幼なじみとおつかい
「こら〜、休みだからって寝すぎよ!そろそろ起きたらどう〜?」
待ちに待った週末、母親の声で目が覚め、体を起こす。
スマホを見て、時刻を確認する。11時過ぎであった。
まだ寝ていたいと閉じようとする瞼を擦りながら、リビングへと降りる。
「あっ、おはよう。お兄ちゃん。」
「おう、美咲、おはよう。」
3歳年下の妹である美咲も先程起きたようで、遅めの朝食を食べていた。
母親が用意してくれた朝食を持って美咲の正面の位置に座り、いただきますの挨拶をして食べ始めると、美咲が話しかけてきた。
「お兄ちゃんさ、最近学校終わったあとに、出かけてるの?」
俺の心臓の鼓動が大きくなる。美咲の言っているのは十中八九、香織との奇妙な関係についてだろう。
俺は話題を変えて誤魔化そうと焦って言葉にする。
「いや?どこも行ってないぞ。それより、今日部活はどうしたんだ?」
美咲は吹奏楽部で活動している。活動が忙しいようで、帰りは遅いし、休日も部活に行っているはずだ。
「ふーん。私、今日吹部お休みなんだ。なんか今年から顧問が変わって、休み増えそうなんだよね。」
「まぁ、このご時世だもんな。休み増えるなら良かったじゃないか。」
「まぁね〜」
よし、何とか追求されずに済んだぞ。昔こそ家族ぐるみで仲が良く、美咲も香織お姉ちゃんと慕っていたが、今となってはそんな素振り見た覚えがないし、誤魔化しとくのが妥当だろう。
朝と昼を兼ねたご飯を食べ終え、部屋でゆっくりしていると、母親から声がかかった。
「優斗〜、おつかいお願いしていい?」
「え〜、わかった。何を買ってくればいい?」
「これ、お願いね。」
買うもののメモとお金を手渡される。ふむ、醤油とドレッシング、マヨネーズと。そういえば昨日の晩飯で無くなったって言ってたな。
着替えや洗顔など、程々の準備を済ませ、家を出る。
スーパーの方向へと歩いていると、前から制服姿の香織が歩いてくるのが見えた。
声をかけようかなと悩みつつ、目を逸らしていると、香織の方から声をかけてきた。
「あれ?優斗、お出かけ?」
「お、おう。ちょっとスーパーまでな。」
香織が声をかけてくれたことに、驚き半分と喜び半分くらいの気持ちを抱きながら、言葉にする。
「もしかしておつかい?」
「そうなんだよ。」
「ふーん。私もついて行こっかな。」
え?今なんて?
この関係が始まって以降、香織には驚かされ続ける。
「で、でも、今帰ってきたとこだろ?早く休みたいんじゃないのか?」
「うん。でもどうせお昼用意しなきゃだから、あんまり変わんないよ。」
そう言われてしまうと、断る理由も見つからない。
「ほら、行こうよ。」
「お、おう。」
こうして、香織と一緒にスーパーまで行くことになった。
俺は、2人でスーパーへと向かいながら、ふと疑問に思ったことを香織に聞いてみる。
「部活帰りだったのか?」
「うん。今日は午前だけなんだ。」
何か、いい事でもあったのだろうか。いつもより気持ちにこやかに感じる表情で香織は答える。
「高校でも、バドミントン頑張ってるんだ。大会でも、結構いい結果残してるんだよ!」
「さすがだな。」
「でしょー?優斗は部活やってないの?」
まぁ俺も聞かれるよな。部活について話すのちょっと恥ずかしいんだよな。
「あー、俺は生徒会に入ってる。」
「え!?すごいじゃん!偉いんだね〜。」
「い、いや、庶務だから。下っ端だよ。」
生徒会に入ってるって言うと、だいたい褒められるのは嬉しいけれど、大したことしてないんだよな。
校則を変える!とか生徒会の権力!とかはアニメとかだけだ。いいとこ雑用係である。
そんなことを話していると、スーパーまではあっという間だった。
スーパーに入ると、香織が聞いてくる。
「おつかいだったよね。何買うの?」
「えっと、醤油、ドレッシング、マヨネーズだな。」
俺はメモをヒラヒラさせながら答える。
「じゃあこっちだね。」
香織の案内で歩いていくと、調味料の置いてあるコーナーにたどり着いた。
醤油を手に取り、次のターゲットを探す。
「優斗の家はどのドレッシングなの?」
「えーと、うちは最近これだな。」
俺は手を伸ばし、ゴマドレッシングを手に取る。
「へぇー、ゴマドレなんだ。こっちかと思った。」
香織はあっさりな青じそドレッシングを指さす。
「よく覚えてるな、確かに昔はそっちだったわ。」
「そうだよね〜。ちなみにうちはこれ。」
香織はイタリアンドレッシングを手に取り示す。
なんかイメージにピッタリだな、と思いつつ、
「確かに、それも美味しいよな」
と俺は答えた。
その後マヨネーズを手に取ってターゲットコンプリートだ。
「私、惣菜見てくるから、先レジ行ってて。」
「わ、わかった。また後でな。」
そう答えてレジへと向かう。空いていたセルフレジで会計を済ませ、エコバッグに買ったものを詰めていると香織もやってきた。
香織の方を見ると、学校のカバンとラケット、そして今買った惣菜と、荷物が多く見えた。
「なんか持とうか?」
俺はそう聞いたが、香織は首を横に振って
「これくらい大丈夫だよ。帰ろ!」
そう言いながら、出口へと向かっていってしまった。
もし、これが小学校の頃と同じ関係であれば、有無を言わさず香織の代わりに荷物を持っていたのだろうなと俺は思った。
こうやって、少しずつ、空いてしまった3、4年間を取り戻して行けたらいいのかもなと考えながら、香織と一緒に家に帰った。