ある日の帰り道
あの突然の香織の自宅訪問事件のあと、俺たちはLINEでいつ漫画を借りるだの、返すだのという業務連絡を繰り返していた。
俺の方から連絡することは無いため、こうなるのも必然と言えば必然なのだが。
玄関先で漫画の貸し借りを続けること1週間。気づけば香織に貸している漫画も、最終巻となっていた。
もしかしたら香織は、俺のもっている漫画に興味があって声をかけてきたのかもしれないな。
そんなことを考えていたら、気づけば放課後になっていた。
帰りの電車を待ちつつ、カバンからスマホを出すと、香織からLINEが来ていた。
かおり『今日いつ頃帰ってくるの?』
俺が帰る時間を聞いてどうするのだろう。漫画を返したいのだろうか。
これまではお互いに家にいる時間帯に連絡してくることが多かったので、疑問が残りつつも、返信する。
優斗『今から電車に乗るから、30分後くらい』
かおり『わかった』
用事の内容や時間を聞いた理由が続いて送られてくるかと思っていたが、そんなことはなく、自宅の最寄り駅に到着した。
改札でICカードをタッチし、駅を出る。
「あっ!おかえり。優斗」
何故か、駅を出てすぐのところで、香織が笑いながら駆け寄ってきた。
「お、おう。な、なんで駅にいるんだ?」
「帰る時間聞いたら、ちょうど同じくらいだったから一緒に帰ろうかなって。」
「へ?」
あまりに予想外な展開に間抜けな声がでた。いやいやどうしてこうなった。ほんとに香織はどうしたんだ?
「ほら、帰ろ?」
「お、おう。」
横に並んで歩く。小学校のころに戻ったように、他愛ない話をしながら帰る。
最近あった話だとか、貸した漫画の感想だとか、そんな話を香織としながら歩く。
普段の帰り道と比べ、その道のりはあっという間に過ぎていき、自宅の前まで帰ってきた。
「それじゃあ、借りた漫画取ってくるから待ってて」
「わ、わかった。」
そう言って香織は自宅のドアに手をかけたが、そこで止まり、俺に向かって言った。
「そうだ、私が取ってくる間に、おすすめの漫画持ってきてよ!」
「えぇ!?まだなんか読みたいのか?」
「うん。お願いね。」
そう言って家に入っていった。相変わらず、何を考えているのか分からない。
香織は言うだけ言って家に入ってしまったため、俺は仕方なく漫画を選びに自宅へと入った。
自分の部屋へ行き、漫画の並んでいる棚を物色する。
「おっ、これならいいか?」
俺は香織に貸している漫画と似た系統で、最近話題になっている漫画を選んだ。全15巻である。これならば、無難だろう。
女子におすすめの漫画を貸すことなどこれまでなかった俺は、そう考えながら、家を出た。
「あ、遅かったね。頑張って選んでくれたんだ。」
「ま、まあな。でも、気に入らなかったらすぐ言えよ。他のにするから。」
香織は少し驚いた顔をしてから、漫画を受け取った。
「ありがとう。読むのが楽しみだよ。」
香織はそう言って家に入っていった。