幼なじみと2日目の夜
無事に祖父母宅へとたどり着き、家に入る。
「ただいま」
「帰りました」
2人で足し算のように挨拶をしながら部屋に入る。
「おかえりなさい。あら、美咲はお眠かしら?」
「あぁ、とりあえず、そこら辺寝かしとくな」
香織や父さんに手伝って貰いながら、美咲をソファーの上に寝させる。
「ふぅ、ちょっと疲れた」
「ご苦労さま」
ぐぐっと伸びをしたり、肩を回したりしてほぐしながら、父さん達に尋ねる。
「そういえば、父さん達は俺たちが夏祭り行ってる間何してたんだ?」
「お風呂入ったり、ご飯食べたりしながら、優斗たちが小さかった頃のビデオみたりしてたわよ」
うーん、出かけてて正解だったな。帰ってくるタイミングも、それらが終わった後だったようで一安心だ。
「じゃあお風呂だけど、昨日と同じで俺が先行っていいか?」
「もちろん。行ってらっしゃい」
そう言って、俺はお風呂に向かった。
***
「香織ちゃん、少し、話できるかい?」
優斗がお風呂に向かうのを見送った後、優斗のご両親から真面目な雰囲気で話しかけられた。
この旅行中に見たことないほど真剣な雰囲気のお2人に、私は漠然とした不安を抱きながら、質問する。
「はい、大丈夫です。何か、ありましたか?」
「あぁ、ごめんね。決して、香織ちゃんを責めようとか、叱ろうとか思ってるわけじゃないから、肩の力を抜いて」
「ごめんなさいね。真面目な話なのは間違いないのよ?ただ、香織ちゃんが嫌な思いをするようなことはしないわ。安心して」
私が不安そうな表情をしているのに気づいて、フォローしてくれる姿が、優斗と似ていて、安心出来る。
「ただね、私たち、優斗と香織ちゃんの間で、何があったのか知らないの。だから、正直、この旅行に香織ちゃんも一緒に来れたことに、少し疑問があったのよね」
「香織ちゃんのご両親は、何故か優斗のことをすごく信頼してくれているし、そのことはありがたいけれど、理由がわかっていないんだ」
少し間を開けてから、続けて2人が話す。
「優斗に聞いたこともあるけれど、俺から言っていいか分からない。香織が話してもいいと思ったら香織から話してくれると思う、って答えてくれなかったし」
「だから、香織ちゃん。無理はしなくていいけれど、良かったら教えてくれないかな」
2人の言葉を聞いて、私は優斗の心遣いをありがたいなって思った。そして、知らなかったのに、私のことを受け入れてくれたご両親に、感謝の気持ちが強くなった。
「何も知らなかったのに、私のことを思って、この旅行に誘ってくださって、ありがとうございました。私の中で、整理もついたので、長くなってしまうかもですが、聞いていただけますか?」
「えぇ、もちろんよ。ありがとう。辛くなったら、やめてもいいからね」
「はい、実は……」
それからしばらく、優斗に助けてもらったことやお世話になったことなどを話していった。
* * *
割としっかり日焼け止めを塗っていた事や、1日日に当たってたこともあって、いつもよりゆっくりとお風呂に入ってしまった。
お風呂から出てからは急ぎ足で家族が集っているであろうリビングへと向かった。
「ごめん、遅くなった」
扉を開け、リビングに入りながらそういうと、何やら温かい目の両親に出迎えられた。
「そ、それじゃあ、私、お風呂いただきますね」
「えぇ、香織ちゃん、ありがとうね。ゆっくりしておいで」
「はい。優斗、ちゃんと髪乾かすんだよ」
「お、おう」
なんだ……?よくわかんないけど、両親の雰囲気が、なんか、違う感じがする。嫌な感じじゃないけど、なんだろう。鬱陶しい?
「な、なんかありましたっけ?」
ドライヤーのある鏡の前に向かいつつ、両親にそう聞いてみる。
「ううん、何もないよ」
「えぇ、なんにも」
「ほんとか……?」
じゃあなんなんだよ、この感じ。香織もなんか慌ててお風呂に行った感じあったし。まぁ俺が遅くなったのが悪い、のかな?
昨日教わったように、ドライヤーで髪を乾かす。
「ただ、息子が誇らしいだけだよね。母さん」
「えぇ、いつの間にかかっこいいことできるようになっちゃって。誰に似たんだか」
2人が何か話しているのは口の動きでわかったが、何を話しているのかまでは、分からなかった。
「うーん、ふわぁ〜」
俺のドライヤーをかける音で美咲が目覚めたようだ。
「おはよう。美咲」
「おはよー、お父さん。あれ?いつ帰ったっけ」
「遊び疲れて、眠ってたのよ。優斗が背負って帰ってきてくれたわ」
「ほんとに?ありがと、お兄ちゃん」
まだ髪乾かし中なので、3人の声はよく聞こえないが、美咲はこちらに何かを言っているようなので、手を振って答えておく。
「あれ?香織お姉ちゃんは?」
「今お風呂に行ったところよ」
「えー!今日こそ一緒に入ろうと思ってたのに」
「まだ時間はあまり経ってないから聞いてみたらどうだい?」
「うん!行ってくるー!」
美咲もお風呂に向かっていった。
その後、2人でお風呂から出てきた美咲と香織は、髪を乾かしあっていた。微笑ましく思いつつ、ゆっくりと過ごす。
昨日のリベンジを果たすべく、トランプやボードゲームで遊んでいるうちに、気づけば日付が変わろうとしていた。
「ほら、今日は疲れただろう?そろそろ寝る準備をしなさい」
「はーい、香織お姉ちゃん、一緒にいこ」
「うん。ほら、優斗も」
3人で洗面台に行き、歯磨きを済ませ、部屋に戻る。
昨日と同じように寝転がり、今日楽しかったことやまたしたいことを話す美咲と香織の2人。
今日は参加できそうな内容だったので口を挟みつつ、時間が過ぎていく。
「美咲ちゃん、寝ちゃったね」
「さっきまで寝てたのにな。明日もあるし俺たちも寝るか」
「そうだね」
そう言って、布団の上で寝ていると、直ぐに睡魔がやってきた。なんだかんだ俺も疲れてたんだな、と感じつつ、睡魔に身を任せようとする。
「優斗?まだ、起きてる?」
僅かに残っていた意識が、控えめに聞いてくる香織の声を拾った。
半分寝ているような状態で、香織の方をみて答える。
「う、ん。どうかしたか?」
「ちょっとね、海でのこと、思い出しちゃって。優斗さえ良かったらなんだけど、今朝みたいに、手、貸してくれないかな」
寝ぼけた頭で、なんだそんなことか、と思いながら話す。
「どうぞ、好きに使って、くださいな」
そう言って、右手を香織の方へ差し出す。
香織は俺の手を、両手で包み込むようにきゅっと握って、微笑んで言う。
「優斗、今日も、助けてくれて、ありがと」
俺は香織の手の感触を感じ、一気に目が覚めた。目がきちんと開き、目の前で祈るように俺の手を包んで握り、目を瞑る香織が見えた。
その後、香織の手の感触や、安らかな寝顔から目を離すことが出来ず、疲れによる強い睡魔が訪れるまで、眠れなかったのは、言うまでもない。




