幼なじみと海 その1
枕投げやらなんやらあった朝の時間を過ごしたあと、朝ごはんを食べて、朝の準備を済ませた。
「今日は海に行くのはどうだい?」
「やったー!」
父さんと美咲が話しているのを聞きながら、出かける準備を進めていると、父さんに声をかけられた。
「優斗、父さんたちは、じいちゃんの手伝いがあるんだ。車で海水浴場まで連れていくことは出来るけれど、その後は、頼んだよ」
「あぁ、わかってる。2人から目を離さないようにして、深いとこには行かないし、波の様子も気をつける。あと、万が一に備えて、ライフセーバーさんと海の家の場所も確認しとく」
父さんは、割とアウトドア派の人で、昔からキャンプや海水浴などによく連れて行ってもらっていた。その時に、自然の恐ろしさや対策、準備など、耳にタコができるくらい教えられた。
「うん。大丈夫そうだね。お盆も近いし、水には気をつけるんだよ」
「あぁ、海に入る時には、浮き輪も持っていくし、はしゃぎすぎないようにするよ」
そう言って、俺も準備を進め、車に積み込んでいく。
「お待たせ〜!」
「遅くなりました」
「全然大丈夫だよ」
美咲と香織の分の荷物も積み込んで、出発する。
祖父母宅は田舎の方ではあるので、海水浴場に人が溢れてるってことはないだろう。時間もまだ早いし。
車で15分くらいのところにあるので、あっという間に到着である。
もう少しで駐車場といったところで、父さんが確認をする。
「それじゃあ、気をつけて楽しんでおいで。今日もだいぶ暑くなる予報だ。体調を崩してもいけないから、お昼を過ぎた頃、1時過ぎくらいに迎えに来るよ」
「わかった。美咲も香織も大丈夫だな?」
「うん。大丈夫だよ」
「遊ぶぞー!」
そう言っている間に、車は駐車場に止まった。
「それじゃあ、優斗、頼んだよ」
「あぁ、ちゃんと気を配っておくよ」
「うん。楽しんでおいで」
車から荷物を下ろしてから、父さんは祖父母宅へ戻って行った。
「よし、とりあえず、更衣室行くか」
「そうだね」
「んじゃ、俺の方が支度早いだろうし、先出て準備進めとく。美咲、このテント目印にしてくれ」
「りょーかい!」
そう言って、それぞれ更衣室に入り、準備をする。
俺は着てた服の下に水着を仕込んでいたので、すぐ準備は終わった。海パンにラッシュガードである。
早々に更衣室を出て、砂浜を眺める。
「うーん、いい天気だな。そんなに人も多くないし、割と自由に過ごせそう」
ちらほらとテントが見えるが、想像よりも人は少なめだ。まぁお盆近いしな。
海の波も穏やかで、波の音が心地いい。サーファーは涙目になる波だな。
海の家を通り過ぎ、ライフセーバーさんが海の様子を見ているのを確認しつつ、空いている場所にテントを立てる。
テントと言っても、男手1人で簡単に立てられる、屋根があるだけのやつだ。日よけ用ってやつ。
風もあまり強くないので、あまり苦労せず立てることが出来た。持ってきていた飲み物や荷物を重しとして置いておく。
更衣室の方を見るが、まだ2人の姿は見えない。まぁテントは立てたし、目印としては十分だろう。
「うし、次は浮き輪だな」
ポンプを使って浮き輪に空気を入れていく。
浮き輪って、自分で膨らませようと思うと、結構時間かかるんだよなぁ。抜く時も割とめんどくさいし。
そんなことを考えつつ、なるべく無心で空気を入れていく。
十分空気を入れ終わり、1つ浮き輪が完成した。
うーん?
「さすがに遅くないか?何かあったのかな」
心配になってきた俺は、貴重品だけもって、テントから離れ、更衣室の方へと向かった。
* * *
優斗がテントから更衣室に向かう、約15分前のこと。
「香織お姉ちゃん、準備出来たよ」
「ちゃんと日焼け止め塗った?」
「うん、ばっちり!」
私、美咲は、香織お姉ちゃんと一緒に水着に着替えたり、日焼け止めを塗ったりと準備をしていた。
ちなみに、私は水色のワンピース水着。香織お姉ちゃんは、少しフリルのあしらわれた、白色のビキニタイプの水着だった。香織お姉ちゃんはスタイルもいいから、とっても似合ってたけど、恥ずかしいみたいで、ラッシュガードを上から着てる。
「よし、準備できたね。それじゃ、優斗のところに行こっか。美咲ちゃん、案内お願いね」
「任せて!私視力いいし、すぐみつけちゃうよ!」
私と香織お姉ちゃんは、そう話しながら更衣室から出て、砂浜を歩きだします。
私たちが、キョロキョロとお兄ちゃんのいるテントを探しながら歩いていると、誰かか近づいて来ました。
「あれあれー?もしかして、姉妹で海水浴ですか?良かったら、俺たちと一緒に遊びません?」
何やらニヤつきながら、3人組の男の人達が話しかけてきました。みんなお兄ちゃんより背が高いし、なんだか怖いです。
「連れがいますので、間に合ってます。妹も怖がっているので、やめてもらえますか」
香織お姉ちゃんが少し前に出て、私を守るようにしてくれます。少し安心だけど、心配です。
「まぁまぁそう言わずに。美味しい飲み物もあるしさ、ちょっと一緒に遊ぼうよ」
「そうそう、ほら、テントあそこ。近いしさ」
男の人たちはグイグイと話しかけて来ます。こんなのでついて行く人なんているんでしょうか。やっぱりこの人たち、怖いです。
「ですから、やめてください。ほら、美咲ちゃん。行こう?」
そう言って香織お姉ちゃんは私の手を取って男の人達から離れようと歩きだします。私の手を握る香織お姉ちゃんの手が、震えています。それだけで、やっぱり、香織お姉ちゃんも怖いのに、私を守ろうと頑張ってくれているんだと分かりました。
「ちょっとまってよ」
男の人の1人が、香織お姉ちゃんの腕を掴んで引き止めます。
香織お姉ちゃんは、聞いたことないほど怖い声と、冷たい表情で拒絶します。
「やめてください、気持ち悪いです。触らないで!」
「もー、そんな怖い顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」
香織お姉ちゃんは、男の人の手を振りほどこうとしますが、男の人の力が強いのか、離れません。
それどころか、引っ張って行こうとしています。
何とかしないと、と思いますが、どうすればいいのか、分かりません。
と、その時、
「その2人、俺の家族なんですけど。嫌がってるんで、離してもらえます?」
お兄ちゃんが、来てくれた。




