幼なじみとお風呂あがり
公園から帰ってきた時には、夕方になっていた。
「あら、おかえり。暑かったでしょう。お風呂を沸かしてるから、入っちゃいなさい」
「わかった、ありがとう」
俺は香織たちよりも先に入った方がいいと判断して、そそくさとお風呂場へと向かった。
汗を流し、体を洗って、スッキリして風呂を出る。
次もつかえているので、髪はリビングの方へ戻ってから乾かすことにして、服だけ来てリビングへ戻る。
入れ替わるように母さんがお風呂へ向かう。
俺の前にじいちゃんやばあちゃん、父さんは既に入っていたようで、リビングでくつろいでいた。
どうやら、じいちゃんばあちゃんを除いて、男性陣が先に入り、あとから女性陣が入るということになったようだ。
「美咲ちゃん、ちょっといいかい?」
「なにー?おばあちゃん」
美咲がばあちゃんに連れられていく。恐らくばあちゃん恒例のお小遣いを渡すためのお手伝いタイムだろうなと思いながら、ドライヤーを手に取り、髪を乾かす。
髪に風を当てて、ほどほどに乾かしてから、ドライヤーの電源を切って片付ける。
「優斗、まだ乾いてないところあるよ?」
「ん?まぁ髪が長い訳じゃないしな、程々でいいかなって」
「ダメだよ、こういうのは日々の積み重ねでどんどん傷んでいっちゃうんだから。ほら、ちょっと貸して」
香織は、有無も言わせぬ様子で俺を鏡の前に座らせて、ドライヤーの電源を入れ直して、俺の髪を乾かし始める。
「せっかく、お父さん譲りのいい髪質なんだから、ちゃんと手入れしてあげないと」
「そうなのか?全然意識してなかった」
「そうなの。せっかくなんだから、手入れしてあげないと、もったいないよ」
「そんな変わるもんなのか?」
「変わるよ〜?ちゃんとドライヤーを使って、きちんと乾かしてあげるだけで、サラサラになっていくと思うよ」
そう話しながらも、香織は手を動かし続け、俺の髪を乾かしていく。
なんだろう、理髪店とかでも乾かしてもらうことはあるけど、その時とはまた違った心地良さがある。くせになりそうな感じだ。
「はい、おしまい。綺麗に乾いたよ」
「ありがとう、香織」
「どういたしまして。その調子だと、トリートメントとか使ってないんじゃないの?」
「あ、あぁ、使ってない、な」
「使った方がいいよ。最初はお父さんの使わせて貰えばいいと思うし。あと、はい」
香織は自分のお風呂セットの中から何かを取り出して手渡してくる。
「えっと、これは?」
「化粧水だよ。肌の保湿大事」
「えっ、使っていいのか?」
「いいよ、この旅行中はね。帰ったら、自分で買うんだよ?」
香織に教わりつつ化粧水をつける。
「香織は偉いな。さすがだよ」
「可愛いとか綺麗は1日にしてならず、だよ。それに、炭おこしと同じだよ。慣れが大事なんでしょ?」
「わかったよ。習慣にできるようにする」
「よろしい」
その後もドライヤーのコツやら洗顔やらについて香織の話を聞いていると、母さんが出てきた。
「それじゃ、私もお風呂行ってくるね」
「あぁ、ゆっくり休んでな」
ちょうどその時に、美咲がお手伝いから戻ってきた。
「ふぃー、お小遣いは嬉しいけど、おばあちゃんのお手伝いはちょっと大変だよね」
「そうだな。手伝いのバリエーションも多いし」
「うんうん、次お兄ちゃんの番だよ。呼んできてって言われたから」
「わかった」
美咲を軽く労ってから、ばあちゃんの元へ向かう。
「ばあちゃん、来たよ」
「来たかい、優斗、優斗に手伝って欲しいことがあってねぇ」
「わかった、何をすればいい?」
俺がそう聞くとばあちゃんは円柱状の貯金箱のようなものを持ってきた。
「この中のお金を数えて欲しいんじゃ。頼んだよ」
「わかった」
そうして自分のことに戻っていくばあちゃん。
「とりあえず、中身出すか。よっ……重た!」
ばあちゃんが割と軽々と持ってきていたので、とても驚いた。
ジャラジャラと机の上に3分の1ほど出して、硬貨事に分けていく。
そんな楽な手伝いじゃないとは思っていたけれど、想像以上に大変そうだぞ……?
