幼なじみと海 その2
「その2人、俺の家族なんですけど。嫌がってるんで、離してもらえます?」
遠目から2人が絡まれてるのが見えたから、慌てて2人と男の人達の間に入ったが……
「あ?ふっ。ねぇーいいでしょ?こんな頼りなさそうなお兄ちゃんほっといて、俺たちと遊ぼうよ」
本気で香織を掴んでいる手を解こうとしているのにビクともしないし、俺の登場は鼻で笑われて終わった。
これ、どう考えても、おれ一人じゃ無理だな。
俺はそう判断し、体の後ろで、美咲に見えるよう、ある方向を示すハンドサインを送る。
「……っ!」
俺のサインに気づいてくれたようで、美咲は男の目を盗んで走り出した。
こちらに目を向けさせるよう、なるべく目立つように意識しながら話す。
「あのさ、彼女が嫌がってるの、分からないんですか?」
なおも俺を無視し続け、香織を連れていこうと必死な男達。まぁ、あとは時間稼げばいいから、このまま俺が間に入ってるだけでも問題は無いんだけど……このままじゃ、後ろに隠れてる香織が可哀想だ。
俺は、もう一歩、香織の前に入り、男の1人と無理やり目を合わせて話す。
「無視するの、やめてもらっていいですか?」
「チッ、なんだお前。兄貴だかなんだか知らねぇが、俺たちの話に入ってくんなよ、シスコンが。お前みたいなチビ陰キャがイキってんじゃねぇよ!」
おぉ、暴言のバーゲンセールだな。まぁ、だいたい合ってる。
「傍から見たらシスコンかもしれないですね。けど、悪い虫から守るのは、兄や家族の役目だと思ってるので。今日のところは帰ってもらえます?」
うーん、家族設定はいらなかったかな。でも2人ともいる状態だとややこしくなってただろうし、どっちでも変な感じだったかな。
「だいたい、俺たちはお前の許可なんか求めてねぇのよ。そんな大層な考えを持ってんなら、身だしなみやら態度やらを変えたらどうだ?今のまま、ガリガリのキモイ陰キャから言われてもなんも思わねぇぞ?」
そう言って男たちはゲラゲラと笑う。
これも正論だな。俺も自覚あるし。でも、それとこれとは別だ。
言い返そうと言葉を考えていると、後ろに隠れていたはずの香織が、肩を震わせながら横に出てくるのが見えた。
「えっ、かお……」
「あれ?やっと一緒に遊んでくれる気になった?」
俺の声に被せるように香織に話しかける男。けれど、香織はそれを無視して話し始める。
「それ以上、優斗のことを悪く言うの、やめてもらえますか?」
「あ?」
「か、香織……?」
香織さん?見たことないくらい怒ってません?
「優斗は、優斗は!あなたたちよりずっと優しいし、頼りになるし、かっこいいです!目の前にいる女の子の気持ちすら分からない、あなたたちは、かっこ悪いし気持ち悪いだけです!あと、背が高いのが自慢なのか知らないですけど、怖いだけですから!」
香織はその体を震わせながら、男たちに言葉を放った。
「香織……」
「兄貴も兄貴なら、妹もブラコンかよ。まぁ、見た目が良ければなんでもいいけどな。好き勝手言いやがって、覚悟しろよ」
本格的に香織を無理やり連れていく雰囲気の男たち。 俺は香織を庇うように立っているが、3人がかりで来られたら、手も足も出ないだろう。
「こっちです!早く!」
「またお前らか!いい加減にしろよ!」
「やべ、逃げろ逃げろ!」
そこに、美咲が海の家にいた、いかついおっちゃんを呼んで来てくれた。間に合って、良かった。
「あんちゃん、嬢ちゃん、大丈夫だったかい?遅くなってすまなかったね」
「ごめんね、お兄ちゃん、香織お姉ちゃん」
「いえ、助かりました。おじさんも、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺たち3人はおじさんに頭を下げる。
「いやいや、こっち側の不手際でもあるんだよ。あいつら、何度注意しても繰り返してこんなことしてるんだよ。出禁だって言ってんのに、目を盗んで入ってきやがる」
「えぇ……?」
「本当に、すまなかったね」
おじさんと話をしてから、俺たちはテントに戻ってきた。
「美咲、香織、助けに入るのが遅れてごめん。怪我とか、なかったか?」
「うん、大丈夫。ありがとね」
「私も、大丈夫だよ。香織お姉ちゃんが守ってくれたから」
空気が暗いし重い。楽しく遊ぶ雰囲気じゃなくなっちゃったな。どうしたらいいんだろう……
「香織お姉ちゃん、守ってくれて、ありがとう。お兄ちゃんも、助けてくれてありがとう。2人とも、かっこよかった」
やっぱり、前向きな言葉をかけ合うのが、1番かな。
美咲に続いて、俺も話す。
「美咲、俺の合図に気づいて、助けを呼びに行ってくれてありがとう。香織、怖かったのに、俺のために、勇気を出してくれてありがとう。俺のこと、あんなふうに言ってくれて、嬉しかった」
「美咲ちゃん、優斗……」
香織は俺と美咲と目を合わせてから、話し始める。
「美咲ちゃん、おじさんを呼んできてくれてありがとう。ほんとに助かったよ。優斗、私を守ろうとしてくれて、ありがとう。嬉しかったし、安心できたよ」
俺たち3人は、お互いに顔を見合わせてから、笑いあった。
「それじゃ、気を取り直して、遊ぶぞー!」
「「おー!」」
美咲の言葉に合わせて、俺と香織も声を上げて明るく振る舞う。
何とか、楽しく遊ぶことができそうな雰囲気になり、安心した。美咲に感謝だな。
最初は何をしようか話す2人を見ながら、俺は、男たちに言われたことを思い出していた。
最初に香織と男たちの間に入った時に、俺にもう少し力があれば、振りほどいて逃げるだけで良かった。
「大切な人たちを守るためには、最低限、力がないと、か。鍛えなきゃな」
「「お兄ちゃん?(優斗?)」」
「あぁ、今行く」
少しずつでも、筋トレや、運動をして、力をつけていこうと、心に決めた。




