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幼なじみと夏祭り

お昼をすぎ、父さんの迎えが来たので、俺たちは海から祖父母宅へと帰ってきた。

家に着くと、お昼が用意してあった。どうやら、両親や祖父母は既にお昼を済ませたようだ。俺たちもお昼を食べて、ゆっくりしていると父さんが口を開く。


「美咲、香織ちゃん。母さんとばあちゃんが呼んでいるから、行っておいで」

「わかった。いこ、香織お姉ちゃん」


美咲は香織の手を引いて母さんたちの元へ向かっていった。


「優斗は、私の手伝いをお願いしてもいいかい?」

「おう、何すればいい?」

「車を綺麗にしよう」


その後、ホースやタオル等を持って、我が家の愛車をピカピカにするべく、父さんと頑張った。見違える程に、とはいかなかったものの、十分綺麗になった。


「優斗、ありがとうね。おかげで助かった」

「どういたしまして」

「この後は夏祭りに行くんだろう?少し家で休んだらどうだい?」

「ありがとう、そうする」


そう言って、家に入り、リビングで時間を潰す。

そういえば、美咲と香織は何してるんだろうと思いつつ、することもないので、夏祭りの準備をしつつ、テレビを見ていると、ばあちゃんたちの部屋に繋がる扉があいた。


「お兄ちゃーん」

「美咲、用事は終わった……か?」


そこには、ピンクを基調として、白色の花があしらわれた浴衣を着た美咲がいた。


「どう?似合うかな」


美咲はその場でくるりと周り、ニッコリ笑う。


「あぁ、よく似合ってるよ。かわいい」

「そうでしょー!ありがと、お兄ちゃん」


そう言って美咲は出てきた部屋に戻って行った。

テンション高いな〜と感じつつ、ふと、思い当たる。

美咲と一緒に香織も呼ばれてたってことは……もしかして?


「美咲ちゃん、ちょっとまって!心の準備させて」

「大丈夫だよ!似合ってるもん!」


賑やかな2人の声と共に、香織は美咲に押されるようにして、部屋から出てきた。

香織と目が合い、少し照れている様子で、香織が聞いてくる。


「ねぇ、優斗。どう、かな」


香織は美咲の色違いの青色を基調とした浴衣を身につけていた。青色は、あまり華やかさのない色合いだが、もともと可憐な香織の印象を邪魔しない程度に飾られていて、とても似合っている。

