幼なじみと寄り道
俺がおすすめ漫画を貸した日の夜。滅多に鳴らない俺のスマホが鳴った。
スマホを確認すると、香織からのLINEだった。
かおり『貸してくれた漫画面白かったよ!』
かおり『続き気になるから、明日借りてもいい?』
優斗 『よかった。貸すのはいいけど、一度に何冊か渡そうか?』
かおり『ううん。読む量は一日1冊って決めてるから」
さすが成績優秀の香織だな。ちゃんと勉強と娯楽のバランスを調整してるんだろう。
優斗 『わかった。また明日な』
かおり『スタンプを送信しました』
デフォルメされた猫がおやすみの挨拶をしているスタンプが送られてきた。かわいい。
翌日、また放課後に香織からLINEが来た。
かおり『今日も帰るのは昨日と同じ時間?』
優斗 『おう。同じ電車だ』
かおり『わかった。待ってるね』
今日も一緒に帰ることになった。嬉しいような恐ろしいような不思議な感覚である。
この奇妙な関係が始まってだいたい1週間。トラウマが無くなった訳ではないが、この関係を辞めたいとも思わない。
「自分でもどうしたいのか分からないな」
そう考えながら、電車に揺られる。
駅に着き、香織を探すと、すぐに見つかった。広い駅でないこともあるが、香織はその整った容姿から、いい意味で目立つので見つけやすい。
「ごめん。お待たせ。」
「ううん、大丈夫だよ。帰ろっか。」
昨日と同じように他愛ない話をしながら並んで歩いて帰っていく。
コンビニの横を通る辺りで香織が立ち止まった。
「ねぇ、少し寄っていかない?」
「おう、お菓子でも買うか。」
2人でコンビニに入り、お菓子を眺める。
「あっ、優斗これ好きだったよね!」
香織の指が示す先には、よく戦争が起こっているチョコ菓子の、キノコの方があった。
「うん。今でもよく食べるよ。」
スナックの方をつまめば、コントローラーや本を汚さずに食べれるところが高評価である。
「じゃあこれにしよっか。」
2人でそれぞれキノコのチョコ菓子を買う。
もう食べちゃおうかな〜と考えていたが、
「食べながら帰るのは、お行儀が悪いから、帰ってから食べようね。」
香織に止められてしまった。帰ってから食べよう。
「帰り道に寄り道するのってちょっとわくわくするよね。」
「そうだな、制服でコンビニはいるのちょっと緊張するしな」
「そうそう!」
そんな話をしてるうちに、自宅に着いた。
お互いに一度家に入り、貸してた漫画と貸す漫画を交換した。
「そうだ、優斗。」
「あっ、どうかした?」
「私、明日からまた部活あるから、一緒に帰るのはまた今度ね。」
「わかった。またな。」
そう言って香織と別れ、自宅に帰った。
また元の生活に戻ることに安心感を感じるが、どこかで残念に思っている気がする。
キノコのチョコ菓子を食べながら、香織との関係は、これからどうなっていくのか、どうしたいのかを考えていた。