幼なじみと相談
「あっという間の一日だったね」
無事に香織にお礼としてシュシュのプレゼントをした後、俺たちは帰路につき、電車に乗っていた。
「そうだな。それにしても、歩き回ったから結構疲れたな」
伸びをしつつそう言うと、香織は呆れたように言った。
「優斗は体力無いな~、もうちょっと運動した方がいいんじゃない?」
言われてみれば高校に入ってから体育くらいでしかまともに運動してないかもしれない。
「確かに。けど運動って言ってもなぁ、部活以外であんま動くこと無くないか?」
「それじゃあ、次のお出かけは運動系に決まりだね」
気づけば次のお出かけの予定が決定していた。
「いいけど、香織はそれでいいのか?」
「もちろんだよ。私は体動かすの好きだし。 」
それならまぁいっか。お言葉に甘えることにしよう。
そんなことを話していると、香織のスマホが鳴った。
「あっ、ちょっとごめんね」
そう言ってスマホを見て、何やら操作する香織。
それを見て、俺もスマホを取り出して、アプリゲームなんかを開いて暇を潰す。
ふと気になって、香織の方を見ると、不安そうで悩んでいるような様子が見て取れた。
「香織、大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫。気にしないで」
「そうか……」
心配になって声をかけるが、話したくないのか、遠慮しているのか、何かを隠そうと明るく振る舞おうとしているのがわかる。
そのままの状態で時間が過ぎ、気がつけばいつもの駅に到着し、電車を降りた。
普段の俺ならば、話したくないんだろう、とか、俺に相談出来ることじゃない、とか理由を付けてこのまま帰っていただろう。
だけど今日は、香織が楽しそうな様子で一日を終えられたらいいな、心から楽しかったと言える一日にしたいな、と思っていたから。
電車の中から変わらず、明るく振る舞おうとしている香織に、声をかけた。
「なぁ、香織。」
「どうしたの?」
「俺ん家でさ、父さんと話したこと覚えてるか?」
「覚えてるよ?」
あの日、父さんは何か困ったことがあったら相談しに来い、助けてやるからとそんなことを言ってくれた。
「父さんたちもさ、俺たちを助けてくれるし、その準備もしてくれているけど、俺も一緒だからな」
「えっ?」
「俺も、俺ができることなら、香織を助けるし、助けたいと思ってる。頼りない俺だけどさ、何かあったんだったら、相談してくれないか?」
いつもはどうしても逸らしてしまうが、今だけは、と覚悟を決めて、香織の目を真っ直ぐ見ながら言った。
それを聞いて香織は、遠慮がちに話し始める。
「でも、きっと……、ううん、絶対、優斗に迷惑かけることになっちゃうから。」
俺は少し考えて、言葉を選びながら、上手く伝わりますようにとゆっくり話す。
「香織はさ、俺や美咲に勉強教えてくれただろ?あれさ、俺たちは香織に迷惑かけるなって思ってたんだ」
「……うん」
「けどさ、香織は迷惑なんかじゃないよって言ってくれたよな。それと同じなんだよ」
「俺は、香織からの相談やお願い事を迷惑に思うことはないよ。むしろ、俺に出来ることなのに、頼って貰えない方が嫌かな」
「ほんとに……?すっごく面倒だったり、嫌な気持ちになったりするかもしれないよ」
俺は香織に笑いかけながら答える。
「俺が相談に乗って、そんな気持ちになるってことは、当事者である香織はもっと大変な気持ちになってる状態ってことだろ?それを一緒に背負えるなら、俺はいいよ。」
香織は口を閉じて考え込んだあと、「それじゃあ、甘えてもいいかな」と俺に確認した。
俺は「もちろん」と答えながら、あの日と同じように公園のベンチに向かう。
ベンチに2人で腰掛けて、話し始める。
「実はね、3日前に学校の先輩から告白されたの。付き合ってくれって」
「お、おう。すごいな?」
香織の発言に驚いて、なんて反応したらいいのか分からず変な返答した気がする。
ただまぁ考えてみると、香織にとっては珍しいことじゃないのか。