さらに、長く綺麗な髪を、お団子のようにして、簪を挿してまとめているのが、普段と違う雰囲気を生み出している。


「えっ、と、綺麗、だよ。すごく似合ってる」


俺がそう伝えると、嬉しさ半分、悲しさ半分のような表情になる香織。


「いつも、綺麗って言ってくれて、嬉しいけど、私も、美咲ちゃんみたいに、言われたいな、なんて」


香織は少し俯いて、上目遣いのようにしながら俺にお願いしてくる。

俺自身、そう伝えるのが恥ずかしくて、照れくさくて、避けていた自覚があるので、観念して、言葉にする。


「あぁ、香織。浴衣、似合ってる。可愛い、よ」

「ありがと!」


香織も頬を赤くしながらそう話していると、母さんがやってきた。


「さっ、3人とも、夏祭り、行ってらっしゃい。優斗、2人をお願いね」

「あぁ、楽しんでくるよ」

「行ってきまーす!」


用意していた肩掛けのカバンに、2人の分の荷物も入れ、3人で家を出る。目的地は夏祭りが行われている商店街だ。

いつも以上に、美咲と香織の歩くペースを意識しつつ、並んで歩いていく。

屋台が並んでいる通りに近づくにつれ、人が多くなってきた。


「俺もはぐれないように気をつけるけど、2人も気をつけてくれ」

「わかった、そういうことなら〜」


そう言って美咲は俺のカバンの根元を掴んだ。


「ほら、香織お姉ちゃんも」

「えっ、わ、わかった」


美咲に促され、香織も遠慮がちに、ぎゅっと掴む。


「んじゃ、行くか」

「りんご飴食べたーい!」


そうして俺たちは人混みに紛れていった。


りんご飴!焼きそば!わたあめ!イカ焼き!と次々に屋台を回っていく美咲に着いていきつつ、俺もいちご飴やイカ焼きを食べる。

香織は美咲が買ったものを少しずつ貰いつつ、汚れそうな時に、拭いてあげたり、予め注意してあげたりしていた。

香織と一緒に食べたり、お世話してもらったり、美咲ご満悦である。


その調子で、ヨーヨーすくいやくじ引き、かき氷など一通り回った頃には、日も暮れ、人も少なくなってきていた。


「うー、ん……」


美咲はもう半分寝ながら歩いている状態になっていた。まぁ朝からはしゃぎっぱなしだったし、楽しそうだったしな。

近くにベンチを見つけ、腰掛ける。


「ちょっと休んだら帰ろうか」

「うん、そうしよ。美咲ちゃん、大丈夫?」

「んー、だいじょぶ」


うーん限界だな。とりあえず、手に持ってるものを減らそう。


「香織、ゴミ捨てて来るから、美咲のこと見ててくれるか?なんかあったらすぐ助け呼んでくれ。すぐ戻ってくるから」

「わかった。待ってるね」


そう伝えてから、少し前に見かけたゴミ捨て場に戻り、祭りの中で出たゴミを捨て、2人の元に戻る。


「おまたせ、なんもなかったか?」

「うん、大丈夫だよ。ただ……」


困ったように香織が視線を向ける先には、香織の肩によりかかって眠る美咲の姿があった。


「まぁ、そうなるよな」


美咲の履いている下駄を脱がし、無くさないように鼻緒に紐を通してセットにしてカバンに付ける。


「優斗?」

「起こすのも可哀想だし、背負って帰るよ」

「えっ、大丈夫?」

「平気だよ。最初ちょっと手伝って貰うかもだけど」


怪我しないよう、ゆっくり美咲を持ち上げ、背負う。

後ろで穏やかな寝息が聞こえ、安心する。


「それじゃ、帰るか」

「うん、気をつけてね」


来た時よりも少しゆっくりと歩いて、祖父母宅へと帰っていく。

香織は美咲の様子を見て、話し始める。


「美咲ちゃんって、今年中学2年生だよね」

「そうだけど、どうしたんだよ。香織、歳とか誕生日とか大事にしてるから忘れることなんて、滅多にないのに」

「いやね、別に、忘れてたわけじゃないよ?ただ、美咲ちゃんって、無邪気だよね」

「あー、中2にしてはってことか。確かに、香織はそう思うかもな」

「私はって?」

「美咲は、香織のことになると子どもっぽくなるんだよな」


実際、学校ではどっちかというと大人しい優等生タイプらしいし。家じゃ割と無邪気だけど、香織の前ほどじゃない。


「えー、そうだったんだ。でも、どうしてだろ」

「そりゃ、香織のことが好きで、信頼してるからじゃないか?」

「そうなのかな。そうだと嬉しいな」


何やら最近の美咲の目標は、香織みたいな素敵な人になることらしいからな。よっぽど好きで、憧れてるんだろうな。

そんなことを考えていると、下の方に見える美咲の足の指の間が赤くなっていることに気づいた。

下駄は履きなれてないと赤くなって痛いんだよな。

もしやと思い、こっそりと香織の足元を確認する。思った通り、行きの時と少し歩き方が違う。気遣ってるような歩き方だ。


「香織、ちょっとそこの公園で休憩していいか?」

「うん、大丈夫だよ」


普通に指摘しても、きっと大丈夫だと言うだろうし、休憩がてら、軽く手当てしてもらおう。


「優斗、大丈夫?」

「あぁ、俺は平気だよ。香織、そこ座って」

「えっ?わかった」


俺も、美咲を気遣いつつ、ゆっくりと腰を下ろして、両手を自由に使えるようにする。

カバンから絆創膏とハンカチを取り出して香織に手渡す。


「足、痛いんだろ。絆創膏貼ったらちょっとはマシになると思うから。気づくの遅くなって、ごめんな」


香織は少し驚いた顔をして、答える。


「バレてたんだ……、優斗に隠し事はできないね。気遣ってくれて、ありがと」

「どういたしまして」


香織のためにゆっくりめに休憩をしてから、再び祖父母宅へと戻る道を歩く。

休憩の間も美咲は目覚めることはなかった。まだ布団に入るには早い時間だし、多分、帰ってから目が覚めたら、また元気に動き回るんだろうな。


「そうだ、香織」

「どうしたの?」

「今日は、お風呂一緒に入ろうって言ってくると思うから、覚悟しとけよ」

「えっ!?」


香織が驚いて立ち止まる。そんなに驚くことか?と思っていると、香織の頬が赤くなっていくのを見て、慌てて誤解を解くために口を開く。


「お、俺じゃないぞ!?美咲!美咲が帰ってから目が覚めたらそう言うかなって!」

「あ、そ、そうだよね!ごめんね!」

「んぅ、んー……」


俺たちの慌てた声に反応して、目が覚めそうなのか、背中で美咲がモゴモゴと動く。


俺と香織は目を合わせて、口に手をやって、「しー」とジェスチャーをする。

何とか美咲は起きずにまた寝息が聞こえ始めた。

2人で、美咲の穏やかな寝息を聞きながら、残りの帰り道を帰っていった。

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