幼なじみと友人
香織と一緒に少しの間休んだ後、俺たちは水やりをするべく、中庭に来ていた。
「結構広いね〜」
「そうなんだよ、その分水やりも割と大変」
俺の通う高校では、委員会の活動や、授業の中で使うために、多くの植物が中庭の花壇に植えられている。
季節ごとに色々な花が咲くので、見ている分には楽しいが、水やりをする時には、小学校じゃないんだから、別にこんなにいらないのではと言いたくなる。
「それじゃあ、始めるか。ジョウロはっと」
「せっかくだし手伝うよ」
「ありがとう、助かる」
水道の蛇口を捻り、ジョウロに水を注いでいく。香織と花壇ごとに分担して水やりをしていくことにした。
両手にジョウロを持って花壇に向かっていく。
香織と時々話しながら、テキパキと水やりを進めていると、1人の生徒が俺に声をかけてきた。
「おっ、やっぱり橋崎だったか。水やり手伝うぜ」
「谷本、手伝うって名目でサボりたいだけだろ」
「まぁな。けど、1人じゃ大変だろ?ほれ、ジョウロ片方借りるぞ」
どこから今日が俺の担当だと聞いてきたのか、谷本が部活をサボりにやってきた。
「真面目に部活やれよな」
「いつもはやってるから、たまにはいいんだよ」
「ほんとかよ」
「優斗~、こっちの花壇終わったよ~」
谷本と話していると、任せていた花壇の水やりを終えた香織が俺の名前を呼びながらやってきた。
あっ、やべ……と思った時にはもう遅く、谷本は俺のテストの点を見た時とは比にならないほどあんぐりと口を開いて固まった。
どうしようかと思っていると、復活した谷本がこちらを振り向きながら方に腕を回し、俺をしゃがませながら自分もしゃがみこんだ。
「おい!どういうことだ橋崎!なんであんな美少女と一緒な上に名前で呼ばれてんだ!?」
「お、落ち着けよ。幼なじみだって」
「幼なじみがいるなんて聞いてないぞ!しかもただの幼なじみは一緒に水やりなんかしないだろ!」
「と、とりあえず落ち着けって」
「学校じゃ、友達いらないだのなんだの言って1人でいるやつが、学校に美少女連れてきてんだぞ!これが落ち着いていられるかぁ!?」
うーん、冷静に説明されると確かに事件かもしれん。
そんなことを考えていると香織が話しかけてきた。
「えっと、大丈夫?ですか?」
「あぁ、だいじょ」
「だ、大丈夫です!と、ところで橋崎とはどんなご関係なぐぇっ」
俺の言葉を遮ってまですごい勢いで香織から情報を聞き取ろうとする谷本の首根っこを引っ張って強制停止させる。
「なにすんだ!」
「香織、こいつは谷本大智。1年の頃から俺に話しかけてくる物好きだ」
谷本の抗議を無視しつつ、香織に谷本を紹介する。
「橋崎さんよ、随分あんまりな紹介じゃないですかね?」
「間違ってないだろ」
「ぼっちで可哀想だった橋崎に手を差し伸べてくれた親友とかって紹介が適切じゃないか?」
「……?」
「何言ってんだこいつ、みたいな顔で見るのやめて貰えませんかね?」
「あははっ!優斗のそんな感じのとこ、初めて見たかも。はじめまして、優斗の幼なじみの中村香織です」
俺と谷本のやり取りを見て、笑いながら香織が自己紹介をしてくれた。
その後、きちんと自己紹介をし合った。
「優斗は学校ではどんな感じなんですか?」
「橋崎は学校では人付き合い嫌いオーラ出しまくりで、友達数人しかいないよな。俺が言わなきゃ友達作ろうともしないし」
「うっせ」
香織と谷本は俺についての話題で盛り上がるので、ものすごく居心地が悪い。
時々ツッコミを入れつつ、しばらく3人で話をした後、あと少し残った花壇の水やりを手分けしてやり始めた。
「で、橋崎は中村さんのことどう思ってんだよ」
「ん?どうって?」
「ほら、恋愛感情とかねぇの?」
「はぁ?幼なじみだって言ったろ」
そう言って谷本から離れたところで水やりをするが、谷本は追ってきて続けて話す。
「それにしては、雰囲気も口調も俺の知ってる橋崎じゃないけど?」
「そりゃ、親しい人同士でも違う印象持つわけだし、おかしい事じゃないだろ」
「ふーん?そうか」
そこまで話して、谷本は別のところの水やりをしに行ったため、谷本のつぶやきは俺には聞こえなかった。
「中村さんと一緒にいるだけで、明らかに学校とは違う、明るいオーラが出てると思うけどな」
水やりをし終わり、谷本を部活へと押し返して、香織と一緒に生徒会室に戻ってきた。
「香織、大丈夫か?」
「うん、ちょっと重かったけど、優斗たちがほとんどやってくれたから大丈夫だよ」
香織は伸びをしながら話す。
「それは良かったけど、そうじゃなくて。谷本と結構話しただろ?嫌じゃなかったか?」
そういうと、香織は少し考え込んでから、答えた。
「確かにちょっと疲れたかな。でも、優斗の知らなかったとこを知れたし、優斗がブレーキになっててくれたから大丈夫だったよ」
最初の勢いでこられてたら辛かったかも、と続ける香織。
この間のこともあるし、グイグイ来る男子は苦手になってもしょうがない。
俺は香織の負担になっていないことにホッとししつつ、生徒会室をササッと掃除して帰る準備を整える。
「それじゃ、帰るか」
「うん。どこ寄るか決めた?」
「おう。とは言っても、そもそもそんなに選択肢はないんだよな」
職員室に寄って、顧問の先生に挨拶をしてから、香織と一緒に学校を出て、駅へと向かっていった。