コツコツと仕分け続けること1時間弱、ようやく仕分け終わり、計算のターンとなった。
「えっと、1000円の塊がこれだけあって……」
数えていくと、どんどんと金額が上がっていき、最後には最新ゲーム機くらいなら買えそうな金額に到達した。
「ばあちゃん、数え終わったよ」
「ご苦労さま、大変だったかい?」
「そこそこ大変だったよ」
その後もばあちゃんと話した後に、「ありがとうねぇ、助かったよ」とお小遣いが入っている袋を手渡してくれた。
「こちらこそ、ありがとうございます」と言って、リビングに戻った。
「あっ、お兄ちゃん、おかえり〜」
「ただいま」
「お疲れ様だね。なにやったの?」
美咲とお互いのお手伝いの内容について話す。美咲は玄関の掃除だったらしい。「小学校の大掃除レベル」って言っていた。
そんなことを話していると、香織がお風呂を済ませて出てきた。
背中辺りまである髪がしっとりと濡れている姿に色っぽさを感じつつ、香織に声をかける。
「おかえり、香織。髪乾かして来なかったんだな」
「うん。まだ美咲ちゃんがいると思って」
「気にしなくても良かったのに〜。でもありがとう」
そう言ってお風呂へ使う美咲。
香織は夏用のパジャマを着ており、薄手の半袖シャツに、ショートパンツ姿だった。普段会う時には見えることの無い、太もも辺りがチラチラと見える。
薄手の服装だから、香織の洗練されたスタイルがよくわかってしまうし、顔あたりは濡れた髪が色っぽい。
あぁもう!どこに視線動かしても心が休まらない!
そんな目をぐるぐる回してる俺を見て香織はクスッと笑い、俺に話しかける。
「どうかな、パジャマも似合ってる?」
そう言って、その場でくるりと回る香織。
「お、おう。似合ってる」
俺がそう言うと、香織はにっこりと笑って「ありがと」と答えた後、鏡の前に座り、髪を乾かし始めた。
ドライヤーを器用に使って、長い髪を丁寧に乾かしていく香織を見て、さっき俺も乾かしてもらったし、と思いながら、声をかける。
「香織、良ければ乾かすの、手伝うぞ?」
その言葉を聞いて香織はきょとんとした後に、意地悪そうな表情で答える。
「えぇ〜?さっき自分の髪も上手く乾かせなかったのに?」
「うぐっ」
それを言われるとぐうの音も出ない。でも、香織、大変そうなんだよな。
何とか香織が嫌じゃなく、手伝える方法がないかと考えていると、香織は続けて話し始めた。
「でも、せっかくだから、お願いしようかな」
「えっ、いいのか?」
「うん。気になったら声かけるし。優斗のことだから、雑にやったりしないでしょ?」
「そりゃ、手伝うからには優しく、慎重、丁寧にやるけどさ」
「じゃあお願い」
香織はそう言って、ドライヤーを俺に手渡してくる。
「じゃあ、乾かして行くからな」
「はーい」
できるだけ優しく、さっき香織に教えてもらったことを思い出しながら、手を動かす。
香織の僅かに茶色かかった綺麗な髪を傷つけてしまわないように、優しく、指を通したり、手に持ったりして、隅々まで乾かしていく。
「上手い上手い、やっぱり、優斗はちゃんとやればできるんだよ」
「褒めてくれてありがとう。けど、色々できるようになってくのは、香織のおかげだからな」
これまでの事を思い出したり、話したりしながら、香織のサラサラの髪を丁寧に乾かしていると、ふと思った。
「ほんと、髪まで綺麗なんだな」
そんなことを思いながら、引き続き乾かしていく。
乾かしていく中で髪をあげるとちらりと見える香織の耳が、赤くなっている気がした。




