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友人と襲いかかる冬休みの宿題


「裏切り者!」

「香織ちゃんはともかく、橋崎くんまで!」

「置いていくなんて酷いとは思わないのかー!」


理不尽に怒られる俺と、巻き込まれた香織。どうしてこうなった……?



* * *



時は前日の夜まで遡る。

三が日も過ぎ去り、冬休みが終わるまであと4日。やはり短すぎる冬休みに思いを馳せていると、スマホが鳴り響いた。

例の4人のグループである。


『約束してた冬休みの勉強会がまだな件について』


谷本から、何やらメールの表題のような文章が送られてきていた。そういえば、冬休み直前のテスト勉強会の時に、そんな約束をしていたことを思い出す。


『お正月も終わっちゃったし、集まろっか』

『ならば早速明日希望!』


香織と青原さんも参戦し、トントン拍子で勉強会の開催が決まった。

ちょうど予定もなかったので、なんの問題もないが。

勉強会を提案したのが谷本で、思っている以上に乗り気な青原さんに少し疑問を抱きつつも、時間は過ぎていき、翌日となった。


香織と合流し、約束の時間に図書館に到着し、谷本と青原さんと合流した。


「あけましておめでとう!」

「あけおめことよろ〜」


大きめのカバンを持った2人と新年の挨拶を交わし、図書館の個室を借りて、テーブルに座る。


「それじゃ、早速はじめよっか。分からないとことかあったら、遠慮せず聞いてね」

「はーい香織先生!」


やる気のある青原さんを尻目に、俺は何から始めようかと、勉強道具を整理して、準備を始める。


「橋崎くんは何から始める?私はやっぱり数学から片付けようと思ってるんだけど」

「ん?俺も数学からにしようかなって思ってたけど、片付ける?」


勉強する上で、片付けるってことは……?


「俺は英語だな。数学は割とできるし、前に中村さんに教わったから詰まることなく終わった」

「ぐぬぬ、私だって国語は終わってるもん」


黙っていた香織が、少し圧と驚きを含んだ表情で、2人に問いかける。


「もしかして、2人とも、まだ冬休みの宿題が、終わってないの……?」

「う、うん。今日で終わる目処をつけようと……」

「同じく」

「ほんとに!?冬休み終わるまであと三日しかないよ!?」


うーん、ずっと優等生で、宿題を後回しにして溜め込むなんてことをしたことが無い香織からすると、信じられないんだろうなぁ。


「そ、そうだけど、ちゃんと終わらせるから!」

「ほら、橋崎だってまだだろ?」

「いや、終わってるけど」

「なにぃ!?」


例のごとく、夏休みほどの早さではなかったものの、香織指導の元、冬休み開始早々に終わらせた。


「裏切り者!」

「香織ちゃんはともかく、橋崎くんまで!」

「置いていくなんて酷いとは思わないのかー!」


そして冒頭に至る。

なにやら「裏切り者」やら「優等生」やら、貶してるのか褒めてるのか分からない言葉を喚いている2人を見ながら、香織が動き出した。


「とりあえず。終わらせよっか、今日中に」

「五七五だ」

「そんなこと言ってる場合じゃなーい!まだ3日あるし、別に今日おわらせなくても……」

「だめだよ!あと3日しか、だよ!」


うん、こうなる気はしていた。香織は気を許した相手には、優しいけど厳しいのだ。


「こ、こうなったら、答えを見てやるしか……!」

「だめだよ。それじゃ頭に残らないもん。ちゃんとやらなきゃ」

「なん、だと……」


青原さんが助けを求める目で、俺を見てくる。


「青原さん。香織がこの場にいて、宿題が終わっていないことがわかった時点で、もう選択肢はないよ。あと、宿題は香織によって、答えを見てでも時間内に終わらせるものから、きちんと学んで行うものに変わってしまったよ」

「優斗、ちょっと言い方引っかかるんだけど」


1呼吸おいてから、「まるで私が子どもを見張る先生みたいに聞こえる」と付け足す香織。その通りだよ。


「気のせい気のせい」

「ほんと?ならいいけど……。ほら、谷本くんも、やるよ」

「うぐっ」


あっ、妙に静かだと思ったら、逃げ出そうと片付け始めてやがった。香織に見つかったけど。


「さぁ、時間はあるし、頑張ろうね!」

「うう……やるしか……」

「ないな……」


諦めがついたのか、大人しく宿題をやり始めた2人。

冬休みなので、宿題はそれほど多くないのが救いだ。




「よく頑張りました!」

「終わったぜ……」

「やりきったね」

「お疲れ様だ」


香織のサポート(監視)のあって、脅威の集中力を発揮した2人は、無事に宿題を終わらせることが出来た。

ご褒美として買ってきた飲み物を2人に渡しつつ、労いの言葉をかけた。


「ありがと〜」

「さんきゅ」


香織にも渡し、宿題を乗り切ったあとの休息を取っていると、谷本が話し始めた。


「いやぁ、終わった終わった。中村さんと橋崎は、勉強する時はいっつもこんな感じなのか?」

「えーと、どうだろ」


そんな気はするが、何故か印象が薄い。

俺が考えているうちに、香織が答えた。


「一緒に勉強するようになって、最初の方はこんな感じだったけど、優斗も今は真面目に勉強するようになったから、そもそも勉強会が少なくなったかも」

「なるほどね〜」


そういう事か。確かに再開したばっかの時と比べると勉強会の頻度は少なくなったかもなぁ。


「でも、今年は増えるかもね。受験だし」

「そういや、みんなの進路って聞いたこと無かったな。俺は進学するけど、みんなも同じか?」


谷本の問いかけに、全員が頷く。


「やっぱり橋崎くんと香織ちゃんは同じ大学目指してるの?」


青原さんに聞かれて、そんな話したことがなかったことを実感した。

俺と香織にとって、進学には、あまりいい思い出がないので、無意識に避けていたのかも。


俺と香織は顔を見合せたあと、俺から話し始める。


「正直、考えたこと無かったけど、勉強するようになったからって、俺は香織と同レベルの大学には行けないよ。多分」

「私、別に有名な大学に行きたいとか、難易度が高い大学がいいとか、そんなこと無いよ?両親もこだわりないし、一人暮らしは怖いから、実家から通える範囲で考えてるし」


香織の言葉を聞いて、安心すると共に、希望が見えた気がした。その希望を、青原さんが言葉にした。


「ということは。私でも香織ちゃんと同じ大学に行ける可能性があるってこと!?」

「まだ1年あるし、頑張れば余程高レベルな大学じゃなければ受かるんじゃね?」


みんなで話していると、全員明確な夢や、目指している職業がないことが分かった。


「じゃあ、4人とも同じ大学目指して頑張っちゃう?」

「大学ってそんな決め方でいいのかよ」

「大事なのはどの大学に入るのかじゃなくて、入った大学で何するかなのだよ」

「それはそうだろうけど」


確かに、今のところは夢もなりたい職業もないけど。


「橋崎くんは、4人一緒の大学は嫌な感じ?」

「そんなわけないだろ。できるならその方が嬉しいけどさ」

「ならいいじゃん。これからやりたいことが見つかったら、その時に考えればいいだろ」


香織はどう思っているのだろうと、隣に座る香織に目を向けると、不安そうな表情に見えた。多分、俺にしか分からないだろう。


「……だな。目指そう、みんなで同じ大学にいこう」

「そうこなくっちゃ!」


4人で笑い合い、約束を交わす。


「じゃあ、そうと決まったら、もうちょっと勉強頑張ろっか!」

「「今日はもう勘弁して (くれ)!」」


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