幼なじみと夏休みの宿題
香織の先輩とのいざこざが無事に収束し、俺たちの楽しい夏休みが始まった。
はず、だったのだが。
カキカキ……カキカキ……
「俺、なんで初っ端から宿題に追われてんだ……?」
* * *
それは、3日ほど前の夕方のこと、俺は香織と家の前で夏休みの予定について話していた。
「私、部活で忙しいと思ってたから、特に予定入れてなかったんだ。だから夏休み暇になっちゃった」
「なんか俺も責任感じるし、香織さえ良ければ、夏休み遊ぶか?」
「えっ!いいの?優斗の方の予定とか大丈夫?」
俺はスマホのスケジュールアプリを開き、確認する。そこには、お盆あたりで家族で祖父母宅に行く予定と生徒会の予定だけが入っており、あとはスッカラカンである。
「ほら、俺は香織と違って、毎日予定が詰まってるような人種じゃないから大丈夫だ」
「なんか言い方引っかかるけど、まぁいいや。それじゃあ、気兼ねなく遊ぶために、宿題を終わらせてからにしようね」
「え゛っ」
* * *
そうして、今に至るわけである。
言うまでもなく、去年までの俺は、宿題を夏休みの最終日どころか、何個か終わってない状態で9月を迎えていた。
学校があった日は毎日復習の習慣が出来てきているとはいえ、これは別問題である。
とはいえ、去年からは考えられないスピードで宿題を片付けていた、のだが。
その時、机に置いていたスマホが鳴った。
かおり『私、宿題終わったけど、優斗はどれくらいで終わりそう?』
「そんな早く終わんねぇぇぇぇよ!」
俺の魂の叫びはお隣の香織さんにも届いたらしく、会って話をすることになった。
「宿題終わらせるの早すぎるだろ……まだ半分くらい残ってるんだけど」
「なんか、ごめんね?」
香織曰く、夏休み前の授業はキリのいいところまで行っている授業が大半のため自習であり、宿題をやってもいい時間だったという。
それに加え、香織の通う高校は、成績優秀な進学校であり、生徒の自主性を重んじているため、宿題は少ない。そして、そもそも香織は要領がいい。
俺の方は最後まで授業たっぷりだった挙句、各教科から山のように宿題が出ていた。
要領の悪さはお察しである。
「なんなんだよこの差は……」
「あ、あはは。なんでだろうね?」
俺が項垂れていると、香織が提案した。
「そ、それじゃあ、勉強会しよっか。美咲ちゃんも誘って、3人で」
「何がなんでも俺の分まで終わらせようという意思が強いな」
「だって、優斗は遊び始めたらやらないでしょ」
この点において香織からの信用が無さすぎる。しかも事実そうなるかもだから何も言い返せねぇ。
「そういうことだから、終わらせちゃお?多分お母さんは許してくれるし、うちでもいいよ?」
「いや、兄妹揃って上がり込むのはちょっと気が引けるし、俺の家にしようぜ」
「あれ?お兄ちゃん、香織お姉ちゃん。家の前で何してるの?」
そこに美咲が部活から帰ってきた。
「おっ、いいとこに帰ってきたな。近く、部活休みの日あるか?」
「明日お休みだよ」
「おっけ、そしたら明日だな」
「なになに!遊びに行くの!?」
目をキラキラさせながら聞いてくる美咲。だが残念勉強なのである。
「美咲ちゃん、明日、3人で一緒に宿題やろうね」
「え〜、宿題か~。まぁ、香織お姉ちゃんとできるならいいよ」
そうは言っているものの、明らかにテンションが下がり目である。
「ちゃんと宿題終わらせたら、みんなで遊ぼうね」
「しょうがないか、そういうことなら頑張る!」
と、そういうことになった。
そして、翌日。
午前中から、うちで勉強会が始まった。
母さんの暖かい視線を無視しつつ、香織に監視されながら、宿題を片付けていく。
香織は、美咲についてはあまり心配していないらしく、俺の様子を見ては、アドバイスやら注意をしてくる。
気にしてくれるのは嬉しいが、なんとも言えない気持ちになるな。
その調子で適宜休憩を挟みつつ、一日かけて宿題を終わらせて行った。
「ん~、疲れた。」
伸びをしつつ、ついそう言葉が出た。何とか宿題をやりきることが出来たが、めっちゃ疲れた。
「お疲れ様、優斗。やっぱりやればできるじゃん」
「それはどうもありがとう」
隣で香織に監視され続けたら、やらざる負えないだろと心の中で呟く。
机の反対側で同じく宿題に勤しんでいた美咲が話し始める。
「香織お姉ちゃん、夏休みの予定ってどんな感じなの?」
「色々あって、部活辞めちゃったから、ほとんど予定ないんだ」
「あっ、そうなんだ……」
美咲が「これ、聞いても大丈夫なやつ?」と目線で訴えてくるので、静かに首を横に振っておく。
美咲は頷いて、明るく話し出す。
「それじゃあ、沢山遊ぼうね!香織お姉ちゃん、予定決めよー!」
「そうだね、ちょっと待ってね」
そうして話し始めた香織と美咲。
その様子を見ながら、席を立つと、いつの間にか傍に来ていた母さんに連れていかれる。
「ちょっと優斗。香織ちゃんを辛い目に合わせてないでしょうね!?」
「いやいや!なんかあったら勉強会なんてしてないだろ。俺じゃないよ」
「それもそうね。何があったとかは聞いていいの?」
「うーん、俺が言ってもいいことなのか判断できないかな。多分、香織が必要だと思ったら話すと思う」
母さんは少し考えこんでから、答える。
「わかったわ。まぁ、何があったとしても、香織ちゃんの味方なのは変わらないわね」
「そうであってくれると、助かるよ」
そんなことを話していた時、「お母さーん!」と美咲に呼ばれた。
「美咲、どうかしたの?」
「今年もおばあちゃん家に行くよね。香織お姉ちゃんも一緒に行けないかな?」
「まてまて、何がどうしてそうなった?」
つい口を挟んでしまった。
「私たちがおばあちゃん家に行く日に、香織お姉ちゃんのお母さんたち旅行に行く予定なんだって。だから、香織お姉ちゃん家に1人になっちゃうんだよ」
「部活の合宿の予定だったから、両親が旅行に行くのは別に良い事だし、仕方ないよ。さっきから、ご迷惑だからって断ってたんだけど……」
美咲は何とか訴えようとし、香織は申し訳なさそうに説明してくれる。
確かに可哀想だけど、と考えていると、母さんが話し始めた。
「そうね〜、お父さんとおばあちゃんたちに確認しなくちゃいけないけど、多分大丈夫だと思うわよ?」
「「!?」」
「やったー!!」
「もちろん、香織ちゃんが良くて、香織ちゃんのご両親の許可を貰えたらの話よ?」
驚く俺と香織と、喜ぶ美咲。
「もし、ご一緒させて貰えたら嬉しいですけど、本当にいいんですか……?」
「ホテルを取ってるわけじゃないし、車は6人まで乗れるし。私はいいと思うわ。さっきも言ったけど、確認は必要だけど」
そうして、香織は両親に、俺たちは父さんと祖父母に確認をした後に、また話し合うことになった。
楽しみなような、不安なような、複雑な気持ちだ。
「まぁ、何はともあれ、宿題は終わったことだし、これ以外にも遊びに行こうぜ」
そう香織に言うと、香織は微笑みながら答えた。
「遊んでばっかりもダメだから、宿題は終わったけどたまには勉強もするんだよ?」
香織に釘を刺され、俺は、程々でお願いしますと香織に白旗を振った。