「いつもと同じように、今は恋愛に興味無いし、相手のことをよく知らないからって断ったんだ」
いつもってことはやっぱりそう珍しいことじゃないんだなと思い、香織の持つ魅力と影響力に圧倒されながらも続きを促す。
「普段ならそれでおしまいなんだけど、バド部の先輩たちに止められたの。もったいないよ、いい人だよって」
「そんなの、香織の選択なんだから気にしなくてもいいんじゃ?」
「私もそう思う。だから断ってたんだけど、バド部の先輩経由でLINE渡されたみたいで告白してきた先輩から連絡は来るし、無理やり会う約束を決められて」
「なんじゃそりゃ……」
先輩が何を言ったのか知らないけど、すごい連絡してくるし、と付け加える香織。
どうするべきか考えていると、香織がそれでね、と続けて話す。
「会う約束っていうのが、明日なんだけど。」
「あ、明日!?」
随分急な話だなと思い、つい反応してしまった。
「うん。ほんとはよく知らない男の子と2人で出かけるのも嫌なんだけど、先輩達が引き下がってくれないし、無視したら後が怖いし、と思って。仕方なく」
「難儀だな……」
女子の人間関係は怖いって美咲や母さんから聞くことはあったけど、ホントなんだな。
「それで困って、そんな表情してたのか」
「そんなに顔に出てたかな」
「まぁまぁ出てたと思うぞ」
再会したばっかりなら気づかなかったかもしれないが、今となってはわかりやすいもんだ。
「でもね、困ってたのはそれだけじゃなくて……」
「まだあるんだな……」
そりゃ顔にも出るわ。俺ならもうその先輩全員無視決め込んでる。
「そうなの。さっきね、告白してきた先輩からLINEが来て、今日私が男といるところを見たやつがいるから、明日連れてきて説明しろって送ってきて……」
「はぁ?」
告白してきた側の言い分にしてはあんまりな言い方じゃないか?だいたい直接会おうとするか?割と頭飛んじゃってないか、この先輩。
「うーん、何となくなんで困ってたのかはわかったけど、香織はどうしたいんだ?」
結局、最後は香織の意思が大切だと思った俺は、とりあえず聞いてみた。
「私は、部活の先輩にわかってもらって、男の先輩との関係がなくなって欲しいかな」
「そのために、男の先輩に形だけ会って、部活の先輩にわかってもらいつつ、やっぱり無理だったってことで、すぐに男の先輩の方をブロックすれば……、って考えたのか。」
「うん。そのつもりだったんだけど、男の先輩からの要求で難しくなった。」
「今日の俺と香織を見かけた人がいて、それをその先輩に伝えたってことだよな。」
あれ?香織が悩む理由の半分くらい、今日俺と出かけたのが原因なのでは……?
「なんか、ごめんな。香織」
「なんで優斗が謝るの?今日誘ったのは私だもん。優斗には何も問題ないよ」
そうは言ってもなぁ、と申し訳なく思いながら、思考を続けるが、いい方法は思いつかない。
その後も、香織と話し合うが、いい方法は浮かばず、時間ばかり過ぎていった。
俺はしょうがないと心を決めて、香織に提案する。
「明日、男の先輩と会う時に、俺も行くよ」
「いいの?そうしたら、絶対なにか迷惑かけると思うんだけど……」
「いいよ。原因は俺にもあったわけだし。それに、1人で先輩に会うより、ちょっとは安心じゃないか?」
「それは……うん。優斗がいた方が助かる。」
「じゃあそうしよう」
そう言って帰る準備をし始める。
公園を出て、自宅へと2人で歩き、前まで着いた。
「優斗、ほんとありがとね。」
香織は申し訳なさを隠し切ることが出来ておらず、ひしひしと伝わってくる。
だから、俺はできるだけ明るく話す。
「なぁ、香織。今日一日、楽しかったか?」
俺は、別れる前に聞いときたかったことを聞いた。
香織はきょとんとしてから、笑って答える。
「うん。すごく楽しかったよ!」
「なら、良かった。また明日も、楽しく2人で帰ってこようぜ」
「うん、また明日ね」
そう言って別れ、家に入る。
自分の部屋に戻り、荷物を置いて、明日のことについて考え始める。
俺はふと思い当たり、スマホを手に取った。
「ちょっと、調べてみるか」




