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幼なじみと一緒の朝

昨日の夜、母さんの説得に抗いきれず、香織と同じ部屋、隣の布団で寝ることになったわけだが。

「香織と一緒の部屋」ということに頭がいっぱいで失念していたことがある。


それは、美咲は寝相が良くないということだ。寝言を言ったりする訳ではないが、朝起きたら芸術のような寝癖となっていることも珍しくない。

そして、案の定、美咲は今晩も寝ている間にたくさんの寝返りをしたようだ。


ん?それがどうかしたかって?

それが原因で、非常にまずい事態が起こるんだ。



俺は、何かが近くで身動ぎしたような気がして、朝目が覚めた。

まだ寝ていたいと降りてくる瞼を何とか開けると、右腕に妙な感覚があった。


「ん……え!??!?」


俺が確認しようと、右を向くと、すぐ目の前に、俺の右腕を軽く抱くようにして寝ている、穏やかな香織の寝顔が見えた。

俺はこれまでに体験したことの無い速度で覚醒する。

慌てて離れようとするが、右腕が香織に捕まっている以上、無理に離れようとすると、香織に気付かれてしまう。


混乱する頭で周囲を確認すると、今寝ている場所は俺の布団であることが確認できた。

香織に提供している右腕を動かさないように、少しだけ頭を上げて周りを見ると、香織のすぐ後ろに美咲が寝ているのがわかった。


「あぁ、美咲に侵略されて、香織はこっちに押されてきたのか」


恐らく、寝相の悪い美咲から、無意識に離れるように動いたんだろう。

その結果が、今なんだろうと推測する。

枕元に置いていたスマホを確認すると、まだ6時過ぎだった。両親が部屋に入ってくる事態は避けられそうで一安心である。


とはいえ、このままでは何も状況が変わらない。

それどころか、香織の身動ぎする感覚が短くなってきていて、香織が目を覚ますのももうすぐだろうし、心做しかさっきより香織との距離が近い気がする。


「これ、無理だな」


香織に気付かれないように、この場から離れるのは不可能だし、俺の布団の上だから、一応弁解もできるだろうと、無理やり納得し、大人しく香織が起きるのを待つことにした。


それから、1秒が何倍にも感じられる時間をしばらく過ごしていると、香織が目を覚ましたようで、動き始めた。


「んぅ……んぇ?」


まだ覚醒しきってない香織は、まだとろんと眠たそうな目をしており、寝ぼけた様子でこっちを見てきた。

俺の右腕を握ったまま、起き上がろうとするので、俺も合わせて体を起こす。

普段基本的にしっかりしてて、ハキハキ話すことの多い香織が、ぽわぽわした雰囲気を纏っていることを面白く思いながら、様子を見ていると、ぼーっと俺の方を見てきた。


「おはよう、香織」

「……優斗?おはよ?」


まだ状況を飲み込みきれていないのか、香織は、そのままの体制でキョロキョロと周りを見回して、俺の顔を見たあと、未だ俺の右腕を握ったままの自分の手元を見て固まった。


香織は固まったまま、状況を理解したのか、だんだんとぽわぽわの雰囲気が収まっていき、ばっと俺の右腕から手を離し、顔を上げて話し始めた。


「ご、ごめんね!?なんか、えっと、普段ぬいぐるみ抱っこして寝てるから、く、癖で!」


今までに見たことないくらい慌てている香織。


「で、でも!おかげで、安心して寝れたよ!?ありがとう?」

「香織、とりあえず落ち着け」


逆の立場だったら俺も同じかこれ以上に慌ててたんだろうなぁと思いながら、香織を落ち着かせる。


「香織に謝ってもらうことはないよ。どちらかと言えば、俺とか美咲が悪い」

「あ、あれ?そう、かな?」

「おう。香織が気づかず俺の腕を握ってたように、俺も起きるまで気づかなかったし。なんなら8割は今も香織の布団で寝てる美咲が悪い」


香織は後ろを見て、美咲の様子を伺い、「あはは」と乾いた笑いを浮かべる。

香織は少し後ろにあった枕を手に取って体の前で抱えるようにだいて、話を続ける。


「でも、迷惑だったのは変わらないよね。ごめんね。次は気をつけるから」

「だから、気にするなって。確かにびっくりはしたけど、迷惑でも、嫌でもないから」

「えっ?」

「迷惑に思ってたら、香織が起きるまでそのまま待ってないだろ。もしそうだったら、香織が起きるかも、とか気にせずに離れてるよ」

「そっか、そうだよね、えへへ」


香織が妙に嬉しそうにそう言うので、照れくさくなって、とりあえず話の路線を変えようと話題を探す。

とりあえず、さっきの話の中で気になっていた事を聞いてみようと、機嫌がよく見える香織に問いかける。


「あっ、それはそうと、香織」

「うん?なーに?」

「香織って、普段ぬいぐるみ抱っこして寝てるんだな。どんなやつ?」

「えっとね、優斗が取ってくれたイルカの……っ!」

「ぶふっ」


香織は途中まで話していたが、突然ピタッと固まったと思ったら、次の瞬間に、俺の顔に香織の持っていた枕が飛んできた。


「な、なんでもない!なんでもないから!忘れて!」

「ふぁ、ふぁふぁっは」


香織が俺の顔に枕を押し付けたまま話しているので、上手く話せないし、息が苦しい。

というか、ちょっといい匂いがする。


「ん〜、お兄ちゃんたち、何してるの?」


割と大きな声で騒いでいたため、さすがの美咲も起きてきた。


「え、えっと」

「あー、ま、枕投げ、枕投げしてたんだよ」


香織が言葉に詰まっているのを見て、慌てて言い訳を並べる。


「えーずるい!私も、入れてっ!」

「ぶへぇ」


美咲め、的確に顔面に投げてきやがった。


「この…やったな!」


それからしばらく、枕投げをしていたが、あまりに騒ぎすぎたので、親に叱られた。楽しかったけど、今度は騒ぎすぎないようにしよう。

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