いざリアル脱出ゲームへ!
青原さんと谷本の2人が、生徒会に入ってくれることになった日の帰り道。
先に帰っていた香織が駅まで迎えに来てくれ、一緒にいつもの道を歩き始めた。
「香織、2人が生徒会に入ってくれることになった」
「よかったね!これで少しでも楽に仕事を回せるようになったらいいね」
決して自分が俺のために動いていたことを主張しようとしない香織。そんなところはとてもかっこよく見えるし、美徳だと思うが、今だけはそれに甘えてたらダメだと思った。
「青原さんと谷本から聞いたよ。色々、考えてくれたんだよな。ありがとう」
「え〜、知られちゃったのか〜。影でサラッと解決に協力出来たらって思ったのにな」
「青原さんと谷本の性格的に、そうはならないな」
あの二人は、香織が俺のために何かしてるって分かったら、それがサプライズ系のものでない限り、俺本人からのお返しを促すだろう。
「ほんとに助かったよ。ありがとう。それで、何かして欲しいこととか、やりたいことはないか?お返ししたいんだけど」
「別に気にしなくていいよ?私が勝手にやった事だしね。けど、優斗は気にしちゃいそうだし……、あっ思いついた」
うむむと考えていた香織が、ぱっと顔を上げた。
「約束してた脱出ゲーム、行こうよ!」
* * *
そうと決まってしまえば早いもので、トントン拍子で日にちや内容が決まっていった。
そしてその週末。俺と香織は、約束していた集合場所で、谷本と青原さんを待っていた。
「楽しみだね。脱出出来たらいいな〜」
気分上々と言った様子の香織は、お揃いのマフラーと薄灰色のコートをオシャレに着こなし、髪は下ろされている。さらに、謎解きということで、賢い感を出したかったのか、伊達メガネをつけている。
そんな事しなくても、元々賢いのに、この行動にはその賢さが感じられないのがなんだか可愛く感じる。
いつもと違う香織に高鳴る胸を抑えつつ、気になっていたことを聞く。
「ほんと、楽しみだけどさ。お礼って、ほんとにこんなことでいいのか?」
元々約束していたし、お礼という感じは薄い。
「もう、いいって言ってるのに。これなら生徒会に入ってくれた谷本くんや桃ちゃんへのお返しにもなるって話したでしょ?」
ちなみにその2人は、電車の遅延に巻き込まれているらしく、ちょっと遅れそうらしい。
ほんとにこんなお礼でいいのかと、まだ胸に引っかかっているが、そのことを考えて、香織やみんなと楽しめなくなってしまうのは、本末転倒というもの。
このことについてはまた頭を悩ませることにして、今日を楽しむことにする。
香織も、この話はおしまい、と言うようにリアル脱出ゲームの詳細について確認し始めた。
「今日行く脱出ゲームは、お屋敷からの脱出がテーマみたい。なんでも、不慮の出来事で閉じ込められちゃうんだって」
「お屋敷に閉じ込められるのか」
「うん、そうみたい」
そう聞くと、有名なホラゲが思い浮かぶが、今回の脱出ゲームには、ホラー要素はあるのだろうか。
「暗号やからくりを解き明かして、お屋敷から脱出せよ!ってホームページには書いてた」
「俺、足引っ張りそう」
謎解きには、小学生でも解けるひらめきが重要となるものと、多少の知識や発想の転換を必要とするものがあると思っている。まぁどちらも謎解きな以上、頭を使わない訳では無いため、解くのに慣れるまで、コツがいるのは間違いないだろう。
「香織ちゃん!おまたせー!」
「わわっ、桃ちゃん」
「遅れてすまん。電車遅延してて」
「事前に知らせてくれたし、全然大丈夫だ」
無事に青原さんと谷本と合流して、脱出ゲームの会場へと向かう。
その間に香織にさっきのような説明をしてもらったり、伊達メガネを付け出した青原さんにツッコミを入れたりしているうちに、開場時間となった。
「結構人いるなぁ」
「だな。おっ、俺たちはここだ」
お屋敷からの脱出といっても、実際に屋敷に閉じ込められるなんてことはない。俺たちは、謎解きで使うであろう道具が並んだテーブルを囲むように座る。
俺たちの他にも、20グループほどが同時に謎解きに挑むようだ。
「これだけいて、どれくらいが脱出できるの?」
「友達に教えてもらったんだけど、そんなに簡単に脱出できる訳じゃないみたい」
「そう言われると燃えてくるよな」
