幼なじみと部活の大会
香織と美咲と一緒に家で遊んでから4日が経ち、6月も終わりが近づいてきた。
今日は香織と約束した部活の応援の日である。
俺は、大会会場の開場時間が10時ごろだったので、それに間に合うように電車に乗って会場へ向かう。
会場に到着し、大会本部に向かう。
大会が始まったばかりで、慌ただしい様子なので、トーナメント表や試合の予定をスマホで写真に撮り、一旦その場を離れる。
落ち着ける場所でトーナメント表を確認する。
どうやら、2日間に渡って試合が行われていくらしい。ダブルスとシングルスのどちらも出るとなると、一日で何試合することになるんだろうか。
そんなことを考えながら、香織の名前を探す。
「ええと……、あったあった。」
香織の試合は、シングルスが今まさに行われていて、その後、ダブルスがあるっぽいな。
バドミントンの大会を見に来るのは初めてなので、あっているか不安に思いつつ、予定されているコートへと向かう。
「おっいたいた。頑張ってるみたいだな。」
香織はコートの中でラケットを振っていた。
「さすが香織、上手いな。」
たまに試合をテレビで見る程度の、素人目から見ても、香織のプレーは周りと比べても上手いと言えると思う。
香織の試合を応援しつつ、香織の学校の人にバレないようにしなきゃなと、香織を応援しているであろう、部活のメンバーを探す。
「おっと、あっち側だな。」
コートの片側で香織が得点した時に歓声をあげる生徒達がいた。
その生徒達に勘づかれないように、注意して裏に回り込む。
その間にも順調に香織が攻め続け、勝利を収めた。
あまり目立たないようにと思いながら、香織に向かってガッツポーズを送る。
何とか香織が俺に気づいてくれたようで、笑顔とピースで答えてくれた。
その僅かな間に、早くも香織の応援をしていた生徒が半分以上いなくなっているのに気づく。
「試合が控えてたのかな。あっという間にいなくなっちまった。」
次の試合がすぐにあるし、そういうものなのかなと思いつつ、香織がコートを出ていくのを見送ってから、移動する。
トーナメント表を見つつ、次の試合を確認する。どうやら次の香織の試合はダブルスのようだ。
まだ時間があるため、詳しくトーナメント表を見る。
どうやら、シングルスもダブルスも勝ち続けていくと、明日も試合があるようだ。
土日続けて試合か、休みないじゃねぇかと、部活に取り組む生徒の大変さに思いを馳せつつ、次の試合のコートへと向かう。
しばらく待っていると、香織とペアの生徒の2人がコートに入っていった。
さっきの様子を参考に、試合を見やすく、香織の学校の生徒に見つからない位置を模索する。
試合が始まってから気づいたが、さっきの香織の試合の時にいた生徒がいない。
コートの片側で、香織が失点してしまうと歓声をあげる生徒達がいるが、香織が得点した時に喜んでいる様子の生徒が見当たらない。
もしやと思い、トーナメント表を詳しく見直す。
「なるほどな……、先輩のシングルスが同じタイミングでやってるのか。」
どうやら先輩の方の応援に行っているらしい。かといって、かたや部員全員、かたや0人ってどうなんだ?
スポーツ系の部活は先輩を敬うものだと理解していたつもりだが、こういうのって、半々とまでは行かなくても、2,3人くらいこっちの応援にいてもいいんじゃないのか?
中学までしか運動部に入っていなかった俺には高校の事情は分からないな。
俺個人にとっては、香織とのことをバレないようにする相手がいないってことなのでありがたいが、試合をする2人にとっては……どうだろうな。
実力にそれほど違いがあるようには見えないが、押され始めている香織たちを見て心に決める。
心の中で香織に謝りつつ、香織がペアの子と気が合うと言っていたので、悪い子ではないであろうと信じて、香織たちのプレイするコートに近づき、香織たちからよく見えるところで応援する。
香織が俺に気づいて、少し微笑んでくれた。
俺1人が応援したところで、試合の結果が変わるわけじゃないけれど、0よりは1の方がいいってことは俺にもわかる。
それから数十分、俺は1人で応援し続けた。
相手が3年生だったという事や、ペアの生徒の調子が悪かったこともあり、終始押され続けてしまい、香織たちは負けてしまった。
何か声をかけるべきかと思ったが、負けた方は次の試合の審判をしなければならないため、そんな暇もなく、次の試合が始まってしまった。
俺は、他にやることもないため、香織たちが審判をする試合を見て、時間を潰していると、香織たちの先輩と思われる生徒たちが歩いてきた。
「あっ、見てよ。もう負けて審判してるわ。」
「ほんとだー、まぁそんな気はしてたけど。」
「シングルス1回戦勝って調子乗ってたんじゃないの?」
香織の先輩と思われる生徒たちは香織たちの方を向いて、笑いながらそんなことを話している。
香織の話だと、先輩たちはいい人だって聞いていたはずだ。
とてもじゃないが、この生徒たちからいい人な感じはしない。人違いか?と思っていると、その生徒たちは来た道を戻っていった。
「なんだあれ。気分の悪い奴らだな。」
俺はついそう口に出してしまいながら、引き続き試合を眺めて時間を潰した。
それからしばらくして、香織のシングルス2回戦が始まる時間になった。予定されているコートに向かうと、今回は応援をする生徒がいることが確認できた。
その中には、さっきの気分の悪い3人組もいた。やっぱり香織の先輩だったのかと、静かに確認しつつ、目立たないように香織の応援をする。
こっそりとさっきの3人組の様子を伺うが、ちゃんと香織の応援をしているようで、女子の本当の怖さを知った気がした。
試合は、接戦だったものの、何とか香織が押し切り、2回戦も勝利を収めた。
1回戦の時と同じように香織にエールを送りつつ、その場を離れる。
それからまたしばらくして、香織の3回戦。
激しいラリーが続いたが、接戦の末負けてしまった。
まだ大会は続いていくようだが、香織の試合は終わってしまったため、俺は帰ることにする。
その日の夜、香織から電話がかかってきた。
「もしもし、優斗?今日応援ありがとね。」
「おう。すげぇかっこよかったぞ。最後の試合も惜しかったな。」
香織と今日のことについて話していく。
「ダブルスの時、近くで応援してくれてありがとね。すごく元気でたよ。」
「あー、あれな。誰も応援いないみたいだったから近くで応援しちゃったけど、迷惑じゃなかったか?」
「迷惑なわけがないよ。ペアの子も喜んでたし。」
「そっか、それならやってよかったよ。」
香織と話しながら、あの3人先輩のことが頭をよぎるが、不安にさせても行けないので、一旦黙っておくことにする。
「香織、今日は疲れてるんだから早めに寝ろよ?」
「ふふっ、ありがと。優斗も夜更かしはほどほどにするんだよ?」
香織はそう言って電話を切った。
歯磨きなどの寝る準備をしながら、今日のことを思い出していると、あの3人の先輩の言葉が引っかかる。
「香織が嫌な思いをすることが、起こらないといいんだけど。」
そんな事を思いながら、俺は眠りについた。




