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幼なじみと先輩 その1


「ふあぁ……眠い」


昨日、香織と別れたあと、ずっとあることについて調べてたから、寝不足だ。

部屋を出て、顔を洗って準備を済ませる。

香織と先輩は午後からの約束をしていたようで、昨日より遅めの出発になる。


「おはよ~、お兄ちゃん」

「あぁ、おはよ……」


顔を洗っても無くなりきらない眠気と戦いつつ、美咲と一緒に朝ごはんを食べる。


「お兄ちゃんにしては珍しく、今日も早いんだね」

「おう、ちょっとな」

「なになに、香織お姉ちゃん関係?」

「そうだぞ~」


美咲は珍しく素直に白状したね、と言いながら、部活へと出かけて行った。

俺は少しずつ覚醒してきた頭で、昨日調べたことを香織に伝えるべきか否かを悩み、考えるが、結局結論は出ず、相手の出方次第で行動を起こすことにする。


考えているうちに、香織との約束の時間になったので、外に出て香織を待つ。

少ししてから香織も家から出てきた。


「香織、おはよう」

「おはよ、優斗」


香織は昨日と似た印象だが、少し違う雰囲気の服装に、昨日プレゼントしたシュシュをつけていた。

気に入ってくれていることを嬉しく思いつつ、香織と先輩との待ち合わせ場所に向かいながら、今日のことについて、確認していく。


「先輩との待ち合わせ場所は、香織の通う学校の最寄り駅だったよな?」

「うん。そこで待ち合わせて、どこかに行くつもりみたい。」


駅の周りを調べてみたものの、割と街に近い駅なだけに、行けそうなところが多くあり、どこに連れていくつもりなのか断定出来なかった。


「それで、俺はただの幼なじみだって紹介で行くんだよな」

「うん。それが1番波風立たないと思う」


兄弟や従兄弟、さらには彼氏役などの考えが出たものの、結局幼なじみと伝えるのが最善だと2人で考えていた。


「その後、私は少しだけ先輩と行動した後に、理由をつけて帰って、連絡先を消す」

「そうすれば、部活の先輩を立てつつ、男の先輩から離れられる、ってことだな」


元々勝手に追加されたわけだし、こっちから勝手に消す権利はあるはずだ。


そんな感じで確認を続け、電車は香織の通う学校の最寄り駅に到着した。

2人で電車を降りて、改札を通り、駅を出るとすぐに声をかけられた。


「やあ、香織ちゃん。今日も可愛いね」

「……こんにちは、浪川先輩」


香織に馴れ馴れしく話しかけてきた先輩は、俺よりも10〜20cmくらい背が高く、爽やかな印象の服装に、ネックレスとピアスをつけているのが見えた。かっこよく決めているつもりなんだろうが、俺から見ると、あまり印象が良くない。思えば、名前も知らなかったんだな。


香織は名前を呼ばれたのが嫌だったのか、キザなセリフが受け入れられなかったのか、それともその両方なのか、見たことないほど明らかな嫌悪感が感じ取れた。


「それで、隣にいるのが、昨日一緒だったって言う男かい?」

「えぇ、そうです。初めまして、浪川先輩。中村さんの幼なじみの橋崎と言います。」


香織は話したくないようだったので、半歩前に出て、一応先輩なので丁寧に話す。

今の香織の様子を見ると、合法的に俺が一緒に来れたので、結果的には良かったのかもしれない。


「その幼なじみが、香織ちゃんと2人で何してたんだい?」


妙に確信めいた言い方をするんだなと思いながら、用意していた言葉を返す。


「中村さんに勉強を教えてもらったので、そのお礼を買いに行っただけです」

「それ以上の関係ではないということだね?」

「はい」


それを聞いて浪川先輩はニヤリと口角を上げ、笑いながら話す。


「ははっ、それならもう君に用はないよ。さぁ、香織ちゃん。君のことは君の先輩の高峰さんから聞いているよ。楽しもうね」


そう言いながら俺から目線を外し、香織の手を無理やり握って歩き始めようとする。

驚いた香織は振りほどこうとするが、先輩の握力には叶わず、引っ張られるようにして連れていかれる。

ここまでは予定通りだ……、予定通りではあるんだけれど……

連れていかれる香織の表情が、助けを求めている気がして、このまま連れていかれたら大変なことになってしまう気がして、俺は、行動を起こすことを決めた。


俺は前に進み出て、香織の手を引っ張る浪川先輩の腕を掴み、振りほどいた。


「嫌がってるじゃないですか。そんなことも分からないんですか?」


先輩は不快そうな顔をした後、威圧するように俺に向かって話してくる。


「君に、香織ちゃんの何がわかるんだい?彼女は恥ずかしがっているだけだ」

「あなたよりは、わかってるつもりです」


もう一度香織と先輩の間に入るようにすると、香織が僅かに俺の後ろに隠れるように動くのを感じ取りながら、言葉を続ける。


「だいたい、男を連れて来いって言った割に、やけにすんなり信じるんですね。替え玉や嘘を考えなかったんですか?」

「それは、香織ちゃんを信じているからだよ」

「本当に香織を信じているなら、そもそも俺をこの場に呼んでないはずでは?本当の理由は、もっと単純なことなんですよね?」

「……何が言いたいんだい?」


息継ぎをして、できるだけ冷静に、そして問い詰めるように話す。


「香織が男といるところを見たやつがいるって香織に送ったそうですが、あなたが、直接見たのでは?」

「……」


そう、先輩が俺が昨日の男だと確信を持っているのは、先輩自身が見たからだ。


「そうだったとして、それがどうしたんだい?たまたまショッピングモールにいたなんてことは起こりうることだと思うのだが」

「そうですね。ではなぜ、自分が見たと正直に言わなかったんです?何か、言えない理由でもあったんですか?」

「……」


黙り込む先輩を見つつ、今度はこちらがニヤリと笑って話す。


「まさか、駅あたりで香織を待ち構え、偶然を装って会おうとしたら、男といたから、ストーカーみたいに着いてきた、なんてこと、ないですよね?」

「!」


先輩は目を見開いて驚き、顔を逸らした。それだけで図星だと分かる。

とはいえ、浪川先輩が全て悪いわけじゃないので、追い詰めるのもここまでにする。


「俺は、浪川先輩が利用されてるのがわかってたので、まともそうな人なら見逃そうかとも思ってたんですけど、とてもそうは見えなかったので、香織は返してもらいます」

「利用……?」


この期に及んでまだこの先輩は気づいてないのか。


「そうですよ。香織を傷つけるための、駒として、先輩は利用されたんです。」


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