とはいえ、一応最後には種明かしして貰えるようなので、頭を悩ませたまま終わることは無いだろう。その分、悔しさが込み上げることになるだろうけれど。
前回の文化祭での脱出ゲームでは、谷本が活躍していたので、今回もやる気満々な様子である。
「絶対脱出するよ!」
「そうだね、頑張ろ!」
やる気十分なのは青原さんと香織も同じだ。青原さんは、余程前回が悔しかったのか、日々謎解きをやっていたらしいので、それが生かされるのを願おう。
香織は前回、開催側だったので、最小限の参加だったが、今回は言わずもがな俺たちの最高戦力だろう。
俺はというと、足を引っ張らないように、3人の思考とテーブルの整理を頑張るつもりでいる。
そんなことを考えているうちに、開始時間となり、説明が始まった。
「あなたは高校に通う学生です。学校の近くには、地域でも有名な壮麗で大きなお屋敷がありました。学校を出たあなた達4人は、帰り道を歩いていると、突然の雷雨に襲われ、前を歩いていた1人の生徒に促されるままに、お屋敷の入口前で雨宿りをすることになりました」
俺たち参加者を巻き込み、臨場感のある演技と共に説明が続いていく。
「雨宿りを始めたその時、あなた達はお屋敷の扉に、鍵がかかっていないことに気が付きます。ものは試しと、力を込めると、大きな扉は音を立てて開き始めました」
「不法侵入じゃねぇか」という谷本の小声のツッコミが炸裂した。
「あなたは困惑していましたが、先ほどの1人の生徒に、ドンッと背中を押され、屋敷の中に入ってしまいます」
「こいつ黒幕だろ」という谷本のつぶやきに3人とも頷きで答える。
「あなたが屋敷に踏み入れた途端、大きく開いていた扉がまたも大きな音を立てながら、閉まってしまいました。屋敷の中にいるのはあなたたちだけ。慌てて扉を開けようとしますが、ビクともしません。そんな時、扉に何か書かれていることに気が付きます」
そんなナレーションと共に、スクリーンに映し出された映像が切り替わった。
意味が全く分からない謎解きのようなものだ。答え入力用のキーボードのようなものがついているが、ほとんどが穴抜き状態で、情報が少なすぎる。
「この謎を解くことがこの屋敷から出るための鍵だと判断したあなた。扉を壊してでも直ぐに出るべきだという意見との兼ね合いで、60分後に出口が開いていなければ、無理やりこじ開けるという方針を立て、屋敷の探索を始めました」
制限時間は60分だな。いくつ謎があるのか分からないし、時間は気にした方が良さそうだ。
説明もそこそこに、いざ謎解きが始まった。
* * *
「いえーい!脱出成功!」
謎解き脱出ゲームを終え、ファミレスで打ち上げをすることになった。
ドリンクバーから各々取ってきた飲み物の入ったグラスをもって乾杯する。
「にしても、中村さん流石だったな」
「いやいや〜、谷本くんもすごく解いてたじゃん」
各部屋に用意された謎を解いていくと、最初の扉の謎が完成し、その謎を解くことで脱出となる形だったのだが、道中の謎解きは、俺も何とか戦力になったものの、後半から谷本や香織に引っ張られる形になっていったため、2人は大活躍だと言っていいだろう。
「それにしても、桃ちゃんファインプレーだったね」
「ほんとだよな。よく考えついたよ」
「えっへん!」
谷本と香織の活躍で、スムーズに謎解きが進んで行ったものの、最後の最後、これを解けたら脱出!という謎解きで詰まった。3つの謎解きが重なり、1つ気づいただけじゃ解けないようになっていたようで、このことに青原さんが気づいていなければ、脱出出来なかっただろう。
「でもでも、気づけたのは橋崎くんが、これまでの謎解きをちゃんとまとめてくれてたからだよ」
「俺らは出てくる謎に熱中して、終わった謎は端に寄せてたもんな。助かったよ」
「そう言って貰えると嬉しいけど、完全に戦力外だったから、これくらいしか出来なかったんだよ」
俺は他3人に謎解きを任せ、順番に必要がなくなっていく資料やら道具をまとめて管理していた。最後の謎はこれまでの情報がヒントだったようで、このまとめていたことが功を奏したのである。
「誰か一人でもかけてたら脱出できてなかったってことだね」
「私たち最強!」
「ちょっと大袈裟だけど、そうだな。俺ら最強かもな」
脱出できた余韻で、テンションの高いまま、グッとガッツポーズをしあった。




