幼なじみ彼女と初詣
年越しを香織と2人で迎えた後、お互い家に戻り、家族とも新年の挨拶をしてから、眠りについた。
翌朝、というか昼に起きた俺は、欠伸を噛み殺しつつ、リビングに降りた。
「あらおはよう。お餅食べる?」
「食べる。きなこがいいな」
「少し待ってね」
我が家族は毎年お餅を食べるが、両親はお雑煮が定番で、俺と美咲は砂糖醤油かきなこが定番なのである。
「おはよ〜、お兄ちゃん」
「美咲は猫モードか」
「そうにゃの〜」
ぐてーんとこたつで伸びている美咲と話をしつつ、母さんが持ってきてくれたお餅を食べる。
「きなこも美味しいよね〜。私も明日はきなこにしよっと」
「今日は砂糖醤油にしたのか」
「ううん、ぜんざい」
わお、ニューフェイス。
「事前にお願いしてたら作ってくれたよ」
「マジか、ちょっと俺も食べたくなってきた」
明日の楽しみゲットだぜ。
美咲と話しているうちに、思い出したことがあったので、聞いてみる。
「そういえばさ、美咲は香織にプレゼント渡したのか?」
割と時間をかけて選んでたプレゼントだったのに、あげるシーンを見てないのだ。
「えっ、うん。あげたよ?ほら、雪遊びした日に」
なんだって?いつの間に渡したんだ……?
俺の表情から、考えていることを読み取ったのか、美咲は答え合わせをしてくれる。
「ほら、帰ってきてから、お兄ちゃんが道具の片付けとかしてくれてる間に」
「あぁ、なるほど」
あの日、家に戻ってきてから、雪が着いてたり濡れてたりした道具を先に片付けようと、そそくさと家に入ったんだった。
「まったく、大切な香織お姉ちゃんへのプレゼントを忘れるわけないでしょ」
「悪い悪い、一応な」
ぺろりとお餅を平らげ、リビングでくつろごうかというタイミングで、スマホから通知音がなった。
スマホの画面には、香織からのメッセージが映し出されていた。
『初詣行かない?』
初詣かぁ。ちょっとした散歩くらいの距離に、地域の神社があるから、毎年行っているのだが、いつもなら祖父母宅なので、完全に頭から抜け落ちてた。
たまたま元旦に自宅にいることだし、せっかくなら行ってみるか。
『いいな。これから?』
『1時間後に集合でもいい?ちょっと準備があって』
『もちろん。俺もその方が助かる』
『ならよかった。また後でね!』
香織も何やら準備するようだが、俺は俺でまだパジャマだし、身支度もしてない。
とりあえず顔洗って着替えることにして、準備を始める。
「お兄ちゃん、新年早々香織お姉ちゃんとお出かけですか?」
「なんで香織確定なんだよ」
「お兄ちゃんが元旦から動くなんて、香織お姉ちゃんと一緒以外ないでしょ」
「失礼だな。まぁ当たってるけどさ」
酷い言われようである。
「初詣なんだけど、美咲も行くか?」
「うーん、新年初デートの邪魔はしないでおくよ」
「そんなこと言って、準備するのが面倒なだけだろ」
「またまた〜。2人きりの方が嬉しいくせに」
ぐぬぬ、美咲に言い負け続ける。今年中に絶対語彙力つけてやる。
勝ち誇ったような表情の美咲を知らないふりして、洗面所に向かった。
準備を済ませ、約束の時間に家を出る。
まだ香織は出てきていないようなので、寒さを誤魔化すように、手を擦りながら待つ。
「ごめんね、お待たせ」
香織は手をひらひらと振りながら、家から出てきた。
「おう、夜ぶりだな」
「うん、こんにちは、優斗」
自然と手を繋ぎ、神社に向けて歩き出す。
「にしても、元旦から初詣って、偉いな」
「前までは親戚の人たちと過ごしてたから、出来なかったんだよね。ちょっと憧れてたんだ〜」
「俺も、いつもならばあちゃん家だから、元旦にこっちの神社に行くのは初めてだよ」
香織は、興味津々といった様子で聞いてくるので、去年までの年末年始の話で盛り上がっているうちに、神社に着いたのだが。
「人多いな〜」
「だね。とりあえず、参拝の列にならぼっか」
元旦ということで、それほど有名じゃない地域の神社だが、普段の様子とは考えられないほど、人が訪れていた。
屋台のようなものも出ていて、甘酒が配られていたり、焼いたお餅が売られていたりしている。
「そういえば、お賽銭って、入れるお金で意味があったよね」
「あぁ、あるな。五円玉でご縁がありますように、とか五百円玉で、これ以上効果(硬貨)がないとかな」
まぁ、15円やら25円で2重の縁がありますようにとか、45円で始終ご縁がありますようにとか、色々あるので、結局は気持ちとか願いが大切な気もするけど。
「優斗はお賽銭、ちゃんと用意してきた?」
「ちゃんと五円玉あるぞ」
五円玉ってちょっと意識しないと財布の中に残らないんだよな。
香織と一緒にお賽銭を入れて、手を合わせる。
静かに目を開けて、香織と視線を交わしてから、その場を離れた。
「よし、おみくじ引くか!」
「初詣の醍醐味だね〜」
木槌のようなおみくじを降って、出てきた番号のおみくじを受け取る。
「さてさて、今年の運勢はっと」
「せーのっ」
2人でばっとおみくじを開き、内容を見る。
「2人とも大吉だ!」
「すごいな。なになに……?」
やはり、個人的に気になるのは学問についてだろう。
「安心して勉学せよ、か」
「私も同じだ。よかった、心配なさそうだね」
おみくじの内容を鵜呑みにする訳では無いけれど、悪いこと書いてあるよりは全然いいよな。
おみくじを見ていくと、大吉なだけあって、いいことしか書いてなかった。
「なぁ香織、大吉すごいな。いいことしか書いてないじゃん」
そう言いながら香織の方を見ると、ほんの少し横顔が赤い気がする。
「香織?なんか変なことでも書いてあったか?」
俺が香織の顔を覗き込むように見ると、香織は慌てておみくじを隠しながら答える。
「なな、なんでもない!なんでもないよ!」
「ど、どうしたんだ?」
「ほんとなんでもない!あっ、そ、それより、大吉の時はおみくじ持って帰っていいんだよね?」
「あ、ああ。まぁ厳密なルールみたいなのはないらしいけど」
「じゃあ、せっかくだし持って帰ろうね」
そう言って、屋台の方へ向かっていく香織。
なんだったんだろうと疑問を抱きつつも、香織に続いて、屋台の方へ向かっていった。




