が見透かされているようで、ドキッとする。多分、じいちゃんも、両親も気づいてるんだろうな。
察しの良すぎる我が家系を恨めしく思っていると、車は静かに走り出し、祖父母宅から離れていった。




