幼なじみと帰省旅行
いよいよ香織と一緒に祖父母宅に行く日がやってきた。2泊3日の帰省旅行である。
祖父母は車で2時間ほどのところに住んでいる。田舎っぽいところだが、海や夏祭りなど、イベント事も割と近くで行われたりする。孫たちと賑やかな老後を過ごすんだと言って、定年後家を建てたらしい。
これからの3日間に思いを馳せつつ、俺と父さんで車に荷物を積み込んでいると、隣から香織が出てきた。
「おはようございます!3日間、お世話になります」
「おはよう、香織」
「こちらこそ、よろしくね」
今日の香織は、夏休みを過ごすお嬢様のような印象の服装だった。淡い水色を基調とした長めのワンピースに、麦わら帽子のような形の、つばの広い帽子を被っている。
香織の持つ雰囲気にあったその姿にほんの一瞬見とれながらも、外には出さず、手を差し出して、香織に荷物を渡すよう促す。
無事に荷物も積み終わり、いよいよ出発である。
父さんが運転、助手席に母さんが座り、後ろに左から俺、美咲、香織の順で座る。
「忘れ物はないかい?」
「大丈夫だ」
「それじゃあ、出発するよ」
3日間の予定や、やりたいことなど、他愛ない話をしながら、車は走っていく。
しばらく走ることだいたい1時間ほど、休憩として、道の駅に止まった。
お土産が沢山売ってあるお店や、アイスクリームを売っているお店があり、お盆近くということで、結構混んでいた。
「私ソフトクリーム食べたい!」
「せっかくだし、買っておいで。優斗、香織ちゃん、ついて行ってあげてくれるかな」
「わかった」
父さんからお金を受け取りつつ、俺たちは美咲について行こうとする。
「あっ、そうそう、ふたりの分も買っていいからね」
「えっいいのか?」
「やっぱり自分たちの分は買うつもりじゃなかったんだね。もちろんだよ」
「でも、私は……」
遠慮している香織。多分、一緒に旅行しているとはいえ、あくまでも幼なじみなので、買ってもらう訳には行かないと思っているのだろう。
「遠慮しなくていいんだよ。実は、香織ちゃんのご両親からお礼をいただいているからね。それに、この旅行中は美咲のお姉ちゃんだと思ってくれていい。その方が自然だしね」
「えっ?……分かりました。お言葉に甘えてさせてもらいます」
「うん。じゃあまず第1歩だ。ソフトクリーム買っておいで」
香織と一緒に美咲に追いつき、並んでソフトクリームを買う。俺はチョコ、香織はバニラ、美咲はいちごにした。
夏場のソフトクリームを楽しんでいると、美咲がいつものようにお願いをしてきた。
「お兄ちゃん、1口ちょうだい」
わざわざ貰ったスプーンを俺の方に突き出してくる。
「ん、ほらよ」
「やった、お兄ちゃんありがと!」
パクりと食べて幸せそうに微笑む美咲。こんなことで美咲が幸せそうにするなら、断る理由もない。
「香織お姉ちゃんのも貰ってもいい?」
「もちろん、いいよ」
香織も俺と似たような思いなんだろう。快く美咲に分けてあげていた。
「貰ってばっかりじゃ悪いから、私のも1口あげるね」
美咲は手に持ったいちごのソフトクリームを1口取って、俺の方に差し出してくる。
「いつもお返しなんてしないのに、珍しいな」
「いいから、ほらあーん」
「いや自分で食べれるって」
香織の前だし、見栄張りたいのかなと予想しつつ、美咲の手からスプーンを奪って食べる。
「ん、いちご美味しいな」
「でしょー!」
スプーンを美咲に返しつつ、感想を伝えた。
そして美咲は爆弾を落とすような行動にでる。
「じゃあ次は香織お姉ちゃんの番ね。はい、あーん」
「えっ?」
美咲は俺が返したスプーンにそのままいちごのソフトクリームを乗せ、香織に差し出した。
「まてまて、それはちょっと……」
「なんで?この3日間はお姉ちゃんなんだからいいでしょ?」
美咲はニッコリ笑ってそう言った。こいつめ、さっきの話聞いてたのかよ。
何故こうなる可能性を考えなかったのかと数秒前の自分を殴りたい気持ちだ。
「ほら、香織お姉ちゃん。溶けちゃうよ?」
「香織、嫌だったら断っても……」
「ううん、びっくりしちゃったけど、嫌じゃないよ。ありがとう、美咲ちゃん」
あーんと美咲が差し出したスプーンを香織はパクりと食べた。
「ほんとだ、いちごも美味しいね」
「えへへ、美味しいよね〜」
ご満悦の美咲と少し顔が火照っている様子の香織。そしてそれ以上に顔が赤くなっているであろう俺。これは暑さのせいだ、と言い訳をしつつ、ソフトクリームを平らげた。
引き続き、車で祖父母宅を目指す時間になったが、その前にお手洗いに行くことにした。
先に終わったので、父さんに気になったことを聞いてみることにした。
「父さん、いつの間に香織のご両親からお礼と貰ってたんだ?」
誘っているのはこちらだし、香織のご両親の意向に沿って考えるスタンスだった父さんたちが、お礼を貰っていた事に少し引っ掛かりをおぼえていたのだ。
父さんは周りを見渡してまだ女性陣が帰ってきていないことを確認してから口を開く。
「優斗、お礼を貰ってるっていうのは嘘だ。誘っているのはこちらで、無理を言って香織ちゃんを預からせて貰っているわけだからね」
「えっ?嘘だったのか?まぁ確かに、俺もそこで引っかかってたんだけど。でもなんで嘘なんか」
「そうでもしないと、香織ちゃんは心から楽しめないと思ったからね。それに、香織ちゃんのご両親には、私の意思を伝えてあるから、香織ちゃんが帰ってから嘘に気づくことも無い」
「……用意周到なんだな」
俺は、起こらないことだとわかっているものの、父さんだけは敵に回しちゃだめだなとしみじみと思った。




