幼なじみとお家花火
家族全員がお風呂から上がり、夕食の時間である。今日の夕食はすき焼きだった。美味である。
両親は祖父母とお酒を嗜みながら、俺たちはジュースで乾杯しながら、夕食を食べ、ゆっくりしていると、ソワソワしていた美咲が突然立ち上がった。
「お父さん、お母さん、そろそろいいでしょ?」
「そうね、始めてもいいわよ」
「やったー!」
そう言って何やら準備をし始める美咲。何も分からず困惑していると、父さんに声をかけられた。
「優斗、バケツに水をくんで来てくれるかい?」
「ん?わかったけど、何するんだ?」
「香織ちゃんはこれ持って美咲について行って貰えるかい?」
「はい?分かりました」
何も分からないまま、俺と香織も準備を始めた。
台所から水バケツをもって玄関へ向かうと、ロウソクに火をつけている香織の姿と、手持ち花火をもってはしゃぐ美咲の姿が見えた。
「なるほど、花火か」
「そうだよー!おっきいのもあるから楽しみ」
「あっ、着いたよ」
俺はロウソクの傍に水バケツを置き、風よけにする。
「優斗も来たかい?」
「うん!来たよー!」
「それじゃあ、始めるよ」
少し離れたところにいた父さんは俺がいることを確認すると、大きめの吹き出し花火に火をつけた。
「わぁー!」
「割とデカイな」
「派手だね〜」
次々と様々な色の輝きが勢いよく吹き出すのを見て、はしゃぐ3人。
綺麗や、派手、たまにしょぼいなんて感想を出し合いながら、わいわいと花火を楽しんだ。
しばらくして大きな花火がなくなり、手持ち花火で遊び始めた。
「見て見て!ハート!」
美咲が手持ち花火を振って空にハートを描く。
それにつられて俺も2つ同時に火をつけて見たり、両手にもってみたりした。
「香織お姉ちゃん綺麗!」
「えへへ、ありがと」
香織も珍しくはしゃいでおり、両手に花火をもってくるくると回って遊んでいる。
その調子で花火をしていると、あっという間に無くなってしまった。
最後に残ったのは線香花火である。
3人でやり始めてから数十秒。
「あっ、もう落ちちゃった……」
美咲は早々に脱落していった。
「うーん、やっぱり難しいな。私、手持ち花火多めに貰ったし、線香花火は譲ってあげる」
「美咲それ、上手くできないからそう言ってないか?」
「そ、そんなわけないじゃん。あとは2人でどうぞ」
美咲はそう言ってそそくさと父さんたちの方へ向かっていった。
「ったく、俺は結構好きだけどな、線香花火」
最初は大人しくて、面白みも無いかもしれないけれど、辛抱強く持ち続けると、少しずつパチパチと火花が出始めて、最後の方は連続して弾けて大きな花になっていく。
そんなことを思いながら持ち続けていると、パチパチと花開き出した。
「私も、好きだよ。線香花火。」
隣でしゃがんでいた香織がそう呟く。
「最後の方、とっても綺麗だもん。頑張って待つ価値があると思うんだ」
「あぁ、俺も、そう思う」
そう話している間にも、線香花火は落ちてしまいそうになりながら、花を咲かせ続ける。
「静かな最初からだんだんと花開いていって、最後にはまた静かに消えていく。なんだか色んな生物の一生みたいだよね」
「言われてみれば、確かにな」
気づけば2人の線香花火は静かに花を閉じ始め、穏やかになっていった。
「なんだか、2つの花の一生を見た感じだね」
「なんか、ロマンがある気がする」
そうして、俺たち2人の線香花火は途中で落ちることなく、静かに最後を迎えた。
「綺麗だったね」
「そうだな、まだいくつかあるし、やるか」
「うん……私、さっきの線香花火みたいに過ごしてたいな」
「え?」
「誰かと一緒に、ちゃんと花開いて、輝きを放ったあとは、静かに過ごして、誰かと一緒に最後を迎えたいなって思って」
花火が終わったあとという、しんみりとした雰囲気も相まって、香織がそう言葉にした。
「そうだな。俺も、そう思うよ」
「じゃあ、一緒だね」
そう言って、残りの線香花火も遊び始める。
「ねぇ、優斗?」
「なんだ?」
「来年は受験だけどさ、また来年も、一緒に出来るかな?」
「この関係が続いてる限りは、出来ると思うよ」
「そっか、そうだね」
そう言って、その後もしばらく、2人で線香花火を楽しんだ。




